ここが奈落の底なのか
崩壊した世界で自分の意思関係なく未来に送り込まれた主人公牡丹。確立していないコールドスリープにて越境した為、曖昧な記憶しかなくただ世界を彷徨う。
まるで世界が唸っている様な、鈍い痛みの中で目を覚ました。
記憶に残るのは君の失言。
「君は何処までも図太そうだね」
どうしてだろうか。
もう顔も思い出せない君の言葉が頭から離れない。
「・・仕事、行かなきゃ」
◆
無機質な部屋から出れば、長い廊下の先にエレベーターがあった。乗ってもボタンは一つしかなくて、行き先の異常だとかでエレベーターは動かなかった。位置関係的に、ここが下らしい。
窓一つない廊下は殺風景で、少し肌寒い。エレベーター横の扉を開ければ見えたのは非常階段で、見上げれば永遠に続くのではないかと思ってしまう程に先は長く見えた。階段の横にある注意書きには非常バッグを持って挑むよう記載されている。どうやら先ほどいた部屋の中にあるらしい。
部屋に戻ってもう一度よく見れば、壁と思っていたものは全て収納用の引き出しだったようだ。入り口から見て気付いたが、この部屋は恐らく丸く作られている。シェルターの様な部屋の引き出しには実に様々なものが用意されていた。
動きやすい服装に着替えて、非常バッグを背負いブーツに履き替える。ケース付きの手頃なナイフを太腿につければ一応の準備は整った様なものだろう。
「・・・お腹減った」
見つけたのは幾つかの保存食だ。あまりおいしくはなかった。
人心地着いてお腹も落ち着いた頃、私は漸く階段に向かった。
「・・・お腹いっぱい」
食事は腹八分になったところで止めた。この後階段を上るのにそうゆっくりとはしていられない気がするからだ。
上らなくては。ここを出なくては。
階段には途中途中に非常灯が灯っていて足元は比較的明るい。
それからずっと階段を上った。ただひたすらに、ゆっくりと、確実に。
最初は一日でそう長く上には進めないと思っていたが、暫く階段を上るうちにコツが掴めて、ペースはゆっくりではあるがあまり疲れない上り方というものが出来るようになった。
数時間階段を上り続けて、ふと下を見れば随分と上ったのだと実感する。
「(今、何階分上ったんだろう・・・)」
数は数えなかった。数えた方が疲れてしまう気がしたからだ。
それに外に出ればここが何で、どれ位地下にあったのかも分かると思ったというのもある。
何度も何度もグルグルグルグル階段を上って、私は漸く足を止めた。
「(明日は筋肉痛になってそうだな・・)」
どんなに効率良く体を使って階段を上っても、限界というものはある。
これ以上は無茶だ。リュックを下ろして保存食を出す。食事と休眠が必要だ。座り込んで漸く気付く。足がパンパンにむくんでいる。片手で食事をしながら、空いているもう片方の手で足をマッサージする。適当なマッサージでも何もしないよりはましだ。
リュックを枕にして、階段の踊り場に寝転ぶ。今日はもう休もう。
あれから3回の休憩を挟んだ頃、階段の非常灯が所々消えていた。最初に比べて随分と薄暗くなっていると思う。しかし幸いな事に目は既に暗がりに慣れて少しの灯りでも困る事はない。
「(でももう上は真っ暗かもしれないな)」
見上げれば暗がりが階段を吸い込むかのように広がっている。上に向かっている筈なのに、下に降りている気分だ。
一応懐中電灯がリュックには入っていた。使える事も確認しているが、単調な階段は既に目を瞑っていても上れる程度には慣れていた。
「(長い・・・)」
目覚める⇒身体能力の低下を確認⇒リハビリ⇒部屋は一つしかなく、必要なものは何処からともなく機械の働きによって運ばれる。壁から出てくる簡素ではあるが温かな食事や、汚れたら掃除だけしていくルンバ⇒身体能力の回復⇒現状の把握⇒部屋は一つしかないが、実は部屋の地下の奥底には沢山の人間が冷凍睡眠されている⇒エレベーターは起動するものの、上階のエラーにより昇降不可。その為階段で登る事に⇒準備を整えようとすればまたロボットが勝手にそろえてくれる⇒非常階段をただひたすら登る⇒踊り場で何度も休みながら幾つかの扉を越えて漸く地上に到着⇒燦々と照り付ける太陽に、鬱蒼と生い茂る樹々。まるで密林のジャングルの遺跡に迷い込んだような風景が底には広がっていた⇒非常階段は途中から樹々に浸食され、最後の扉も開いていた⇒見慣れない風景に足が竦む⇒おそらく非常階段の近くに建設したと思われる施設も木々に侵食され、建築物としての役割を果たしていない⇒しばらくは近辺のまだ部屋としてはぎりぎり使える場所を拠点にして周辺の探索を行う⇒地下シェルター建設後に増設されたらしく、地下シェルター内部にあった情報にはここの情報はない⇒探索を進めていくうちに、地下シェルター同様に電源が残っている設備を発見。調べていくうちに可変式自立思考補助機の開発施設だと判明⇒データは残っているものの、そのほとんどはすでにその機能を失っていた⇒あると便利なため、無理のない範囲でそれらを探す⇒その過程でバレーボールほどの綺麗な丸くて黒い塊を発見する⇒重さ的にもただのボールではなく、形も不自然なほどに綺麗な真鍮だった⇒持ち帰り調べてみると可変式自立思考補助機の試作機である事が分かった⇒当時の製品化されていない最新技術を駆使した試作機で、太陽光で充電が可能らしく、丸である理由はあらゆる衝撃に耐えられる形だという事で採用されたそうだ。可変式という名称の通り、稼働中はその形を変えるらしい⇒とりあえずすでに日が暮れそうなので明日早朝から充電を行うことに⇒翌朝、よく日の当たる場所にボールを放置。しようと思ったが予想以上に日光が当たる範囲が少ない⇒そのため充電が終わるまでは場所を調整しなくてはならなかった⇒本当に動くか心配ではあったがお昼を過ぎたころにボールが空中へと浮遊した⇒何が起こるのかわくわくしてみていたが、期待に反して何も起きずにただ浮いているだけ⇒




