世界の中心
精霊に愛された少年が、死の間際に時の狭間に閉じ込められ、箱庭の中で繰り返される時を生きるお話し。
「知らないのね、この世界は彼を中心に造られているのよ」
矮小で愚かな、傲慢な王。
馬鹿げた彼の要求に、誰もが粛々と従うのは見ていて不愉快にさえ思えた。
「今まで、この世界の誰もが何もしなかったと思うの?」
その傍らでいつも身を削る様に政務を熟していた彼女を、何とか助けたいと思った。
「ここから、誰も逃れる事は出来ない。目を逸らす事さえ愚策なのよ」
こけた頬に一滴の涙が伝う。
「本当に何も知らないのは、王だけよ」
精霊に愛された王の為に、精霊により作られた世界。
そこに人間の道理など関係ない。只ひたすらに純粋な王は、素直な気持ちで人を憎み、羨み、その感情の赴くままに治世を行う。それは治世というには余りにもお粗末で、子供の児戯に等しかった。
「王は王でなくてはならない。せめてこの世界に影響を与えぬように退位を促した。でもそれでは駄目だった」
幾度も繰り返される世界で、彼女はずっと王妃だった。
「心が擦り切れそうよ。王妃にならない道も模索したのに、彼はおそらく心の底で私が王妃である事を求めているの。意味が分からないわ。彼は私を愛しているわけでもないのに。どうして私が王妃でなくてはならないのか」
「おそらく、当てつけなのだろうけど。ここに来る前の記憶はもうほとんど残っていないわ。けどそこでは私は彼の存在さえ知らなかった。何があったのかは覚えていないわ。けれど彼にとって許せない何かがきっとあったのでしょうね。だから私だけは毎回の記憶を保持して繰り返している」
王は王妃に一切手を出していないそうだ。数多の愛人を毎夜抱き、まるで王妃に見せつけるように多くの子をなしている。子を産まない王妃を蔑む側室も少なくはない。それでも王は王妃に王妃であることを求めている。
「繰り返される歴史の中で、最初の数回は抱かれた記憶があるわ。それ以降は、気まぐれに時折。王が興味を持たないのであればと私も愛人を持った事もあるけど、そのすべてが殺されてしまった」
子をなさないからと臣下に下げ渡す事もせず、ただ飼い殺している。
「国王は、彼はあなたを愛しているのでは?」
「・・・どこに愛があるというの?あるのはただのいびつな執着だけだわ」




