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ネタ帳  作者: とある世界の日常を
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君は本当に異世界チートで無双をしたいのか?

 異世界転生というものは、かなりのご都合主義でガチガチに固められ、人の欲望で満たされた自己満足の妄想である。


 都合良く記憶を持ち転生し、更に都合良く上流階級の家に生まれ、更には容姿端麗文武両道で、何故かその世界の人々よりも優れた力が使え、例えそれらが無くとも後々に何らかの特別な力に目覚めたりするのだ。

 高確率で神にも会う事が出来る。


 前世では大衆に埋没するような者がだ。酷い場合だと埋没どころか底辺を通り過ぎていたりもする。


 だが気持ちは分からないでもない。


 何者にもなれない己を直視する事が出来ず、だからと言って現状を変える行動力も勇気も無い。現状の不満をただ垂れ流し、誰かがどうにかしてくれるのを待っている。そんな自分の現状に気付かないふりをして、チート無双を展開する異世界転生ものを読むだけで満足して終わるのだ。


 束の間の充足感を得て何になるのか。


 来世に期待するのではなく、今世こそを自由に生きれば良いものを。しかしそれが出来ないと思っているからこそ、人々は諦めるのだろう。


 異世界転生な来世を期待するより、今世を変える事の方が遥かに簡単で面白くあるというのに。



「・・・あぅ」


 眩しさに目を開けるも、視界がぼやけて良く見えない。疲れているのだろうか。目を擦ろうと手を伸ばすも、体が思うように動かない。拘束されている訳ではないようだ。何か事故が起きて、麻酔でも使われているのだろうかと考えた所で、大きな影が私を覆う。驚いて目を見開くも、私の視界はそれが何かをはっきりと捉える事が出来ない。辛うじて人であろうことを理解したと同時に、大きさに疑問を抱く。


「××××~」


 優し気な声色が耳に響くが、水から出たばかりの様によく聞こえない。ただこれだけははっきりと理解した。私は転生したのだ。


「うぅ~」


 柔らかな乳房から、栄養満点であろう母乳を補給する。

 不思議な気持ちだ。この記憶は何時まで保たれるのであろうか。空想の類だと、否定はしなかったが肯定もしなかった転生という現象。殆どの乳幼児は前世の記憶を保持しており、大きくなるにつれてその記憶を失うのだと聞いた事がある。極稀に保持し続ける者もいるとは言うが、実際の所は不明だ。

 自分が今の状況に至るまで、確証など至れるわけがないのだ。


 面白い体験だ。是非とも記憶を反芻して、忘れない様にしよう。まだうら若い脳は沢山の事を覚えてくれるに違いない。


 それからは前世の記憶を反芻し、今世の国語を理解する事に時間を費やした。


「よしよし、いい子ね~」


 季節が変わり、母の名前はジャミーラ、私の名前はヤスミーン。そして父の名前がアクバルという事は理解した。言葉の意味はまだ殆ど理解出来ていない。仕方があるまい。子供に話しかける言葉等限られてくるのだから。大人同士の話しをただ聞くだけで言葉を理解するなど、私には無理だ。


「ただいま」

「おかえりなさい、アクバル」

「ヤスミーンは良い子にしてたかい?」

「ええ、今日もとてもいい子だったわ」


 それでも簡単な単語が並ぶ会話なら聞き取れるようにはなった。


「ただいま、愛しいヤスミーン」

「う、お、かぇ、いぃー」


 アクバルはヤスミーンの額にキスを落とす。やっぱ外国って愛情表現がストレートだなぁ。


 徐々に理解出来る言葉も増え始め、1歳になる頃には簡単な単語を話せるようになっていた。というか1歳の子供にしては寧ろ話せる単語は少ない。何故なら前世の記憶とやらが多く残りすぎてどうにもその前世の言葉に癖のように翻訳してしまうのだ。その所為で語学の習得率は少しばかり遅れているように思う。さらに前世の言語の語彙に比べて、この世界は語彙も少ないように感じる。だからこそ、表現が直情的になるのだ。そしてどうやらここはかなりの発展途上国で、しかもそこまで裕福ではない家庭らしいのだ。

 室内の内装や両親の服装から中東ではないかと思われるが、どうにも日本語と国名さえ重ならない状況で現状把握が難しい。考えれば当たり前だ。日本という国の呼び名だって、英語だとジャパン、ドイツ語だとヤーパンと違うのだ。ドイツだって日本語ではドイツ、英語ではジャーマン、ドイツ語ではドイチュランド。しかも旅行に行った国だから覚えているだけで、知らない国の方が圧倒的に多い。

 発展途上国が他国からどう呼ばれ、更には自国ではなんという名称なのかなんて知る訳がない。


 内戦がなく、治安の良い土地でありますように、ただそう願うばかりだ。テロになんか巻き込まれたくないのは誰だって一緒だろう。日本ほどの治安の良さは望んではいない。恐らく中東ではそれは高望みというヤツになるだろう。


 日本では赤子であってもベビーカー等で外に散歩に連れ出す事は多い。散歩でなくても、通院等なにかしらで赤子を連れての外出があるのが当たり前だ。しかしここではそれはないらしい。

 母は内職をしながら私の面倒を見ている。食料は配達か、祖母が面倒を見ている間にまとめ買いに行っているようだ。量はそんなに多くない。


 歩けるようになれば外に出れるかと思いきや、母は私に外に出ては駄目だと言い聞かせる。

 外の治安がそれほどまでに悪いという事だろうか。大人の言うことは聞いていたほうがいい。結局私は歩けるようになっても外に出ることは無かった。初めて外に出たのは、7歳を過ぎてからだ。


「行ってくる」

「暗くならんうちに帰ってきいや」

「うん」

「ほら、行くよヤスミーン」

「うん」


 それでも子供一人での外出は許されていない。というよりも許可できないが正しいだろう。恐らくこの国はとても治安が悪くて、子供だけでいるという事はどうぞ私を誘拐してくださいと言っているも同然なのだと思う。最初こそそんなまさかと思ってはいたのだが、私が7歳になるまでに既に知人の子供が数人行方不明になっているのだ。そう思う他あるまい。


「ヤスミーン、ファリーナの言う事をよく聞くんだよ」

「うん」



異世界転生⇒最初は分からない。寧ろ普通に転生だと思ってた⇒多分発展途上国⇒治安がとっても悪そう⇒

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