表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネタ帳  作者: とある世界の日常を
15/178

現実は非情で残酷で、そして平等だ。

「おわった。つぎ、なにする」

「次はこれをしとくれ」

「わかった」


 女将が指さしたのは洗濯物の山だ。これは仕事には直接関係のないもののはずではあるが、家族経営には良くある私物化というやつだ。職場の雇用人は使用人も同然。女将はそういう認識なのだ。まあそれも仕方がないのかもしれない。職場と自宅が同じであれば、文明の進んでいないこんな世界ではこんなもんだろう。哀しくはあるが、これが現実というヤツだ。


「いく」

「はいはい、まだ仕事が沢山あるんだから、早く戻ってくるんだよ」

「はい」


 労働基準法なんてものは存在しないこの世界で、休みも碌にないのに貰える賃金は極僅か。言葉が話せないのを良い事に、雇用側が好き勝手にしているらしい事は理解している。しかし改善してもらいたくても言葉で訴える事が出来なければ誰にも、何処にも相手にして貰えない。ここでは私みたいな人間は泣き寝入りするしかないのだ。

 売春宿でなかっただけマシなのだと、自分に言い聞かせては惨めな思いと戦っている。


「よ、ユーリ。今日も洗濯?」

「こんにちは。レティ」

「最初の頃より、随分下働きらしくなったじゃんか」

「・・?」

「小汚くなったって事だよ。ま、言っても分かんねぇか」


 洗濯場でいつも顔を合わせるのは、何処かの下働きをしているらしいレティだ。よく話し掛けては来るのだが、早口で聞き取れない上に理解している単語が極僅かなので、何を言っているのかは殆ど分からない。最初の頃は何だか嫌われているというか警戒されているようだったのに、いつの間にか親し気に話しかけてくるようになっていた。

 多分言葉が分からないからこそ、職場とかの愚痴を言っているんじゃないかと思っている。言葉が理解出来ないのであれば、言いふらしようもないからだ。


「異界人は大変だな」


 ふふん、と楽し気に発された言葉は聞き覚えがあるものだ。「異界人」恐らくは『異世界人』という意味ではないかと思っている。女将が私の紹介をする時によく使う言葉だからだ。


「異界人のユーリだよ」


 仕事を教えられ、新しい人と関わる度に女将は私をそう言って紹介していた。


「まあ、頑張んな」

「ありがとう」


 こちらの世界はぱっと見中世を連想させる外観であるが、その実態は発達した文明で彩られ、理解できない類の技術が活用されている。それは私たちの世界で言ういわゆる魔法という言葉がふさわしい現象を活用したものであるのだが、馴染んでしまえばそれらは元いた世界と殆ど変わりのない活用方で使用されており、真新しさを感じることは少ない。

 なぜならそれらの技術は道具を使って起こる現象であり、人そのものがその現象を起こすことが出来ないからだ。もしかしたらこの町にいないだけであって実際は存在するのかもしれないが、今のところ私は魔法使いという存在を見たことはない。


「ユーリ、こっちに来な」

「はい」


 ここの労働時間はとても長い。労働基準法なんてない世界だから仕方がないのかもしれないが、法律に守られて仕事をしてきた身としてはかなり辛い。肉体的にはもう慣れたけど、精神的にどうして私はこんな所にいるのだろうと、時々嫌になる。身寄りがない上に金銭に関する知識や常識のを良いことに、給金も恐らく誤魔化されているだろう。そう思える程に少ない給金だ。それでも私はここで働き続けるしか道がない。


「(せめて、言葉が分かれば・・)」


 それが無い物ねだりだという事は分かっている。それでも、そう考えずにはいられないのだ。

 自分だけで覚えようと思っても限界はある。色んなところで躓いて、結局簡単で単調な指示だけ漸く理解する事しか出来ない。


「これなに?」

「こりゃ椅子だよ」


 最初はそんな風に答えてくれていたものも、今は面倒なのか「はいはい」としか答えてくれなくなった。レティはそんな私を見て面白そうににやけている。嫌な性格だ。


「・・・」


利用する側からすれば、私は無知のままの方が扱いやすい。


小さな宿場の下働きをしている場面から始まる⇒少ない給金、というより恐らく誤魔化されているであろうと予測はしているが、言葉も文字も分からずどうしようもない⇒少ない給金から少しずつ貯蓄をしているが、一月以上働いて漸くパンが一つ買える程度しか貯まっていない⇒衣食住が保証されているから仕方がないと自分に言い聞かせている⇒個室もなく、お金を安心しておいて置ける場所も預けられる人もいない⇒数字を覚える事は出来たが、お金がいくらなのかは知らない⇒理解した数少ない言葉と動きを駆使して、買い出しを手伝いたいからお金について教えてくれと頼む⇒数字も理解出来ないのにそんなもん頼めるわけがないだろうと断られる⇒数字は理解しているという事を伝える為に色々と頑張る⇒女将は耳を貸してくれなかったが、他の女中が買い出しの交代を条件にお金について教えてくれる事に⇒使い走りのような扱いではあるが、お金の事を知るために耐え忍ぶ⇒値切り方も教えて貰い、実践する⇒そのお陰もあり買い物関係の言葉を結構覚える事が出来た⇒外に出る中で主人公に好意を持つ者も現れ、その者に言葉を教えて貰う等、努力を忘れなかった⇒その努力が遂に実り、女将にも買い出しを任される⇒少しずつ自分の担当する仕事を増やし、そして仕事を丁寧に素早く熟す事で、他の人より自分に任せたいと思って貰えるような仕事をする⇒外に出る事で平均賃金を知り、賃金の交渉へとうつる⇒解雇するよりも賃金を上げる選択をして貰えて、無事交渉終了⇒賃金から家賃、光熱費、食費を渡す事にはなるものの、貯金に回せる金額は交渉前の十倍にも増えた⇒お金の保管先は教えて貰った商業ギルドに口座を開設する予定だが、開設の為の初期費用を貯めてからの話しになるので少し先になる⇒好意を寄せてくれた青年が手伝いを申し出てくれてはいるが、頼るにはまだ若干不安が残るので恋人にしてしまう方向に動く事を決意⇒

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ