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悪役令嬢と野獣
「命を奪わぬ事はせめてもの慈悲だ」
「慈悲?これが慈悲ですって?」
折れていない方のヒールが湿度の高い土にめり込んでいる。整えられていない道とも言えない森の境目で、その場に似つかわしくない煌びやかなドレスが泥で汚れる。
「身一つで馬もなくこの森に置き去りにする事が慈悲!随分と悪辣な慈悲ですこと」
あまりの残忍さにむしろ笑いが止まらない。
「私に、獣に襲われ苦しみ無惨に死ねと仰っているようなものですわ。ギロチンでの死刑よりも随分と残酷で無情で、意気地のない刑ですわね」
私に死んで欲しいのに、直接手を下す度量もありませんのね。そう言って凛と立つ彼女の姿は森の中で輝いて見えた。
「お前など、手を下す価値もない」
「あら、そう」
「二度と、この国の地を踏むことは許さぬ」
「対外的には、ただの追放刑として処理するつもりですのね。でもそれは辞めた方が宜しくてよ」
「お前に何が出来る」
「私がする訳ではないわ」
崩れない柔和な笑みに悪寒が走る。負け惜しみの強がりだと分かっていても、気持ちが悪い。




