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ネタ帳  作者: とある世界の日常を
32/178

一夜の

 退屈を、紛らわせられるなら何でも良かった。

 人好きされる見目と柔らかい雰囲気は自然と警戒心というものを解けさせる。

 そんな私には、案外暗殺者という仕事は向いていたらしい。


「不思議だよね、誰も私が暗殺者だとは思わないみたい」


 既に血だまりの中で熱を失いつつある男に向かって女は優しく語りかける。浅黒い肌に鮮やかな赤が良く映える。その男は先程まで女と仲睦まじくベッドの上で愛を語らっていた。


「素敵だったよ」


 この手の中で消えゆく命を思い描きながら抱かれる事に勝る快楽はない。

 なんとなく、私を抱いた後も生きているのが気に入らないのだ。なぜか、とても。


「ああ、素敵よ。愛してる」


 この手の中で消えゆく命しか、愛せない。

 これが私の、歪んだ愛。


「愛してる・・・」



 冷たい川の水で血に塗れた服を洗う。

 興奮で火照った体から血とともに熱が流れていくようだ。


「ふう・・」


 

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