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翼を持つもの
私の母はとても美しく凛としているのにどこか貴族らしくなくて、でも貴族の鏡のようで、私の知るご令嬢方は、皆母に憧れを抱いていた。私もそんな母に憧れ、母のようになりたいとずっと思っていた。
「おいてかないで」
伸ばした手は母に届くことなく、母のあの柔らかな微笑みは瞼の裏に消えた。
「・・・夢、か」
私が結婚し、他家に嫁いだ翌年、母はいなくなった。
失踪なのか誘拐なのか、それさえも分からない程に痕跡なく、母は消えた。
「もう、5年も経つのに・・・」
その日から伯爵家は火が消えたように屋敷全体が暗くなった。
母は陽だまりのような人だった。
他者の前で凛とした姿を見せる母も美しかったが、屋敷でしか見せない無邪気な姿は人々を魅了し、明るい気持ちにさせた。貴族という柵の中でも母は自由で、何者にも縛られていなかった。




