神様のアンケート
気紛れに、神様と名乗る謎の人物が話しを聞いてくれた。
「次の世界は、スキルとか熟練度があって、レベルがあって、冒険のある世界で王侯貴族に生まれたい」
「別に今の世界にスキルや熟練度がない訳じゃないぞ。レベルだってあるだろう」
「はぁ?そんなのないじゃないですか」
「お前は料理スキルに楽器演奏スキル、歌唱スキル、木工スキル、運転スキル、ダンススキル、鉱石鑑定スキル、運動スキル、柔軟スキル、農業スキル、スケートスキル、スノボスキル、英語スキル、ドイツ語スキル・・・色々あるじゃないか。まあどれも熟練度がかなり低いが・・スキルの習得はこの世界程簡単にできる所はないぞ?」
「何処が簡単なんですか?!」
「普通はこのスキルが欲しいと思っても、それを実際に体験する事が出来る場所がない。そもそもそんなスキルがあるとさえ気付かない事も多いだろう。多分この世界が一番スキルの数も多いぞ」
「スキルがあったって一から自分で覚えなきゃいけないなら意味がないじゃないか」
「あのなぁ、他の世界でもこれは一緒だぞ」
「じゃあレベルは?これはないでしょ」
「レベルもある。同年代でもたまに凄いと思うやつがいるだろう。アレは高レベル者だ」
「レベルってどうやって上がるんですか」
「口調が乱れてるぞ。レベルは普通に生活してても上がるよ。まあスキルの熟練度を鍛える事によっても上がる。因みに、レベルを安全に上げやすいのもこの世界の特徴だぞ」
「絶対嘘だろ」
「・・・まあ、もう死んだ身だし良いだろ。特別サービスだぜ?」
そう言って神様は俺の目に何かをした。
そして指し示した先にはテレビがあって、それは現世なのだという。
「うわッ」
画面にはまるで普通の人たちしか映っていないのに、俺の頭の中にはゲームのステータス画面の様なものが飛び込んできた。
「レベルに、スキル・・・称号まである・・・」
「これは平均値に一番近い人間だな」
沢山のスキルを保有しているにも拘らず、その殆どが最低限の熟練度しかない。
「歩行スキルだけ異様に高いな」
「まあ、殆どの人間が生涯足を使って移動するからな」
「忍び足スキルなんてのもあるな」
「夜中に帰って来た時に家族を起こさない様にしてる時に取得したんだろ」
「それなりに熟練度高いのが笑える」
それから色んな人のステータスを見て、何だかゲームばかりしていた自分が恥ずかしくなった。
「・・条件的には今の世界が一番お薦めなのは分かったよ。でも俺、もっとファンタジーの世界が良いんだ。魔法とか、そんな感じのが色々使える様な世界」
「・・それについても、だ。この世界は恵まれているんだぞ」
「またそれかよ・・・例えば?」
「例えばこの世界は皆が使える電力というものを使って、誰でも使える便利な道具を多く生み出している。魔法は使えれば便利ではあるかもしれないが、魔力がない者には一切使えん」
「俺には魔力を豊富にしてくれよ」
「意地汚いなぁ」
「うるせっ」
結局、神様はずっと今の世界、そして今住んでいる国がどれだけ恵まれていて素晴らしい場所なのかをプレゼンテーションしていた。
「神様、分かったからさ」
「そうか、漸く分かったか」
「うん、それでも俺、別の世界が良いんだ」
「・・・そうか」
それから俺と神様はお互い納得がいくまで話し込んだ。
どの世界にもレベルやスキル、称号はあるが、どの世界でもその世界に生きる生命には見る事が出来ないそうだ。異世界チートでよく見る鑑定とかは、その世界を外れている者しか持つ事は許されていない。つまりは観察者のみが持つ特権なのだそうだ。それは誰かから与えられるモノではなく、その立場に立った時に自然と付与されるモノであるらしく、どうする事も出来ないらしい。
「精霊は例外として生命限定の鑑定眼を持っているが、それを得た代償に言語を失ったとされている」
「言語がなかったらなんか困るの?」
「同族ともコミュニケーションがとれんからな、精霊はかなり孤独らしいぞ。まあ生命に稀に生まれる精霊の愛し子と呼ばれる者達とは何となく意思疎通できるらしいが」
「・・・俺、精霊になろうかな」
「まあ、好きにせい」
◆
「それにしても、人間とは実に不合理な生き物よ」
「だがそれが面白いのではないか」
「合理的にした事もあったが、直ぐに停滞してしまいおったからのぉ。あんときはつまらんかった」
「折角この世界はレベルもスキルの熟練度も上げやすくしたっていうのに、極一部しか熟練度を上げる事に熱中しないんだもんな」
「折角強くなっても戦争で死ぬ確率も低くなったというのに」
「いやはや、人間とは実に面白い」
「悪徳系のスキルはよう上げる奴がおるのにのう」
◆
「精霊にステータス見て貰うとか言ってたけど、精霊の愛し子スキルやったんか?」
「欲しいと言うとったからな、やったぞ」
「うわ~・・精霊に好かれても地雷の場合が多すぎて、不幸になる事の方が多いって教えてやらんかったん?」
「教えたが聞く耳を持たん」
「あ~・・」
「なんて言うんじゃったか、メンヘラじゃったかの?」
「まあ、あの人間が使う言葉に当てはめればそうだな」
「精霊の愛し子とか可愛く言うとるが、実際のとこ精霊が全力でストーカーになるようなもんじゃからなぁ」
「親しい友人とか、恋人とか出来んじゃろなぁ」
「ボッチじゃ、ボッチ」
◆
精霊ヤバイ。メンヘラガチヤバイ。
ちょっと愛が重くて、ちょっと束縛酷くて、ちょっとヤキモチやきなだけだろとか軽く見てたわ。
何が言いたいのか、常に感情をこっちに向けてくるし、ちょっとでも人に興味を持とうものなら怒りの感情を全力でこっちに向けてくるから疲れる。
特に存在の近い精霊族や妖精族、つまり亜人に興味を持つともうヤバイ。怒りがこっちだけじゃなくて、対象にも向けられる。エルフが魔法が得意で良かったよ。それでも罰金を支払わなくてはならなかったけど、下手すりゃ死んでたかもしれないんだ。
精霊の愛し子って精霊族や妖精族にも好かれてるかと思ってたけど、そういう被害とかも多々あって、あまり好かれていない。というか嫌われてる。
舌打ち怖かった。
嫌われているって知ってからは隠してから仲良くなろうと思ったけど、精霊が暴れるからまず無理。
◆
精霊と精霊の愛し子の間には子供が出来るらしい。
勿論最初からそうな訳じゃない。精霊が愛し子に無断で体の造りを変えているのだ。その所為で同族とは子が出来なくなるらしい。なんてこった。
精霊の愛し子が女の場合はエルフとかドワーフとか、実体がハッキリした存在が。男の場合は精霊が産むので、妖精とか実体があやふやなモノが生まれる。
◆
魔法だってただ便利なだけじゃなかった。
魔法を使うという事は、魔力を消費するという事だ。魔力は体内にあって、それを消費するという事は体内で生成される何かがなくなるという事だ。当然減ればまた生成する為に体は働く事になる。簡単に言えばお腹が減るのだ。魔法は結構燃費が悪い。しかもそれだけならまだしも、魔法を行使する際には若干の気持ち悪さがある。貧血の症状のようなものだ。それは一度に使う魔力が多ければ多い程顕著になる。
結果、この世界で魔力を持っていても使う人は少ない。それは俺も同じだ。
「ファンタジーなのに、夢も希望もねぇな・・・」
確かに神様は希望した能力をくれた。その世界に当てはめた常識内で、可能なものに限るけど。
それは確かにチートと呼べるものだったし、実際それで助けられる事もある。生きるってことは、何かを与えられるだけじゃなくて、自分で頑張らないと、どこかむなしいものなんだって、俺は初めて理解できた気がした。
◆
精霊になりたくて、神様にお願いした。
関係ないところから、美男美女を眺めて楽しもうと思っていたのに、ほとんどの人間にはステータスがあって、精霊はそれを見る事が出来る。しかしその情報が人間の顔を中心に覆っていて、ほとんどの人間どんな顔をしているのか認識できないのには絶望した。しかも体も見えてはいるはずなのだが、何となく男なのか女なのか認識できる程度でスタイルも何もわからない。
しかも言葉どころか感情とかもわからない。顔が見えないのだから何を考えているのかよくわからないのだ。文字での接触も試みたのだが、認識阻害がかかっているのか、文字は書けもしないし、読めもしない。認識できないので学ぶ事も出来ないのだ。せっかく転生前の記憶があっても、転生前の文字ももう認識する事が出来ない。
せっかく精霊として生まれたのに、人間としての記憶があるからかありのままを受け入れられない。精霊には基本的に形も性別もない。基本的に自我も薄く、ただそこに在るだけの存在だ。
自然が望むままに風を吹かせ、雨を降らせ、雷鳴をとどろかせる。基本的に精霊に干渉出来るのはその自然という漠然とした意志だけだ。意志と言っていいのかも定かではない、何がそれを望んでいるのか分かりもしない本当に漠然としたモノだ。精霊はただそれが望むがままの現象を起こす。
精霊に干渉出来るのはそれだけではない。動物の中にも、たまに精霊へと想いを伝えることの出来る個体が存在する。ほとんど一方通行であるが、そんな動物は希少なため、精霊は概ねその生物の望みをかなえてあげる。例えば、風を吹かせてだとか、火が欲しいだとか、水が欲しいだとか。ただそれもまた断片的な思いであるため、おそらくは完ぺきに望み通りというわけではない。精霊にとってもその思いが意味不明であれば、その望みは無視される。
あと一つ、精霊が認識できるものがある。
文字みたいなのに、文字ではない、記号みたいなもの。
おそらく、転生前でいうルーン文字みたいなものだろうか。小説とかで、ルーン文字で文章を作って精霊に命令とかやっていたけど、これでそんな高度な事が出来る訳がない。その記号はとても単純で、でもはっきりとその現象を起こすために必要なものをそろえていた。供物と望み。
なるほど、ルーン文字とはこうやって出来ているのか。
大抵の精霊はそのルーンで認識した通りの現象を引き起こす。変化のない世界では数少ない暇潰しの遊びなのだ。
そしてそれとは別次元の存在として精霊に認識される、精霊の愛し子と呼ばれる者がいる。それは結構稀な存在で、精霊はそれを見つけたら全力で執着する。そして全力で隠蔽する。上位の精霊に横取りされたくないからだ。




