転移先が未開過ぎて色々ヤバい
驚く事なかれ、ここは異世界だ。
ちゃんと定番通り神様にも会えたし、チート能力と言えるものを貰った。
「・・定番かと思ったのに、これはないわ~・・」
そこは人類未踏の未開の地。
怪しげな鳴き声が響き、鬱蒼と生い茂る樹々がまた恐怖を掻き立てる。
「いや、マジない。ふざけんなっ!」
こんなんでチート貰っても殆ど役に立たねぇよ!
ていうか、なんかやけにあっさり色んな能力くれるな、てかオマケ多いなと思ってたらこれかよ!
「ありえん!!」
【一人が良いって言っていたじゃありませんか。フフフ】
「一人にもほどがあるわ!」
【まあ、ちゃんと生活の基盤整えたら追加で好みの男性でも転移させて差し上げますので】
「・・・ちゃんと私の理想に適う?」
【勿論ですとも】
「怪しいなぁ・・・」
【一応、現状もそこまで苦ではないでしょう?】
「まあ、チートあるしねぇ・・」
【では、またいつか様子を見に伺いますので】
「あ、ちょ、待てよ!」
返事はない。何処かに消えてしまったようだ。
「騙された気がするわ~・・」
取りあえず知識チートや効率化とか、分析、最適化、そういった能力を使って、現状直ぐに出来る環境というものを計算する。
「・・・まあ、そうだよね」
木を切り倒そうにも道具がない。そしてその道具を作る為の知識はあるものの、直ぐに作れる様なものではない。というか作り始める事は出来るが、最優先はそれではない。寝床だ。
「魅了で他の生物に無条件で好かれるから殺される事は気にしなくてもいいけど、犯されない様に気を付けなきゃいけないんだよねぇ・・・」
つまり結局は防犯は必要なのである。
一番簡単なのはハンモックであるが、付近を分析した結果丁度いい洞窟もあるし、集めればソコソコの量の流木や折れた木、何かの動物の骨等使えそうなものがちょこちょこ落ちている。ロープに出来る程度の頑丈さを持つ蔦も近くに沢山あるので、それを使えば洞窟内にある程度の生活環境を整える事が出来るだろう。
「あの神様も、一応は生活出来る場所に落としてくれたみたいね・・・」
舞台が中世ヨーロッパ風でない事は不満だが、環境を変えたいという望みは叶ったのだ。文句を言える立場ではない。私が願いを叶えて貰ったのなら、次は私が望みを叶える番だろう。
「先ずは木切れを拾いながら洞窟に向かうか・・」
この体は神様の計らいで体力を大幅に増やして貰った。しかも自然治癒も強化している。毒は無効だし力も底上げして貰ったので、王侯貴族になっても毒殺対策とか冒険者になったら俺ツエーが出来ると気楽に思っていたのだが、まあこうなる事は予想外である。
「クソ、独り言が増えそうだわ・・・」
というか独り言でもなんでも言っていないと言葉を忘れそうだ。
神様は環境が整ったら望む男を送ると言っていたが、素直にここに送り込んでくれる気がしない。しかもいつか様子を見に来ると言ったが、そのいつかも期待できない。不老長寿までもついでにあげるね、と言ってくれた神だ。絶対長期計画でここに私を放り込んだだろう。
「まあ、多分平気だけどさ・・・絶対数十年後とか、下手すりゃ数百年後とかいう可能性もあるわ」
色々なチートを貰ったからこそ平気でいられるが、何もなければ私もお手上げだっただろう。
「川はちと遠いなぁ。水路轢かなきゃダメっぽいな」
森と洞窟を何往復もして樹々を集め、ナイフ代わりになる岩を砕きロープになる頑丈な蔦を切る。
洞窟内に頑丈な木を固定して真ん中にハンモックを作る。残りの木は入り口に固定して壁と扉を作る。扉は近代的なものではなく、押せば上に開く扉だ。
「これで取りあえずは、安心の寝床が完成したかな」
今後改良は必須であるが、急ごしらえにしては居心地は悪くない。
そうなれば次は食料の確保だ。付近には一応家畜向きの動物もいるが、まだ飼育出来る程環境が整っていない。飼育の手間と狩猟の手間、魅了という便利な能力のある私にとっては飼育の方が手間が掛かる。私の事を好きになって寄ってくる動物を殺して食べるのは気が引けるが、背に腹は代えられない。毎日狩る訳じゃないから許してね。
一応の手段として、神に祈ればパンが一切れ貰えるとは聞いているが、あの神が聞いてくれるかどうかは定かではない。早いうちに試していた方が良いだろう。
「神様~・・パンをお恵み下さい」
【ええ、早くない?食料確保諦めるの早くない?この根性無し!期待外れだよ!】
「ええ~と・・本当に貰えるか、一応の確認です」
【なに、君は神を疑うのかい?神は嘘をつかないよ】
パン一つを得るのに小一時間程説教を食らった。時間の無駄だ。あ、でも寂しくなったら説教でも良いから聞きたくなるかもしれない。そういう時に使おうかな。後はこっちから言わないと見ないだろうし、環境が向上したなと思ったら報告ついでにパン貰おう。
「・・今何時だろ、そうだ、時計が欲しいなぁ」
知識としては日時計というものを作れる。そんなに難しいものでもないのでちゃっちゃと作る。
知識って確かにあるなら一番のチートだわ。知っているか知っていないかって大きなアドバンテージ。
「開拓、しなきゃだよね~・・・」
洞窟の周辺はそこまで草木が生い茂っている訳ではないものの、土は硬く大きな石が混じっていてとてもじゃないが畑向きの土とは言えない。
分析結果によるとここは春が始まったばかりのようだし、冬と違って食料は直近で困る事はない。ならば開拓の為の道具作りを先にするべきだろう。
とは言えないない尽くしの現状では少しずつ文明のレベルを上げていくしかない。
まずは簡単な石斧からだな。
開拓に耐えうる石を分析し、石の割れやすい方向というものを分析し、別の石を使って砕く。
「めんどくさい。これ絶対マメできるやつじゃん」
石を砕く作業で手はジンジンしている上に、これが終わっても次は木を切り倒す作業が待っている。ほぼ不死に近い不老長寿とは言え結構しんどいぞ。
「知識チートは確かにある!でもこれはいくらなんでも!!もっと楽がしたいですよー!!かみさまー!!!」
丈夫な植物の蔦を編み込んでロープにして、適当な太さの木の枝に割れて尖った石を括りつける。普通は試行錯誤して使いやすいように改造して行くんだろうけど、一応知識チートを持っているので結び方とかはバッチリだ。
「ふんぬ!!」
ただしそれを扱うのは私自身である。
体力はたくさんあるし、疲労も休めば回復する。
「ふんぬぅ!!」
でも如何せん、作業が地道すぎる。
分かるのだ。これを作れば後々楽できると、わかってはいるのだ。しかしだな、そこに至るまでが面倒くさい。
「言っても仕方がないって分かるけど言いたい。普通転生チートとかだと周りが勝手に寄ってきて動いてくれるもんじゃないのー!!」
まあまず寄ってくる他人ってのが存在しないんだけどな!いても癒やしにしかならないもふもふたちだ。
半ばヤケクソに作業を進める。とはいえ自分の為の作業だ。手抜きはしない。地味な作業だが時間制限も何もないのだ。
「可愛いけどくっせー!」
当たり前である。彼らは風呂に入るわけでもない。確かに可愛いけど、触れ合いの後に残るのは強烈な獣臭。現実って悲しいなぁ。




