異世界召喚しましょうか
異世界召喚をする理由については、異世界召喚によって顕現した者は例外なく強大なる力を内包しているからである。
強大な力を持つ理由は、異世界召喚とは本来、複数の存在を召喚しているからである。しかし顕現するのは必ず一人のみである。顕現しなかった他の存在は、全て顕現した者との融合を果たしている。
しかし完全に融合しているのは体のみである。体については召喚者が融合の補助を行っている。最も裁量の部位がそれぞれ残される為、顕現した体は美女または美男子である事が多い。その為人格を形成する魂とは見目が違う。召喚時にそれについては、それが正しい姿なのだと説明される。殆どの場合は元の姿よりも美しくなっている為、その説明で納得し喜ぶ。
因みに遺伝子レベルでの融合を果たしているので、生まれた子が親に似ていないという事態にはならない。
魂については、一番弱い魂が他の魂を内包している状態にある。その魂の内側では魂同士が食らい合い、その存在領域を無意識に争っている状態である。魂を最終的に統合出来るのは強い魂である。その為内部の統合が終わるとその魂は自らを包んでいる魂の統合を開始する。その為、一番弱い魂は最終的には消える運命にある。
極稀にではあるが、魂の統合が失敗する場合もある。その場合は核融合の様な反応が起こり、周辺を巻き込んでの消失が起こる。世界には幾つかその痕跡と思われるものが残っている。
魂の統合が成功し一番強い魂が顕現した時、その多くは人類に牙を剥く。その存在は魔王と呼ばれ、新たに勇者、または聖女が召喚され討伐隊が結成される。統合後にはそれぞれの魂の記憶が自動インストールされる。その為魔王はより多くの知識を持っている。
魔王は悲劇を繰り返さない為に色々してみたが、歴代の魔王はどれも上手くいってない。ある時魔王の一人が情報の共有の為のアイテムを作った。それ以降、次代の魔王は同じものに新たな情報を記録し次の被害者に託している。因みに表層に出ている一番魂の弱い者に真実を教える事は出来ない。というよりもいつかの魔王がそれをしたら真実に耐え切れなかった魂が消失した事があるからだ。
幾人かの魔王は魔王としての活動をしておらず、隠居生活をしていたり、召喚についての研究をしていたりする。魔王と勇者が相打ちした事もある為、情報の断絶や不明瞭な部分も多い。
幾つかの記録は人間側にも残っており、それを参考に聖女、勇者の扱いを決めいている部分がある。奴隷契約はその記録に基づいた実験の一つである。
微睡の中で全身を踏み叩かれている様な痛みと、内臓をこねくり回されている様な気持ち悪さを体験した。それで目が覚めないのが不思議なくらいの不快感を自覚したのに、まだ目覚める気がしない。
ふと気が付けばそれがマシになる方角があって、探る様にソレを求めた。
◆
「こ、ここは・・何処、ですか・・・?」
気が付けば見知らぬ場所で、立ち並ぶ美男美女に囲まれて座っていた。
「我々は貴方を歓迎致します」
在り来たりな異世界召喚で、まるでお決まりの台詞かの様に説明された出来事に呆然としつつ、結局はどうする事も出来なくて言われるがままに従った。
説明によれば、私はこの世界の不浄を清め、騎士に力を与え、そして魔王を倒す聖女なのだそうだ。
「聖女様、どうぞこちらに」
「聖女様、こちらにお着替えを」
至れり尽くせりでお風呂に入り、身嗜みを整えられ、大きな鏡で姿を見せられた。
「・・・本当に見た目が違うんですね」
「聖女様は選ばれたお方、真のお姿に目覚めたのです」
体型が違う事には直ぐに気が付いた。体は軽いし、手足が細長い。胸は綺麗なおわん型で乳首も薄い桜の様に綺麗な色をしていた。お風呂に入れられてから産毛とか、ムダ毛もない事に気が付いて驚いた。同じだと言えるのは肌の綺麗さと髪の色艶位だろうか。
褒める所は他にないのかという位、肌と髪についてしか言われなかった。
「本当の、姿・・・」
あまりにも以前と違い過ぎて、どうにもこれが自分なのだという実感がない。
元々一重で腫れぼったくつり目だった目元は、今はぱっちり二重で睫毛も長く黒目も大きい。鏡で見ているだけでも感じる目力。薄く薄情にも見える口元はふっくらと丸みを帯びており、色合いも口紅を塗っているかのように艶やかな色をしている。少しエラが張っていた輪郭はスッキリとした卵型で、優しい雰囲気の目元口元に良く似合っている。少し豚鼻気味だったものも、今は鼻筋もすっと通りまさに美女と呼べる顔立ちになっている。
これが、本当に私なのだろうか。こんなに見ていても全く実感がわかない。
本当に、私なのだろうか。
そんな気持ちとは裏腹に、体も表情も私の望む通りに違和感なく動く。
「聖女様のご準備が整いました」
「連れて参れ」
玉座の間に連れてこられれば、多くの人が私に恭しく首を垂れる。
「こちらへ」
促されるままに王族の手を取り、その傍らに立ち尽くす。人の視線が痛い。人に見られるのはあまり好きじゃない。そう考えて卑屈になっている自分を自嘲する。綺麗とは言えない、どちらかというとブスだと言われる顔を見られるのが好きではなかったのだ。傷付くのが怖かった。馬鹿にされるのが怖かった。今はとても自分とは思えない程に美しくなって、顔を見られるのだって恥ずかしい筈もないのに。染みついた習慣というものは中々治らないだろう。
王族の長々とした挨拶をただぼんやりと聞いていた。私の事も紹介していたが、私自身にコメントを求めはしないという事を事前に聞いていたので、特に注意を払う必要もないだろう。
「聖女様、お疲れでしょう。お部屋にご案内致します」
挨拶は王族が代理で交わしていた。私はただその王族の隣でニコニコと笑っていればいいだけだった。恐らくは彼よりもは疲れていないだろう。それでも慣れない事に私の精神は疲弊していた。
「宜しくお願いします」
挨拶も会話も、全て王族がしていた。私も学ぶべきかを問うたら、聖女としての活動が優先だと言われた。王族に申し訳ないので少しくらい覚えたいと言えば、王族は聖女の後見人なので頼るべきなのだと彼は言った。
「こちらが我が国に顕現為さった聖女様で・・・」
そう紹介される隣で私はただ微笑みを浮かべて大人しくしていればよかった。
毎日がただ何となく過ぎていく。
「何と愛らしい事か」
「本当に、まるでお人形のようだわ」
時々、褒めているようで馬鹿にされているのだという事は気が付いていた。でもただの中小企業の事務職に勤めていただけの会社員に何が出来るというのだ。元々いた世界では地味で根暗なうえに見目もお世辞にも可愛いとは言えないものだった。人に褒められるのは決まってその肌の綺麗さだけだ。というよりもそこしか褒める要素がなかったと言ってもいい。目立ったイジメこそなかったものの、私の容姿はいつも笑いのネタでしかなかった。
そんな私が見目が突然美しくなったからと言って、そう簡単に自信を持って周囲に接する事が出来る訳がない。周囲には今の私より見目が劣る者は確かにいるものの、同等もしくはそれ以上に美しい人はそれ以上に多かったからだ。自分は美しくなった。そう思ってはいても、身に染みた劣等感はそう簡単に拭えるものではない。
「(突然、前の私に戻ることはないのかな・・)」
降ってわいたこの状況に、言いしれない不安が首をもたげる。
「そんな顔をしないで、貴女の事は私が守るから」
誰もが羨むような美形が、私を心配そうに覗き込み柔らかで甘い笑顔を浮かべる。どうしてこんな綺麗な人が態々私を構うのだろうか。
異世界転生で聖女として扱われる⇒近衛騎士選びは取りあえず勧められた人プラス好きなタイプを選ぼうとしたら結局誘導されて勧められた人のみで構成される事に⇒世界についての勉強は特になし⇒流されるがままに聖女として活動する⇒魔王に出会う⇒魔王に同情される⇒困惑しつつも周囲に魔王は人を惑わすと言われ鵜呑みにする⇒時折記憶が飛ぶようになる⇒魔王の言葉を思い出す「例えば直前の行動を思い出せない時、決して悟られるな」⇒秘密にする⇒しかし悟られる⇒心配される(ふり)⇒安心する⇒魂が元の世界に引っ張られていると説明される⇒魂をこの世界に繋ぎとめる為に契約をして欲しいと言われる⇒あやふやに説明されている事に気付かず契約⇒実は奴隷のような契約だった⇒突如扱い方を変えられるという事はないものの、対応に粗が目立つように⇒大切にしたいからと閉じ込められたり、留守番をさせられる事が増えた⇒その間、他の者は遊び歩いている⇒一人寂しく過ごしている所に魔王が訪れる⇒お守りだと宝石の付いたネックレスを渡される。持ち主の元に戻るまじないがかけられた⇒後ろめたくて捨てるも本当に戻って来た⇒そのまま持っている事に⇒奴隷契約により、意識消失する事は一時減少する⇒しかし時が経ち、魔王としての覚醒の時がやってくる⇒怒りの魔王が目覚める⇒魔王から貰ったネックレスにより情報を得、皆殺しよりも魔王との面会を優先する⇒魔王に同情されつつも歓迎される⇒魔王もそれぞれの思惑があり、歓迎したのは良心の塊のような魔王だった。しかしそれでもこの世界の人間の事は好きになれない⇒




