ここで生きる
どうして、自分の人生の選択を人に委ねてしまうのだろうか。
どうして、自分の人生なのに自分の足で立たずに他者にもたれ掛かり依存するのだろうか。
なんとなく頭では分かっているけれども、自分がそうするかというと否定せざる得ない行動。他者の意見を聞く事は悪いことではない。私は無知であるし、いつでも正しい選択をするわけではない。だからこそいつでも人の意見を聞く事は忘れない。しかしその言葉を取捨選択するのは、私でなければならないのだ。それが当たり前で、そうしなくては私自身が後悔しないといえないからだ。
他者の意見を聞いたからと言って、それが正しい選択だとは限らない。というよりもいつだって正しいかどうかなんてずっと分からないのだ。だからこそ、私は自分で選ぶのだ。自分で選んだからこそ、私は結果がどうなろうと納得することが出来るのだ。
それが私の人生で、私の生き方。
それは私がどこにいようと決して変わらない根幹。
だから、私はどこでも生きていける。芯があるから。
「リリー、これ片付けといておくれ」
「はーい」
この何処か良く分からない場所に来てもう随分と経った。
最初は状況から鑑みて異世界転移したのだと思ったのだけど、良くある小説の様に冒険が始まる訳でも魔法が使えたりいきなり言語が理解出来たり特別な力があるという訳でもないし、見た感じ普通にただの人ばかりで異世界を感じさせるものがなかった為、実は発展途上国へと旅行に来て何らかの理由で一時的な記憶障害のようなものが起きているのではないかと思っている。
そんな中荷物が全て持って行かれるような盗難に遭わなかったのは幸いと言える。スマホやタブレットは残念ながら残っていなかった。恐らくもう売られてしまっているだろう。旅行雑誌は大概タブレット端末で電子書籍を購入していたので、この国の簡単な言葉さえ分からなかったのは痛かった。
人好きされるタイプの人間で良かった。女である事も良い方に働いた。お陰で警戒心を刺激する事なく住民に話しかける事が出来たし、それから住込みで働かせてもらえる流れに持って行けた。言葉は殆ど分からないけれど、身振り手振りで言っている事は何となく分かるし、言葉が分からない事を前提で向こうも仕事を振ってくれるから何とか理解出来る。母国語以外を覚えるのは苦手だ。元々英語も得意じゃないというか、嫌いだったし苦手意識が抜けていないのだ。覚えるのにはまだまだ時間が掛かるだろう。というかこの辺に住んでいる人はどうやら文盲らしく、言葉は話せるものの文字は書けないらしいのだ。なのでこちらの言葉をちゃんと覚えようにも難しい。取りあえず意味と発音を日本語でメモしている状態だ。
「また変な字を書いてんのかい?どこの貴族の子なんだか」
「?」
そんな理由で住人が言っている事は殆ど理解していない。分かるのは本当に簡単な言葉だけだ。それでも働けるのは雇い主が一度は仕事を見せてくれるからだ。見せて教えられている仕事以外にもなるべく見て覚えるようにしている。使える人間だと認識して貰わなければ、いずれ見捨てられる。彼らだって慈善事業でしている訳ではないのだから当然だ。
「ほら、早くしな」
「はい」
外見は中東を思わせる濃いめの顔で、男性の体はがっちりしているし、女性の体はメリハリがあって肉付きが良い。気候は照り付ける太陽は暑く空気が乾燥している事から南の方なのではないかと思っている。




