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ネタ帳  作者: とある世界の日常を
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姉が異世界に無理やりついてきて支離滅裂な主張をしていまして。

 私は特別な人間だ。選ばれるのならば、私のはずだ。

 こんな妹じゃなくて、本当は私が選ばれるはずだったんだ。


「ちょ、痛いから、お姉ちゃん!」

「あんたが選ばれるとか、ありえんやろ!」


 姉の自分勝手なその主張は溢れる光と轟音にかき消され、妹に届くことは無かった。


「心よりお待ち申し上げておりました。光の巫女様」

「光の巫女!ウケる。あんたが光とか無いわ」

「いや、ちょっとお姉ちゃん、静かにしよう。騒ぐような雰囲気じゃないよ」

「・・・召喚士」

「申し訳ありません。光の巫女様のみお連れしようとしたのですが、接触面が多く共に召喚しなくては巫女様に危険が及ぶと判断しました」

「・・・そうか」


 王子は二人を見比べると、妹のほうへと膝をつき頭を垂れる。


「この度は勝手な召喚、まことに申し訳ございません。しかし世界の危機にて心苦しくも光の巫女様に頼る他ございませんでした」

「ちょっと自分勝手すぎませんか。こっちにも生活があるんですけど!勝手に召喚とか常識ないんじゃない?」

「お姉ちゃん、人の話は最後まで聞こうね」

「あんたも馬鹿じゃない。大人しく聞いてたら好きなようにされんじゃん。そうなる前に先手を打つのが常識でしょ」

「話も聞かずに決められないでしょう」

「こういうのの最近の定番は異世界人を奴隷みたいにこき使うんだから、無償労働とか強制されるよ!私だって巻き込まれたんだから、それなりにちゃんと保障して貰わないと困るんだからね!」

「お姉ちゃん、落ち着いて、ね」


 姉は王子へと向き直り、ふんぞり返って偉そうに言葉を続ける。


「私は関係ないけど巻き込まれたんだから、こっちでの生活をもちろん保障するわよね」

「・・・どうやら手違いで召喚に巻き込んでしまったようで申し訳ありません。直ぐにもとの世界に送り返して差し上げます」

「は?」

「既に召喚士が準備を始めておりますので、あと10分もすれば元の世界に返して差し上げることが出来るでしょう」

「は?そんな簡単にもとの世界に返せるわけないじゃん」

「我々は召喚した際に、光の巫女様がどうしても受けられないと仰ったときの為に帰還の準備も整えて召喚させていただいております。今回はあなた様に使わせていただきますので、御意向を確認させていただきどちらを選んだとしても光の巫女様にはこちらに数日滞在していただくことになりますが・・・」

「はい、大丈夫です。姉を元の世界に返してあげてください」

「は?何言ってんの。私が帰るとかありえないんだけど。かえるならあんたでしょ。巻き込まれたっていっても、世界は本当はあんたじゃなくて私を必要としてるんだから!それが最近の定番なんだから!」

「お姉ちゃん、定番とか、今は関係ないから・・・」


「王子、準備が整いました」

「さあ、準備が整ったようですのでどうぞご帰還ください」

「いや、話聞けよ!私は帰らないからね!」


 普段はニートでたいした体力もないくせに、こういうときに限ってかなりがんばる。火事場の馬鹿力というやつだろうか。


「妹が帰らないなら私も帰らないから!!」


 姉は今まで見せたことも無いような執念でこの世界に残った。


「お姉ちゃん、この世界でしたいことがあるの?」

「この世界でしたいことっていうか、この世界が私を求めてるのよ」


 ふふん、と鼻で笑って見せる姉に呆然としたのは言うまでもない。

 もしかして何の目的も無くあそこまでの執念を見せ、我侭で周囲を困らせてまで残ったのだというのだろうか。本当に姉の思考回路が理解できない。


「あ・・そう・・・」

「で、あんたは何してんの」

「今は簡単な護身術を習ってるよ。後はこの国の法律とか文化とか、何か学生の時よりか勉強してるよ」

「ふーん、凡人は大変ね」

「あはは・・・まあ、勉強自体はそこまで嫌いじゃないし、ここじゃスマホゲームも出来ないからサボるツールもなくて結構捗るよ。お姉ちゃんもしてみたら」

「まあ、いつかね。今はまだこの世界に慣れなくて疲れてるし」

「お姉ちゃんは何してるの?」

「・・・部屋で考え事したり、色々だよ!」

「何逆切れしてるの・・・」


 姉は言い訳ばかりする人間だ。がんばることをせずにただ人が与えてくれる結果だけを求めている。考え事と言ってもただ何か妄想を膨らましているのだろう。そうしている内に無駄に一日が過ぎ、何もしていなかったという状態なのではないかと、簡単に予測が出来る。この様子だと、本当に何もしていないのだろう。


「言えば乗馬も教えてくれるし、護身術の基礎がある程度できるようになったら剣術も学ぶ予定なんだよね。お姉ちゃんも何かやってみたら?」

「まだ疲れてるって言ったじゃん!」

「まあ、疲れが取れたらの話だよ」

「ふん、考えてやらないこともないけど」


 結局踏み出すこともせずに終わるのだろう。


「あ、もうこんな時間。私これから家庭教師が来て勉強教えて貰うことになってるから、またね。お姉ちゃんも興味があればいつでも来てみなよ。結構楽しいから」

「ま~、興味が出ればね」

「じゃ。」


 こうして色々と行動を促してはいるものの、姉は一向に行動に移そうとしない。異世界に来る前はスマホやゲーム機で暇を潰せただろうが、ここはそういったものは一切ないというのに、一体いつも何をしているのだろうか。一応本があるのだが一度魔法関連の本を借りに来て3日ほどで返却した後、書庫で一時間ほど何かを探し回ったと思えばもう来ることは無かったという。

 私も何冊かこちらの世界の本を読んだが、実用書ばかりな上に小難しい言い回しで多少の知識を得ただけでは内容を理解するのは難しいものになっていた。元の世界で描かれていた小説や漫画のように理解なしで魔法への適正が現地人より格上だとか、特殊な力を授かるだとかそういった事はない。ただひたすらに努力で身に付けるしかないのだ。


「選ばれた人間じゃない人は大変やね」

「・・・選ばれた人間であるお姉ちゃんは何かの才能に目覚めたの?」

「まだその時じゃないし。まあでも、もう直ぐだと思うわ」

「そうなんだ、凡人である私はちょっと忙しいから、もう行くね」


 いい加減に姉の相手をするのも疲れてしまった。

 私は一向に魔法の力に目覚める気配もない。それ自体は私に何ら不都合はないのであるが、この世界の者にとってはそうではない。私自身よりも、周囲が焦れるものだと思う。本来であればその焦りは私に負の感情として向けられていたと思う。けれどそれを感じないのは、一応姉のお陰ではあるのだ。

 姉は「本当に世界に選ばれているのは私」という発言を未だに取り下げない。というよりも此方に来た当初よりも声高々に主張している。その割には努力どころか何も行動を起こしていない。まるで自分は賓客なのだからと持て成される事を未だに求め続けている。一方私はというと体術や知識、社交に必要なものなどは上達している。魔法の力に目覚めはしないものの、一応の結果を出しているのだ。しかしそれが認められているのも、比べる相手がいるからこそだ。

 姉がいない状態で、現状と何ら変わりなければきっと私への風当たりはもっと冷たいものになっていた事も十分に考えられる。予測でしかないが、概ね外れてはいないだろう。


 嫌いな訳じゃない。でも、好きな訳でもない。


「何もしないなら、帰ればいいのに・・・」


 何もせずに文句ばかり言って、優遇される事を望んでいる。義務を果たさずに権利ばかりを主張する愚か者と姉妹だなんて、恥以外の何ものでもないではないか。そう考えてしまうこと自体、失礼だとは思うし、姉を見下している事になると思う。


「・・・私だって、立派な人間って訳じゃない・・・」


 だからこそ義務も果たさずに権利を声高々に主張する姉に呆れてしまう。恐らく姉はそれを敏感に感じ取っていると思う。それが私たちが不仲な原因であるのだろうと予測は出来ても、家族相手だからこそコントロールが出来ない。これが他人であればもっと上手に隠す事も出来るだろう。


「少しくらい、頑張ってくれれば良いのに・・・」


 元々は姉が大嫌いだった。傲慢で自分の思い通りにならなければヒステリーを起こす。私を屈服させたがり、妹に命令して私を虐めたりもしていた。今思えば、私にも悪い所はあったと思う。けれど幼い子供にそんな事を考える余裕はなく、只私は姉が嫌いだった。姉だけじゃない。親も妹も先生も、全てが嫌いだと思っていた時期もあったと思う。

 少しずつ大人になって、許す事や我慢する事、流す事を覚えて、漸く嫌いではなくなった。それでも好きになった訳でもなかった。


「(あんまり深く考えると、嫌いになっちゃう・・・)」

「巫女様、お疲れ様でございます」

「お疲れ様です」

「只今姉御様にご来客中でございまして、別室でお待ちいただいても宜しいでしょうか」

「はい、構いません」


 案内され別室へと通される。と言っても居室に入る手前にある待合室だ。一応前の客と鉢合わせにならないような作りになっている。

 それにしても、姉に来客とは珍しい事もあるものだ。もしかしたら、漸くやる気を出してくれたのだろうか。待たされたのはほんの10分程度だった。


「お待たせ致しました。ご案内致します」

「ありがとうございます」


 甘い香水の香りが鼻につく。姉は驚くほど上機嫌でベッドに座っている。

 来客が男か女かは知らないが、結構親しい間柄なのかもしれない。


「何か良い事あったの?」

「まあね、でも秘密。まだ教えたらダメって言われたし」

「そう、楽しみ見つけたみたいで良かったね」

「ふふん、まあ、選ばれたのは私なんだし、アンタは凡人なんだし精々頑張れば」

「うん、頑張るね」


 姉は終始上から目線の斜め上な助言をくれつつも、珍しく上機嫌なまま会話は終わった。

 でもそれは、回数を重ねる毎に酷くなった。


「ごきげんよう。今良いでしょうか」

「お疲れ様でございます、巫女様。只今ご来客中でございまして、別室でお待ちいただいても宜しいでしょうか」

「はい、構いません」


 いつも週2回、決まった時間に来るようにしているのだが、同じ時間の来客は珍しい。もしかして前回と同じ人だろうか。前回と同じく、10分程で相手は帰ったらしく案内される。


「アンタ、タイミング悪すぎ」


 いつも決まった時間に来ているのに、タイミングも何もないだろう。

 上機嫌ではあるものの、若干の拗ねを感じる。


「時間ずらすか、曜日変えようか?」

「そうするのが当たり前やろ」

「・・・じゃあ時間ずらすね」


 この世界の時間の表記は偶然にも地球と同じ24時間だ。いつもは食事終わりの13時に来ていたのだが、15時に変更する事にした。


「-という訳ですので、時間を15時からに変更したいのですが大丈夫でしょうか」

「ああ、前回陰の日にご相談いただいた件ですね、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


 相談と言ってももし次も同じ時間で重なるようであれば、休憩という事でいただいていた長時間の休みの時間を変えても良いか確認しただけだ。変更するのに特に問題はないと許可は事前に貰っていたのだ。


 しかし何度時間を変えても姉の友人とはいつも10分、時間が重なる。何か意図を感じる様な気がするのだが、別に顔を見せに来るという訳でもない。もしかしたら姉の友人の休日が実は偶然にも私が来る曜日と同じで、本当はもっとゆっくりしたいのに私が邪魔をしているのかもしれない。

  この世界は火の日、水の日、樹の日、土の日、風の日、月の日、陰の日、陽の日の8日で1週間が構成されている。今までは樹の日、陰の日に来ていたのを、土の日、陽の日に来る事を提案してみれば、姉は少し苛立ちを交えつつそうしてくれと妹に言った。


「-という訳ですので、土の日、陽の日に変更したいのですがお願いできますでしょうか」

「ああ、前回樹の日にご相談いただいた件ですね、大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


 相談と言っても、これも前回の時間と同じく事前に確認しただけだ。

 曜日を変えた翌週の土の日、姉の友人はまたしても私と同じ時間に姉を訪れていた。


「(これは、もしかして脅しか何かだろうか。私の情報は把握していて、姉を掌握しているぞ。とか・・・)」


 でもその割には接触もしてこない。考えすぎだろうか。そもそも利点がないように感じる。


「お待たせ致しました。ご案内致します」

「ありがとうございます」


 最初こそ来訪者の後に来た時は上機嫌であったが、邪魔されるような形で私が来れば当然姉は私に対して悪感情を持つだろう。

 姉の機嫌は最高に悪かった。


「何?」

「もしかしてお相手の方、毎日来てるの?」

「・・・彼は忙しい人だから、仕事の合間に来てくれてるの。私の為に」

「そう、忙しい中でも時間作って会いに来てくれるなんて、お姉ちゃんの事好きなんだね」

「まあ、愛されてるし」


 もしかしてと思っていたが、本当に男だったとは少し驚いた。

 召喚される前は引きこもりのニートで、男もいない状態だったからこれでもかなりの進歩と言えるかもしれない。欲を言えば仕事か勉強を先にして欲しかったが、相手が結婚して姉を引き取ってくれるというのなら大歓迎だ。元の世界でもぎっくり腰を理由に仕事を選り好みしてずっと仕事が見つからず困っていたから、せめて婚活はしてくれとずっと頼んでいたのだ。

 今更、という思いがないとは言えないが、お付き合いしている男性がいるというだけでも本当に、随分な進歩なのだ。


「良かったね」


 でも相手は誰なのだろうか。会いに来るタイミングは同じだが、接触してくる訳ではないので何か裏があるとは思えない。必ず扉番に止められて別室に通される事から、私が乱入する事を期待している訳でもないと思う。

 もしかして私の先生か護衛の誰かだろうか。だから同じタイミングというよりも少し早い時間に行って、10分程時間が重なるのだろうか。でも別に先生も護衛も四六時中私に掛かり切りという訳ではない。授業は毎日あっても先生は複数おり、別の人がそれぞれの得意分野で教えている。護衛は交代制で暇がないという訳ではない筈だ。


「(ああでも、私だけに掛かり切りという訳ではないからこそ、私の所に来るタイミングで姉の所に行かなくては時間がないのかもしれない)」


 先生であれば私以外にも生徒がいたり、王城に来る事自体私に教えるタイミングでしか来れない可能性もある。そうなると私に教えた後か、教える前かに姉を訪れるしか時間がないのかもしれない。

 護衛で有れば、私を護衛する仕事以外にも鍛錬や見回り、報告書等の他の業務をしている可能性もある。となると休憩時間に行くしかない事だって考えられる。

 今まで相手を気にした事はなかったけど、案外身近な人が姉に想いを寄せているかもしれないのだ。思い出せる範囲で可能性のある人を絞ってみようかな。


「・・・」

「考え事ですか?」

「え、あ、はい。少し・・・」


 あれから思い出そうとはしたものの、毎日似たような生活を繰り返している為に細かい事を思い出せなくて相手を絞り込めなかった。今後検証していくしかない。

 姉には秘密にするよう言い含めている様なので、姉から名前を聞き出すことは難しいだろう。けれど姉の言い方から推測すると権力を持っている人だという事は分かる。なので普通の教師や騎士ではなさそうという事は分かる。少なくとも、複数人に命令を下す事の出来る権力者ではある。


「(言い方的に王子かなと思ったけど、王子とは私もあまり会ってないし、良く分からないんだよね。そもそもあの香水の香りを付けている人に心当たりがないっていうか・・・)」


 香水はそもそも本来の臭いを誤魔化す為に振りまいているだけの可能性もある。

 つまりは今考えても仕方のない事なのだ。これからも姉の所には定期的に行くのだし、今後分かる事もあるだろう。


「は?」

「だから、もう来ないでくれる?折角彼が忙しい合間を見て来てくれてんのに、アンタに気を遣って帰るとか最悪なんだけど。別にアンタが来ても嬉しくないし。マジで来なくていいわ」

「・・・そう」


 開いた口が塞がらないとはこういう事か。頭に怒りが渦巻いているのに、妙に心は落ち着き払っていた。いつか言われる気がしていた。偶然というには余りにも重なりすぎていたから。


「じゃあ、元気で」


 それだけ言い残して部屋を出た。姉からの返事はない。本当に、どうしようもない人だ。


 それから更に忙しくなり、姉については考えることをやめた。

 それがいけない事だったと気付いたときは、大概手遅れだというのに。


「いよいよ、お披露目も来月でございますね」

「先生方には感謝しています」

「貴方は意欲的でしたので、教え甲斐がありましたよ」

「そう言って頂けるのは嬉しく思います」

「・・それに比べて貴方様の姉君は、」

「姉がどうかなさいましたか?」

「あ、いえ、なんでもございませんわ」

「・・姉もお披露目に出るのでしょうか?」


 先生は肯定も否定もせず、曖昧な笑顔で暇を告げた。

 それに不安を覚えない訳がない。


「あの、最近姉はどうしているのでしょうか」


 周囲が姉について話題にする事はなかった。関わりがないからと言えばそれまでだが、同じ王城に住んでいるにも拘らず、そこまで話題に上がらないのは本当は不自然であると気付いていた。


「とても元気に過ごされていますよ」

「会いに行っても大丈夫でしょうか?」

「生憎、今は気軽に会いに行ける場所におりません」

「・・・それは、どういう事でしょうか」


 私はそこで初めて、姉の相手が国王であった事を知る。

 今姉は国王の愛妾が集う離宮に住まいを移しているそうだ。そこに入れるのは国王の愛妾か、その従者だけだという。国王の愛妾という立場は別に悪くない。というよりも姉がまさかその地位を得るとは思ってもいなかった。何も裏がないというなら手放しで喜んだ出来事だ。

 態々私の訪れる時間帯に合わせていた理由は何だ。思惑が図れずに納得できない疑惑が暗雲を齎す。


「最近疲れているようだな。悩みなら聞こう」

「王子・・・」


 王子に話してどうなるというのだ。国王が姉の元に通っていたのは私以外には周知の事実であった事は容易に想像できる。聞かなかったから答えなかったと言われてしまえばそれまでだが、それは彼らが無償の味方ではない事を証明している。


「・・無意識に姉を遠ざけていた事に気付いてしまって」


 味方ではないのなら、あまり気を許すべきではない。元々私の力量を越えた役割なのだ。役割に呑まれず、圧し潰されずに自分の状況を客観的に捉えなくては、良いように利用されてしまう。


「姉君も貴方を避けていた。仕方のない事だ」

「それでも、私達は同じ境遇にある家族でしたので」


 これまで反抗的な態度もなく従順に過ごしているにも関わらず、どうして姉に手を出したのかは分からない。只本当に国王が姉に興味を抱いただけという可能性も捨てきれてはいないのだ。態々私の来訪時間と重ねた部分には悪意を感じるが、興味がないからとこの国の情報収集を怠っていた為に判断材料がなさすぎる。だからと言って、この王子に丸々情報を求めるのは意味がない事だけは分かる。


「(味方、とまではいかなくてもいい。情報源が欲しい)」

「・・すまない。父王が貴方の姉の元に通っていた事は知っていた。だがなんと切り出せば良いか・・分からなかったのだ」

「お気になさらないで下さい。姉も望んだ関係ですし、私に否はありません」


 申し訳なさそうな表情を作る王子に悪感情を持つ事はない。

 姉も私もお互い成人した身だ。本来であればお互いに保護者の責任がなければ、扶養の義務もない。これが元の世界であれば、それこそ好きにすればいいのだ。ここでも基本的にそれは変わらない。

 だからこそ、王子に求める事も特にはないのだ。


「鍛錬の時間ですので、失礼します」


 それからは鍛錬、礼儀作法の授業等の合間に下働きの手伝いをするようになった。とは言ってもいきなり派手に動けば情報収集している事がバレてしまうので、タイミングを見てフォローする事から始まり、徐々に手伝う範囲を広げる。

 必要最低限にしていた人付き合いも、挨拶に世間話を加えて徐々に親しみを感じて貰えるよう取り計らう。親しくなった事をきっかけにたまに仕事を手伝うようになれば、違和感もないだろう。

 ゆっくりと時間をかけて、自然に馴染んでいこう。


「(お披露目には間に合わないだろうけど、何も知らないよりはマシだ)」


 国王の情報は意外と簡単に集まった。というよりも王家はスキャンダルが多いらしい。少し耳を傾ければ誰かしらが王家の噂話をしている。ここが王城という事も王家の噂を仕入れやすくしているのだろう。

 国王はどうやら女好きで有名らしい。誰にでも手を出すわけではないが、愛妾が暮す離宮には多くの女性が在籍しているらしい。多くが国内の貴族の娘であるが、数名は外国の姫君らしい。


「(姫君が愛妾とは・・その無礼が許される程度にはこの国が大国という事ね)」


 この国が大国であるという事は教えられたが、周辺国についてやどの程度の大国であるのかは教えられていない。ダンスや礼儀作法、楽器演奏に鍛錬が忙しくて国については余り勉強していない。

 役割さえ熟せば他は適当に済ませてしまえば良いと思っていたが、考えを改めなくてはいけないかもしれない。いつの間にか勢力拡大や他国侵略に手を貸している事になるのは勘弁して欲しい。


「(一応、そういった授業が受けられるか聞いてみるべき?)」


 キャラがぶれない程度に可愛くおねだりしてみよう。それが有効かどうかは知らないが、友好的な関係を維持したい思惑があるなら無下には出来ない筈だ。


「王子、この世界や国の成り立ち等の歴史も学んでみたいです」


 可愛く、は何処にいったのか、普通にお願いしているだけになってしまった。

 三姉妹の真ん中という事もあって、あまり構われる事は少なく何かしたい事や問題があっても、誰かに頼るではなく自分でなんとかしてきた。だから甘えるという行為は得意ではない。今までそれで困った事はなかったが、まさかこんなシチュエーションで困る事になるとは思わなかった。


「この国の成り立ちはお教えした通りですよ」

「もっと詳しく学んでみたいのです」

「興味を持たれるのは良い事ですね、早速教師を手配しましょう」

「ありがとうございます」


 もっと色々と聞かれるかと思ったけどそんな事は全くなく、思っていたよりも随分とあっさり王子は教師を手配してくれた。おねだりスキルいらなかったな。


「何を知りたいですか?」

「この国は世界で一番歴史のある国だと伺っています。神の導きにより光を得て国を興したと」

「ええ、そうですね」

「光の巫女とはそこに由来するのでしょうか」

「はい、そうです」


 聞けばそれに答えをくれる。でもその答えは最低限の答えで、そこから更に質問を繰り返さなくてはいけない。

 彼らは敵ではないが、味方でもない。それを嫌でも感じさせた。


「(それを理解できただけでも僥倖だわ。今までそんな事を考えなくても良い環境にいたんだもの。気付かないままに利用された未来だってあり得たのよ)」


 甘く見ていた。

 元の世界に戻る手段を用意した上での召喚であったから、利用価値など殆どないに等しく、精々自分の領地を優先して貰うとか、その程度でしかないと思っていた。

 恐らく、無理強いはしないのだろう。しかし最初に残留を選んだ時点で、何かしらの柵をつくりこの世界に留まるように動いている可能性があるのかもしれない。


「(恐らく、姉を籠絡する事で私を留める事が出来ると判断したんだわ。半ば義務感で会いに行ったりなんかしたから…)」


 実際は姉が私を縛る存在には成り得ないが、これまでの行動からそれを証明するのは難しいだろう。利用されているだけであれば、どうにかして助けたいとは思う程度に情はあるが、姉がそれを望んでいるかは疑問だ。

 それにきっかけは何であれ、気持ちが本物であれば問題ないのだ。後宮という特殊な環境の所為で正しい判断を下すのは難しい。なればこそ、姉が納得しているのであればもう私には口出しする権利のない関係ない出来事になるのだ。


「(そうよ、何がどう利用されるのかも、されているのかもまだ何もわからないんだもの。それが悪い結果になるかも、まだわからないわ)」


 言いようのない不安がグルグルと体の中で蠢いている。根拠はない。だがそれでもそれが良い結果に転がるとはどうしても思えなかった。


「最近忙しそうだね」


 そう声を掛けてきたのは護衛という事で付けられた騎士だ。格好いい騎士だという感想しかなかったが、情報収集をするようになって、彼が伯爵の5男坊ではあるものの人望も厚く見目が良い事からご婦人方にも人気の高い有力貴族だという事を知った。


「漸くこちらの生活にも慣れて参りまして、色々と楽しむ余裕もできましたのよ」

「最近は使用人の真似事もされているとか」

「元々の世界では自分でしていましたから、全てをして頂くというのは心が落ち着きませんの。たまにでもさせて頂ければ、少しほっとしますの」


 勿論そんな繊細な心は持ち合わせていない。ただの詭弁だ。それは恐らく相手も理解しているだろう。それでも表向きの理由というものは存外大切だ。


「働き者だね」

「ここで働いていらっしゃる方々には敵いませんわ」


 どうして私はこんな所でこんな建前ばかりの飾り立てた台詞を話しているのだろうか。まるで一挙手一投足を監視されているような心持ちだ。常に人目を気にしての行動も、揚げ足を取られないように注意をしながらの会話。慣れないことの連続に、もう心は随分と摩耗している。

 誰も彼もが、私を監視している。そんな感覚さえ覚える。


「(疲れた・・日本に、帰りたい)」


 権力などなくてもそれなりに自由意思が尊重され、そして自由意思で行動できた元の世界に帰りたい。その思いは日増しに強くなった。



 死ねばいいのに、それは何度も考えた事だ。

 嫌いな訳ではない。それでも邪魔に感じたり、一向に大人になれない姉にもどかしさを感じた時にふと湧き上がる感情だった。


 早く、自殺でもなんでもすればいい。何なら、私が態度で追い詰めようか。

 姉がニートで貯金もないのに親からお小遣いを貰って旅行に行ったり、その割には親に感謝する事もなくさも自分は立派な人間で自立しているという態度を取る度にその思いは湧き上がった。


 邪魔だなぁ。

 そんなに立派な人間なら、一人で生活してみてよ。


 直接言葉にした事はない。それでもそんな私の気持ちが態度に出ていたのだろう。優しく接していたつもりだったけど、姉は益々私の助言に聞く耳を持たないようになっていった。

 私もどんどん酷くなる姉の現状に目を逸らし、関係ないものと見なしていた。恐らくそれらの積み重ねが今の姉なのだ。向き合わなかった、私の罰。


「(・・・もしかしたら、殺さなくちゃいけないのかもしれない)」


 今の姉を現実に戻しても、姉は何も変わらないだろう。

 家族であるがゆえに口出しをせず、家族であるがゆえに見捨てる事も選択せず放置した。


 どうにかしなくては、そう思いながらも時は過ぎていく。向き合わなくてはいけない。

 自然と視線が姉を追った。暫く過ぎた頃、姉に良く接触する人物がいる事に気が付いた。私とは関わりの薄い人物だ。何処かで見た事のあるイケメンだと思うが、思い出せない。多分一度何処かで挨拶を受けたのだろう。綺麗な笑みで姉に接している。姉も満更ではなさそうだ。

 でもなぜだろうか、妙に背筋がざわつく。


「・・・」


 決断出来たのは、姉が何もせずに楽しそうに笑っているのにイラついたからだろうか。


「この国の法律で確認したい事があります。どなたにお伺いしたら宜しいでしょうか」

「法律については学びましたよね。何か不明点がございましたか?」

「姉の選択により、私の選ぶ道も幾つかあります。必要ないかもしれないのですが、確認と告知を先にしていた方が混乱が少なく済むかと思います」

「・・・それでしたら国王及び宰相に確認するのが宜しいでしょう」


 それからの面会までの流れは速かった。恐らく姉の処遇についてこの国も対応しきれない部分があったのだろう。当然だ。一応光の巫女として遇している女の家族なのだ。どんな人物であれ、無下に扱う事も出来ずに困っていたのかもしれない。


「ご姉妹についてお話があるとか」

「その前に一言謝罪を。私自身の問題であるのに目を逸らしていました。それによりご迷惑をお掛けしました事、誠に申し訳ございません」

「巻き込んだのはこちらだ。謝罪の必要はない」

「お心遣い感謝します」

「して、貴方の選択とは?」

「先ず姉に幾つかの道を示します。そのいずれかの道へ進む努力をするのならばそこからは姉の道です。家族ではありますが、今後一個人として扱って頂きたく存じます」

「了承した。道を選ばぬ場合は如何いたす?」

「道を選ばなかった場合は、私が引導を渡したく思っております」

「引導とは?」

「可能であれば私の手で殺したいと思っています」

「・・・そうであるか」


 その言葉に思っていた程の衝撃はなかったように思う。国王も宰相も静かにその言葉を受け入れていた。


「つきましてはその後の私の処遇についてお伺いしたく存じます。光の巫女として肉親の殺害が禁忌となるのであれば他を考えなくてはなりません。もしくはその発想自体が光の巫女として相応しくないと私を送り返して頂いても構いません」


 私が帰るとなれば、姉も帰らざる得ないだろう。ここに残るというのであれば勝手に残ればいい。恐らく光の巫女の身内という枷がなくなれば、王国も扱いに困るという事にはならないだろう。帰してやる言っているのに帰らなかったのは本人だ。それはどんな結果を招こうとも自己責任である。


「光の巫女に禁忌はない。殺害自体も今後体験する事であるし、肉親がそれに加わろうとも問題はない。巫女とはその心の在り方が重要であるのだ。時には選択し決断しなくてはならない。光の巫女は万能ではないのだから」

「しかし殺す程の罪を彼女は犯していませんよ」

「・・そうですね、なるべくなら殺したくありません。どんな姉であれ家族ですから、出来れば幸せになって欲しいと思っています。いずれかを選んでくれるのなら、陰ながら支えましょう。ですが選ばず今のまま怠惰を貪るのであれば、姉は何れ誰かに利用されるでしょう。そうなる前に、余計な諍いの芽になる可能性は摘んでおきたいのです」

「了承した。姉の処遇については其方に任せよう」

「ありがとうございます」


 数日後、私は姉と面会をした。

 話しがスムーズにいくように、二人きりではなく見張りもいる状態でだ。


「お姉ちゃんはこの後、どうしたいと思ってる?」

「はあ?何でアンタにそんな事話さなきゃいけんわけ?」

「・・今のお姉ちゃんの生活費、何処から出てると思う?」

「そりゃ国が払ってるんでしょ」

「この国に貢献している訳でもなく、国民でもないから納税もした事が無いお姉ちゃんがこの国のお金を使っているのっておかしいと思わない?」

「は?この国の奴がこっちに呼んだんじゃん!生活面倒見るとか当たり前やろ」

「でもこの国の人はお姉ちゃんの事、元の世界に帰すって言ってくれたよね」

「そんなんこの国の奴の事情やん。なんで勝手に呼んで勝手に帰されんといかんとや」

「・・・」

「呼んだからには最後まで面倒見るのが当たり前やろ!!」

「・・・どうしてそんな考えが出来るのか、私には理解出来ないんだよね。でもお姉ちゃんにとっての常識ってそうなんだね」

「つーか普通やろ」

「でもこの世界ではそれは通用しないんだよ。せめて働こうね」

「嫌やし」

「・・・私ね、もうお姉ちゃんを甘やかすのを止めようと思ってるの」

「は?甘えてないし。意味分からん」

「お姉ちゃんはさ、例えば私の友達がいきなり家に来て、何もしていないのにご飯作ってとかお風呂準備してとかお小遣い頂戴とか言ってきたらどう思う?」

「は?そんな常識ない奴追い出すに決まってるやん」

「そうだね、じゃあ私もお姉ちゃんを追い出しても可笑しくないね」

「は?私はアンタの姉やし」

「でもこの国の人にとってはお姉ちゃんの立ち位置は、私の友達位には他人だよ。というか私もただの居候みたいなものなんだよ」

「だとしても関係ないし。私はこの世界に選ばれた人間だから」

「・・・私ね、決めたの。お姉ちゃんが選ばずにこのままでいるなら、私がこの手で殺してあげるよ」


「・・・・・・は?」


「選択肢は幾つかあるよ。このままお城にいたいなら、下働きなら働かせてくれるって。私と同じように勉強するなら、奨学金みたいな感じでお金も貸してくれるって、将来返さないといけないけどね。お城から出たいなら出ても良い。下町で働きたいなら、幾つか紹介して貰えるように手を回してる。街を出たいなら冒険者みたいな仕事があるけど、女性にはあまり向かないからおすすめはしないけど初期装備代くらいにはなる金額を餞別に上げる事も出来る」


「いや、まじ意味分からんし」


「元の世界に戻る事も出来るけど、今のまま戻ってもどうせニートのまま親の脛齧るんでしょう?そんな状態で正直戻って欲しくない。けど、戻るという選択を反対もしない」

「この世界が本当に選んだのは私なのに帰れるわけないじゃん!!」

「そう思ってるならそれでいいと思う」

「それが真実だから!!!」

「ただ、今のままでいる事は私が許さない。変わらないというなら、私は貴方を殺す」

「アンタが許すとか許さんとかそんな権限ないに決まってるやろ!!!!」


 掴みかかろうとする姉を、見張りが抑え込む。引きこもりで力の弱い姉はそれを振りほどく事など出来る筈もなく、抑え込まれた状態で私を罵り続ける。


「いい加減その口を閉じろ!」

「いいの。そのまま気が済むまで言わせてあげて」


 それが肉親を見捨てる私への罰。

 口汚い言葉が耳を汚す。


「昔からそう!アンタは家族に興味がないんだ!」

「・・・興味は無くても、情はあるのよ。だから出来るなら、幸せになって欲しいと思ってる。でも努力もしない人間の寄生を許す程、出来た人間でもないのよ。一週間以内に選んで」


 枯れ果てた声を後目に部屋を後にする。

 酷く疲れた。家族に向き合うというのは、自分の弱い部分、欠点に触れるも同じことだと私は思う。

 だからこそ目を逸らしたくなり、向き合うと酷く消耗するのだ。


「私は、前に進めてるのかな・・・」


 それから1週間、姉が変わったという報告はない。

 私の伝え方も良くなかったのだろう。寧ろ意地でも変わってやるものかと、余計に意固地にさせてしまったかもしれない。あれで変わってくれるのなら、もうとっくに変わっている。

 殺す。とは口にしたものの、本当にそれでいいのか自問自答の日々が続き寝不足気味で頭が痛い。


 どんな性格であれ、両親にとっては確かに娘であるのだ。私から見て親の脛齧りで自己中心的、責任感も欠如している甘え切ったクズ。そんな姉だという認識でも私が勝手に決めて殺しても良いのだろうか。自己中なニートであっても、父に先立たれ寂しい思いをしている母にとってはいてくれるだけで嬉しいという思いがあるかもしれない。


「でも・・今のままじゃ共倒れだわ」


 どうしようもない呟きは誰に聞かれるでもなく空に消えていく。

 殺すか、帰すか、私は未だに決めかねている。殺すと決めたのに、優柔不断は私も同じだ。


「どうしたいか、決めた?」

「・・・帰る」

「・・・」


 意識改革も出来ていないのに、そのまま帰したくはない。

 関係ないと、その重荷から逃げてしまう事が出来るならどんなに楽か。


「帰ったら、どうするの?」

「アンタには関係ないし」

「・・ねえ、お姉ちゃんももう35歳なんだよ。いい加減良い人見つけて結婚するか、結婚しないなら今後お母さんに負担掛けずに一人でも生きていけるように仕事も見つけて、貯金もしなきゃ」

「アンタには関係ないっていってるやろ!!!」

「・・・せめて仕事はちゃんとして」

「うるさい!!出てけ!!!」


「・・・分かった」


 せめて苦しまずに、眠っている間に殺そう。

 それが私に出来る最後の手向け。


「なんで私が・・・私が選ばれたのに・・・」


 非現実的な今回の出来事が、姉の妄執に拍車を掛けたのかもしれない。

 昔から現実から目を背けて自分から行動する事もしないというのに、問題は何時の間にか解決するものなのだと楽観的思考で生きてきた様な人だ。大した能力もなく努力もしないのに自分は優れているのだと勘違いをし、挫折を味わっても自分に不備はなく周りの人間が、環境が悪いのだと喚き散らす。

 そんなものはどの世界でどんな場所にいてどんな仕事をしようと大して変わりはない。どこにでもソリが合わない人間もいるし、どんな仕事をしていても苦手な分野というものは関わってくる。それらと如何に折り合いをつけて生きていくのかは本人の考え方次第だ。


「そうだ、アンタ悪役なんでしょ。ヒロインの私を貶める悪役。だから上手くいかないんでしょ」

「・・お姉ちゃんも慣れない環境で疲れたんだよ。ゆっくり休んで」


 その日の夕食には睡眠薬が仕込まれており、姉は殺すと言われていたにも関わらず警戒する事なく食事口にして、今私の目の前で深い眠りについている。


「警戒していないのか、それとも何も考えていないだけか・・・多分後者だろうね」


 本当なら、出来る事なら殺したくない。私にその権利はないように思うけれども、義務がある様に感じるのは何故だろうか。多分、姉が悪く扱われないように手を回したと同時に、姉のその後をどうするのかを決めなくてはならない責任が生まれたのだ。

 殺すという義務を放棄するのであれば、私は同時に彼女がどう扱われても関わらないという事を確約しなくてはならない。そうでなければ、彼女がどんな事をしても誰も裁けなくなる。彼女の処遇について一度口を出した時点で、その処遇については私に委ねられた。彼女を付けあがらせたのは私で、その尻拭いは他ならぬ私がしなくてはならないのだ。


「・・・ごめんね」

召喚⇒姉は引きこもり我儘を言って、妹は巫女としての勉強を進める⇒毎週決まった日の決まった時間に姉と面会するも、姉は嫌がる⇒無遠慮に姉が甘えているのにイラつきを覚え忠告するも、姉は自分がしっかりしていると主張する⇒働かないなら帰るよう促すも、意味不明な主張を繰り返す⇒一応面会は続けているが、いい加減疲れていた⇒面会を繰り返すうちに、同じ時間に面会に来る人が現れる。入れ違いで面会になる為、あからさまに姉は妹を疎む様になっていた⇒時間をずらしても同じ時間に来るので遂に姉は妹にもう来るなと告げる⇒妹は姉の存在を忘れる事にする⇒お披露目パーティーが近くなって妹は姉の噂を耳にする⇒面会しようとしたら既に姉は手の届かない場所にいた。それは皇帝の後宮である⇒姉の貰い手が出来た事は喜ばしいが、何か狙いがあるのではと心配になるもそんなの考えつかない⇒取りあえず状況を飲み込むしかない⇒一方後宮に入った姉は皇帝の足が途絶えた事に苛立ちを覚えていた⇒姉は妹がこの国に留まる為の人質のようなものになったと予測⇒しかし皇帝の思惑は別にあった⇒

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