知らない何処かに転移しました。
異世界転移⇒田舎で村の慰み者になりそうなところを村の嫌われ者に拾われ難を逃れる⇒村の嫌われ者と結婚し一応は村人として扱われるように⇒夫の役に立とうと畜産を開始⇒村に受け入れられる⇒強欲な村の権力者に夫を殺される⇒お腹には子供がいるが、子供は殺すと言われる⇒村人見てみぬふり⇒無理矢理手籠めにされ愛人に⇒本妻には虐められ子供は殺される⇒畜産を始めた村に村長よりも少し権力のある役人が視察⇒妾として接待⇒役人が主人公を気に入る⇒役人が帰る日に合わせて連れ出して貰う事に⇒役人の愛人に⇒やっぱり役人の元でも本妻に疎まれる⇒この世界の事を多少は学び役人の元を逃げ出す⇒都会を目指しながら移動⇒盗賊が出る事があるが格安の乗合馬車か、割高で遠回りでも護衛もいて比較的安全が保証された乗合馬車。懐具合が厳しいので余裕が出来るまで街に滞在してお金を稼ぐ事に⇒明るいうちはジプシーのように広場で歌を唄い小銭を稼ぐ。日が暮れる頃に体を売る為に一晩買ってくれそうな人を探した⇒小綺麗で上品さも持つ為、そういう通りに近付こうとしたら紳士に声を掛けられる⇒危険な通りだと忠告だったが、知っているからとそのまま行こうとすればその紳士に買われる⇒高そうなホテルへ⇒事情を聞かれ話をすれば、紳士の愛人に誘われる⇒役人よりも力がありそうな上に、紳士の紹介で高級娼館の一室に住むことに⇒紳士は別客の相手はしなくて良いように話を通しているとの事⇒グラマラスで妖艶な美女達に囲まれて過ごす⇒紳士は毎日のように会いに来る⇒紳士がいない時に紳士の友人を名乗る男が訪ねて来る⇒半ば無理矢理手籠めにされる⇒
ここまで、本気で女で良かったと実感したのは記憶のある限りでは今回が初めてだろう。多少は女で良かったなと軽く思う事はあっても、実感を伴う事は少ない。
それはきっと発達した文化文明の中で、尚かつ平穏な日常だったからこその賜物だったのだ。
「ただいま」
「お帰りなさい」
私は今、農家の嫁として寒村の小さな家に住む男と一緒に暮らしている。何も知らないこの世界で、今はこの男だけが頼りだ。
「今日は山で教えた貰った山菜ときのこをとってきたの、見てくれる?」
「カエデは働きもんだなぁ、オラはええ嫁さ貰っただ」
「ふふ、与作さんにそう言って貰えるのは嬉しいわ」
収穫したものの入った篭を与作に渡せば、与作が食べられるモノやそうでないモノを選別していく。
「これはダメだで」
「何でダメなの?」
「これは毒だで、これ食ったら三日三晩は腹下すんさ」
「そうなんだ…与作さんは物知りなのね。もっと沢山教えて欲しいわ」
「へへへ、これは食えんけんど練って傷に付けると治りが早くなるだ」
「食べれないの?」
「食べれるけど、美味しぐねぇし薬にした方がええだ」
聞けば与作は色々な事を教えてくれる。見目はパッとしないというかぶっちゃけ不細工だし、口下手でお金も何も持っていない。聞けば適齢期はとっくに過ぎているそうだ。この小さな掘っ立て小屋のような家も手作りで、無い無い尽くしの中で漸く手に入れた自分のモノなのだと、私を嫁に迎えた日に嬉しそうに話してくれた。
「今日は森に罠も設置してみたの。兎が掛かるような小さな罠よ。暫く様子を見ようと思うの」
「村んもんに罠がある事が分がるよにしたか?」
「ええ、言われた通り目印を付けてるわ」
「それでええだ」
与作は無い無い尽くしで嫁に来たがる女がなく、妻を娶るのは諦めていた。その証拠だとでも言うように、与作の嫁となったカエデの顔を見る度に村の女はカエデを小馬鹿にするような嘲笑を浮かべた。
しかしカエデにとっては与作は中々の優良物件に思えた。両親は既になく、末っ子で我慢が当然の生活をしていた為か辛抱強く聞き分けが良い。村人の殆どが毎日風呂や水浴びをしないが、与作はカエデが頼むと風呂に入り身綺麗にしてくれた。
また村人から下に見られている与作に嫁ぐ事により、権力者の嫁等の発言力のある者との軋轢が軽減された。それによりこの村に滞在する事が可能になったのだ。与作に嫁がずに滞在していれば、いずれは慰み者にされ疎まれ打ち捨てられてしまっていただろう。その危険を想像できてしまう程に、初めて村人の前に姿を現した時は恐ろしかった。
「やや子が出来たよならはよ言うべよ」
「ええ、早く授かりたいわね」
嫁を諦めていただけに、与作はとても優しくしてくれる。多少過保護な所はあるけれども、田舎の村娘しか知らないこの小さな村ではそれは正しい警戒だろう。
手入れのされていない薄汚れた下品な田舎娘と見比べれば、都会では平均的な手入れであってもどこかの上流階級のお嬢様の様に見えてしまうだろう。所謂高嶺の花が無防備な状態で手の届く場所にいるのだ。魔が差してしまう者も出てしまうだろう。女達もそれを憂慮して1度は排斥の雰囲気になったのだ。
それを救ってくれたのが与作であった。与作が名乗り出た事により女達の空気が和らぎを見せたのだ。それを敏感に感じ取った楓は淑やかに、しかし迷わずそれに飛び付き事なきを得た。多少の揺らぎはあるものの、許容範囲だ。それも与作との子供が出来れば落ち着くであろう。
「与作さん、ウサギが捕れたわ」
罠の具合は思っていたよりも良好だ。全く罠に掛からない事も想定していたのだが、週に1回か2回は何かが掛かっている。
「ウサギは番で育てようと思うのだけど、良いかしら?」
「ペットにすんのか?」
「いいえ、家畜としてよ」
小屋は多少工夫しなくてはならないが、どうするかの目途は立てている。
「ほら、大きめの箱を作って貰ったでしょう?その中で飼おうと思ってるの」
「カエデがそうしてぇならするとええだ」
「ありがとう」
繁殖に成功して箱も増やして貰った。繁殖はこんなに簡単なのに、どうして誰もしないのだろうか。
「態々育てんでん、そこかしこにおるでの。手間ぁ掛けでまでする事じゃねんだ」
「そうなのね」
餌は人が食べれない雑草を与えれば良いだけだし、家畜にする事によって安定した供給が出来る。それに比べれば些細な事のように感じたが、畑を作るための種を与えれば植えずにそのまま食べる人々も存在するのだ。それに比べれば農耕をしているだけでも文明的だ。
「与作さん、この鳥は何という鳥なの?」
その日罠に掛かっていたのは、ずんぐりむっくりした羽の小さい鳥だった。
「そりゃジバドリだな。飛べねぇ代わりん足がでら早えんだで、よう捕まえたべな」
「罠に掛かっていたのよ」
「ジバドリん肉ぁうんめぇのよぉ。こりゃまだ若鶏だべな」
「…もう少し大きくなるまで飼って良い?」
「カエデの好きにするとええだ」
兎もある程度数が増えたので、大きい個体から消費していこう。今のうちに保存食の作り方もきちんと覚えておきたい。
与作は知れば知るほどに努力の人なのだと実感した。大抵のことは与作に聞けば解決するし、教えてくれる。手先も器用で出来ないことを探す方が難しい。
「これはこうすれば良いかしら?」
「そんもええが、こうすりゃもっとええど」
「なるほど」




