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失くしもの
失くしたと言うか欠けたと言うか、足りなくなったと言うか、表現は人それぞれだろう。それを認識した時にはすでに私は持っていなくて、最初からそうだったのか、それともどこかで喪ってしまったのか、あやふやな記憶の中ではそれを確かめることさえ出来ない。
それが哀しい訳じゃない。元々あったのかさえ不確かなものが無いからと、喪失感に苛まれる訳でもない。ただ私は人が当たり前に抱く想いというものを得られないまま生きるのだと思うと、自分が何か欠落したものなのではないかと、人ではないなにかなのではないかと思ってしまう事がある。
それが嫌な訳でもない。淡々とした日々は望むところでもある。ただ私にそれがない事で、いつか取り返しのつかない何かを、まるで昼食のパンの袋を開けるかのようになんの躊躇いもなくあっさりと実行してしまうのではないかと、時々不安になる。
私は過去、幾人かの人生を踏み荒らした。どちらかというと真面目に見える私を疑う人は少ないのか、露見する事はなかった。それは何年も続いた退屈しのぎで、お小遣い稼ぎで、露見し騒ぎになった時も罪悪感はなかった。出てきたのは調子に乗り過ぎたという思いと、面倒だからもうしない。上辺だけの謝罪をし、私の中でそれはもう終わったものになった。




