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ネタ帳  作者: とある世界の日常を
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走って隠れて

私が召喚されたのは、争いの絶えない世界だった。

魔法があり、竜に跨り剣で戦い、多くの人が簡単に死んでしまう、そんな世界。


そんな世界で今、私は五名の騎士に守られながら森の中に潜伏している。


騎士のうち三名は見つかった時の囮だ。見つかれば彼らは死地に向かわなければならない。だからこそ見つからないよう必死になっている。

騎士らは音をたてないよう、急所を守る為の金物は最低限しか身に付けていない。騎士というよりは斥候や暗殺者と言った方が納得出来る恰好をしている。


無言の手信号に、無言で頷き指示に従う。指示するのはアルベルト。熟練の騎士でこのチームのリーダーである。無口で愛想のない騎士で、最初は少しばかり気まずさを感じていたのだが、今となっては有難い。

副リーダーはアルベルトとは正反対の性格で、愛想も良く優しげな顔をしている。名はリーンハルト。潜伏の必要がない時はよく話し、色々と親切にしてくれる。

囮の騎士三人の事は忠誠心が高く、中堅の騎士が選ばれていること以外はよく知らない。メンバーが変わったからだ。愚かな私が、前任の騎士三名を殺した。


日が沈み本隊に合流し、野営地に入る。

案内される先は将軍のテントで、リーダーだけがテントに入る。報告を済ませ今日泊まるテントの指示を貰っているのだ。リーダーは無口だ。テントから出ても声は出さずに目線や合図のみで動く。それに黙ってついて行けば、ひとつのテントに辿り着く。


「おかえりなさいませ、神子様」

「ああ、お風呂に入れるんだ・・」

「ええ、そうですね」


呟いた言葉にリーンハルトが返事をしてくれる。


「嬉しい・・」

「ゆっくり入って下さい。ですがお腹も空いているでしょう?先に手と顔だけ洗って、軽く食べてからお風呂にした方がいいでしょう」

「はい、そうします」


予めそうなる事を想定していたのだろう。既に桶に湯が用意されていた。用意してくれたのは戦場での雑務を熟す兵士だ。そこは男女混合で、メンバーは時々入れ替わっているようだ。特に女性兵士の入れ替わりは多い。

タオルで手や顔の泥を落とし、用意されていた軽食のサンドイッチを頬張る。チーズとハムを硬いパンで挟んだだけのシンプルなサンドイッチではあるが、美味しく感じる。飢えていたのだ。体を温める為のシナモン風味のホットワインも身に染みる。

(これは後々知ることになるが、主人公チームの他に九つのチームが編成され、それぞれに女性兵士一人の騎士五名が選抜され、ほぼ同時刻に潜伏している。主人公チームが見つかりそうになった時は積極的に敵に姿を晒すなどの囮をしている。その為主人公チームよりも男性兵士の死亡率が高い。またチーム内の女性は一旦捕虜になり、神子でない事が分かると慰安婦にされる)


「ありがとうございます」


神子が宿泊するテントは複数あり、毎日変わるので神子自身はそれがどこなのか把握出来ていない。神子用のテントは計十二ヶ所に用意されているが、その内の十ヶ所が日替わりで使われる。その内の三ヶ所に風呂が用意され、神子チームと称される十のチームがランダムでテントを割り当てられる。完全にランダムなので、本物の神子である牡丹も毎日風呂に入れる訳では無い。

因みに神子には夜伽の栄誉が与えられる。戦場には戦果を上げるために王族が必ず参加する。だから王族と隣合うテントが割り振られる事もあるのだ。


(今回の風呂は王族セットか・・)


面倒臭い。王族との夜伽を牡丹はそう評価していた。

牡丹は既に御歳三十五。晩婚化が進んでいたとはいえ、十分に行き遅れと言える年齢だ。戦争が活発なこの世界では恐らく平均寿命は短く、婚期は早い。普通に孫がいても可笑しくない歳である。つまりおばあちゃん。

言葉にすると結構辛いな。自己ダメージ受けそう。


それでも王族は夜伽の伺いを立ててくる。祖母と変わらぬ年の女にだ。知らされてはいないが、神子には血以外にも何かしらの特別な能力のようなものがあるのどろう。でなければ王族であり、見目麗しく、体躯も素晴らしい、相手を選び放題であろう人物らが私を求める理由がない。戦場という特殊な環境下にあるという事を考慮しても、違和感が残る。これが私がまだ十代、せめて二十代前半であれば、純粋に喜び舞い上がったであろう。


風呂を上がれば用意されている夜着が二着。一つはいかにも扇動的で大胆なデザインのもので、もう一つは落ち着いた飾り気のないシンプルなデザインである。後で直接意思確認はされるものの、ここでの選択もある意味では質問の体を為している。牡丹はいつも通りシンプルな夜着を選ぶ。

夕食はいつも豪華だ。とはいえ場所故に内容は限られているが、潜伏中に吐かない為にと少量しか用意されていない朝食に比べると豪華に見えるのだ。肉入りのスープにいくつかのフルーツ。そのフルーツを搾ったジュース。朝が少ない分、夜にしっかり補給しなくては体がもたない。

神子

その血には自己治癒能力や身体能力を高める効果がある。しかしその血の効果は約半日、そしてその血を飲んでも神子が二キロメートル圏内にいなければ効力を失う。その為神子は常に戦場の中心にいなければならない。

過去、神子はただ本陣で守られるだけの存在であったが、飛竜での上空からの奇襲や潜伏兵による捨て身の奇襲で殺害された事により現在の形に収まった。

他にチームがある事は知らない。

その仕組みは解明されていないが、神子と結ばれ子が生まれれば、その子の親は老化が遅くなり長寿になる。過去には神子を軟禁し無理矢理手篭めにし子を産ませた王族もいた。恩恵は受けたものの、病弱な子しか生まれず、その子が死ねば恩恵は消えた。何度か神子に産ませたものの、いずれも病弱であった。その上無理を続けた神子は子が産めなくなってしまった。

敵兵に捕まっても殺されはしない。大切に扱われるが、させられる事は変わらない。


巫女

神子の身代わりをさせられる女性。見目や色合いが近い人だと喜ばれるが、カツラも用意されるので背格好が大きく外れていなければなれる。九人が巫女として任命される。任期は一年。一年は生活を保証され、一年の戦場を乗り越え任期が終われば多大な謝礼金が与えられ、大凡の希望の相手に嫁ぐ事が出来る。二回目のお勤めからは王族の夜伽を受ける権利が与えられる。勿論断る事も可能であるが、二回目の着任を希望する者の目的が王族である為、夜伽を断る者はいない。二回目も無事に任期終了を迎えた時、王族の子を妊娠している場合、高位貴族であれば相手の第一夫人に収まる事も可能である。地位が低い場合でも側室になる事は可能である。

神子との接触は禁止されている。過去に神子に牽制したり嫌がらせをする愚かな巫女がいた為の措置である。

敵兵に捕まっても本物の神子であるか確認するまでは大切に扱われる。神子でなくても、女なので殺される事は無い。兵士たちの慰みものになるか、高位貴族であれば身分を明かせば捕虜として身代金と引き換えに国に帰ることもできる。下位貴族や貴族でない身分の者は慰安婦になるしか道はない。たまに貴族や権力者の愛人になれる事もある。慰安婦よりはマシである。


巫女候補

巫女が任務中に死亡した場合に巫女に着任する補充人員。戦場にも付いてきて神子と巫女の世話をする。補充人員で雑用もする為、チャンスに縋る下位貴族の令嬢や王族に渡りを付けたい商人の娘、親に売られた平民が主である。前者は巫女が死んでチャンスが巡ってくる事を望んでおり、後者は巫女が生き残り戦場に出る事がないよう祈っている。

各テントに二人ずつ配置される。テントは十二ヶ所に用意されるので、巫女候補は二十四名いる。うち二ヶ所のテントは未使用なので、毎夜四名は世話の仕事もなく休んでいる。

神子や巫女とは最低限の会話のみ許されている。人ではなくテントに配置されるので、基本的に毎日違う人のお世話をする。


リーダー騎士(熟練)

各チームのリーダーに任命されている騎士。三十代から四十代の騎士である。巫女と神子の違いを知っており、本物の神子を把握している。


副官騎士(熟練)

リーダーの補佐役。基本的にリーダーと相性が良く、不足を補える技量を持つ物が選ばれる。任命権はリーダー騎士にある。神子と巫女の違いを知っており、本物の神子を把握している。


騎士(中堅、新人混合)

チームが窮地に陥った時に囮とされる騎士。忠誠心が高い者が選ばれる。神子と巫女と巫女候補の違いは知らない。ただ神子が特に強い力を持っていると聞かされている。次が巫女、巫女候補は弱いが確かに力はあるので予備という認識。

神子、巫女護衛の任務に着くと都度特別報酬が得られる。また、任務中に死ぬと特別遺族年金が支給される。


兵士

神子と巫女の雑用の手伝いをする兵士。巫女候補に負担が大きい力仕事を主に請け負っている。これは固定されておらず、希望者がランダムで任命される。やはりこの仕事にも特別手当が出るのでそれなりに人気のある仕事である。


王族

戦場には必ず大将として一人は配置される。

神子と巫女の夜伽制度からも分かるように、王族には側室がそれなりにおり、王の子供は多い。基本的に長兄が王位を継ぐ確率が高いが、戦果を上げることにより継承権は上がるので絶対ではない。その為戦場に出たがる王族は多い。

神子と繋がりが強い者が継承に有利である為、神子の関心を得る事を優先する者もいる。


過去の神子①

戦場で極限の状態に晒される最中、王族と恋に落ち、子を為した。能力が足りなかった為に正妃ではなく側室の身分であったが、そこには確かに愛があった。神子の寵愛を得たからか、彼は他の王族にはない力を発揮した。彼は誰よりも強く、逞しかった。彼は国王となり、神子は変わらず正妃にはなれなかったが、寵妃として大切に扱われた。それから時が経ち、やがて周囲は王の異変に気付く。王には老いがみられなかった。同じく神子である寵妃にも。彼らは人より五十年ほど長く生きた。死ぬ五年ほど前より徐々に老い、老衰で無くなる。子供よりも彼らは長生きだった。子らに特別な力はなかった。


過去の神子②

神子の伴侶の恩恵を欲した王族により軟禁強姦される。軟禁されて五年は生きた。五人の子を産み、何れも一歳に満たず亡くなっている。五人目を産んだ後の産褥で回復せずに亡くなる。


過去の神子③

本陣で守られていた時代の神子。本陣が奇襲を受けた時、流れ矢に当たって死んだ。その直後から神子陣営の兵士が弱くなった事に気付いた敵兵が原因が神子である事を突き止める。それから神子の存在が公になる。

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