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ネタ帳  作者: とある世界の日常を
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聖女と生贄

ちょっと改変しつつ・・・


二人同時に召喚する理由として、聖女は生贄。もう一人は王子妃にという目的がある。

聖女には言葉が与えられるが、それによって元の世界の言葉を失い、無理矢理脳に干渉された事によって魔力は溜められるものの、魔法が使えなくなる。

もう一人は言葉を与えられない代わりに、生活と教育が保証される。

そして聖女ともう一人は余り仲が良くない事が望まれる。もう一人は人間として出来ていても、聖女はもう一人を拒絶する、もう一人と仲良く出来ない様な人物が望ましい。理由は情報を共有されたり、結託されると厄介だから。


聖女は魔力タンクとして使われ、最終的には世界を安定させる為の生贄として殺される。



○登場人物○

宮園椿(みやぞの つばき) 主人公

大園美穂(おおぞの みほ) サブ主人公


・メルエム・ウェリス・フェルメリア 召喚士

・ハルムート 小間使い

・ラルフ 平民からのたたき上げ風好青年


聖女の護衛

・リストン・ウィーヴァ 小動物弟系

・ヴァイス・ミリアン 俺様風迫力イケメン

・ミカエル・シルキリアス 真面目系美男子

・カイン・ディグローダ インテリ系メガネ美形

・ランシュール・ガンドルフェ お色気担当


・キース 馬番

・クルト 主人公部屋前の門番1

・ユーリ 主人公部屋前の門番2

・アリス 主人公付きの侍女

・ラインハルト 主人公に構ってくる騎士。椿は騎士か兵士と予測している

・アルト 魔法使い

・ラリー 庭師

・エリーゼ 給仕

・レオナルド 兵士

・ゴールジア 文官

・バンガルフ 調理師

・サイモン 兵士


 あの女、宮園椿ではなく私、大園美恵が選ばれた。

 その事実がこの世界で私を支える唯一の事実。



 私はあの女が大嫌いだ。

 日本人にしては目も大きくてパッチリしている。鼻筋も通っていて肌も白い。綺麗で艶のある黒髪と上品な服装はいかにも裕福な良家のお嬢様という雰囲気をかもし出している。社交的で愛想もよく、誰かを見下す事も蔑む事も無いお綺麗なお姫様。男好きだとか性格が悪いだとか目に見える欠点さえあれば、もう少し好きになれたかもしれない。


 理想をそのまま形にしたような、完璧なあの女が私は大嫌いだ。


「大園さん、今週の金曜日に親睦会なんですが、駅前の××っていう居酒屋なんですが一緒に行きません

か?」

「今週の金曜ですか?」

「はい、その後は二次会でカラオケの予定だそうです」

「予定、確認してみます・・」


 予定は確認しなくても分かっている。ここは労働環境が整っていて残業もほとんど無いし、休日出勤もない。プライベートな予定さえ入っていなければ終電が過ぎても問題ない。勿論恋人なんて居ない私に予定なんて入っているはずも無く、行こうと思えば問題なく行ける。しかし誘われてはいるものの、一次会ならまだしも二次会は歓迎されていないのはもう数度の親睦会を経験して理解していた。


「行きたくないなぁ・・」


 弁当だからと昼は公園で一人で食べるようにしている。オシャレなカフェは私にとって居心地が悪く、入りたくない場所のひとつだ。


「・・・」


 先輩たちがあからさまに宮園椿を贔屓しているわけではない。仕事内容は私が新人の時とほとんど変わらないし、指導に偏りも無い。ただ、同じ失敗をしても私の時はもっと厳しく注意されたよね、とか。私の時は覚えるべき仕事だからって手伝ってくれなかったよね、とか。そういった小さなことの積み重ねがいやになったのだ。社員たちがあの女に構う分、あの女が私の手伝いをしようとしてくるのが、また私の神経を逆なでする。


 どれだけ私に惨めな思いをさせれば気が済むのだと。


 被害妄想だと分かっている。あの女は本当に親切で、誰に対しても優しく平等だ。もっと違う職場であれば、もしかしたら素直にあの女の優しさを受け入れることも出来ただろうか。もしくは学生のときにでも知り合っていれば、あの女を好きになることも出来たかもしれない。

 男ばかりの職場では、多少の不細工でも女性であるだけである程度ちやほやされると聞いてこの職場を選んだ。期待は外れてちやほやはされなかったけれど、女がいないというだけで気が楽だった。比べられる事も無ければ、蔑まれることも無い。女扱いはされていなかったけれど、それでもよかったんだ。

 あの女が入ってくるまでは。


 秘かに思いを寄せていた同僚も、今はもうこちらを見てもくれない。視線の先にはいつもあの女が居て、それを見るたびに私の心は傷だらけになっていく。私に優しくしてくれた先輩も、今はいつもあの女を優先する。

 どうしてお前みたいな綺麗な女がこんな職場に来るんだ。お前ならいくらでも、どんな仕事でも選びたい放題だろうに、どうしてこんな職場を選んだんだ。せめて男目当てであれば見下してやれたのに。どろどろとした汚い思いがあふれそうになる。


 あの女さえ居なくなってくれたら、最近ずっとこんなことを思ってばかりだ。



 親睦会の日に、わざと残業するために仕事を作った。一次会の中ごろに急用が出来たとそのまま帰ってしまうつもりでしたことだった。


「後で合流するから、先に行っててください」

「大園さんが残るなら私も手伝いますから、先輩たちは先に行っててください」


 宮園の言葉は予想外だし、嬉しくない言葉だった。

 宮園以外は私がいないことを気にも留めずにじゃあ先に行くかと発言した後での、宮園の発言だったのでそのまま宮園も置いて先に行くしかなかった。なんでこんな日に仕事を残してるんだよ、そんな視線が痛かった。宮園は自覚がないのか、それを気にする様子も無く残していた仕事に取り掛かる。


「男性ばかりの中に女一人だと気を使わせちゃいそうですから、後で大園さんと一緒に合流させてもらえると嬉しいです」


 そのはにかんだ笑顔はきっと男受けがいいだろう。

 手伝ってもらったことにより、想定より随分早く仕事が終わってしまった。


「ちょっとゆっくりして行きます?」


 トイレから戻ったと思えば、その手には宮園がよく飲んでいるお茶と私がよく飲んでいるジュースを持っていた。


「お疲れ様です。これでよかったですか?」

「・・ありがとう」


 宮園が私に気を使っているのは分かっている。先輩の私を立ててくれるし、何かしら気にかけてくれているのも分かっている。でも、ここでは私が先輩なのだ。気を使われるたびに、気付かされる。私に足りないものをこの女はたくさん持っている。


「・・宮園さんってさ、彼氏いないの?」

「あ~・・はい、あんまり付き合うとかって苦手で・・」

「美人なのに勿体ないね」

「え、あ・・ありがとうございます。でも東京って綺麗な人多くって、平凡な私は埋もれちゃいますよ」


 謙遜なんて望んでない。あんたが平凡なら私は何だ。


「昔のニキビ痕で肌もあんまり綺麗じゃないですし」

「・・いや、綺麗でしょ・・」

「ありがとうございます。そう言われると嬉しいです」


 ニキビ痕なんて言われて近くで見てもどれのことを言っているのか分からない程度のものだ。嫌味なくらいに謙遜して良い子ちゃんなこの女が私は大嫌いだ。

 この女が、私の目の前からいなくなれば良いのに。


「・・なんか、チカチカしてませんか?」

「蛍光灯が古くなったんでしょう」


 不意に、足元が光った。


「え・・?」

「・・っなにこれ!」


 地面は瞬く間に光を増していく。余りにも突然の出来事に足が竦み動けない。


「や、だ!足が・・床から離れない!?」


 宮園椿が手の届く範囲の私物を抱きかかえるのが見えたのを最後に、私たちは光に飲み込まれた。



「あ、足が動く・・」


 光が収まったかと思えばそこはもう知らない世界だった。民族衣装の様にも制服の様にも見える見た事のない服を着た人達は私達を取り囲んでいる。一際目立つ数名が、私達を値踏みするかのように見ている。

 ああ、これは知っている。異世界召喚というやつだ。女が召喚された事から考えてみても、きっと宮園椿が聖女で、私はその召喚に巻き込まれた一般人、所謂モブというところだろうか。ああ、嫌だ。


「大園さん、大丈夫ですか?」

「・・ええ」

「なんか、変な事になりそうですね」

「・・・」


 変な事になりそうだと言っている割には随分と落ち着いている。

 そういえばマンガもアニメもネット小説も好きだと言っていた事を思い出す。話しを合わせる為に適当な事を言っているのだと思っていたが、案外本当だったのかもしれない。


「何処の国の言葉ですかね、発音的にはラテン系の言語に近い気がしますけど・・」

「言っている事が分かるの?」

「いえ、全く。私日本語しか話せないので」


 何を手間取っているのか、漸く代表者らしき者がこちらへやってくる。嫌になるくらい綺麗な女だ。女は私と宮園を交互に見ると、これまた綺麗な笑みを浮かべた。女はそのまま手に持った杖を私の頭へと持ってくる。その行動に私の胸が高鳴る。もしかして選ばれたのは私なのだろうか。


「大園さん、まだ何も分からない状況なので・・何をされるかも分からないですし・・ちょっと抵抗してみませんか?」

「何よ、ただ杖を頭に添えてるだけじゃない」

「ほら、何だか魔法みたいな現象でこちらに来ましたし、魔法を掛けられちゃうかもしれないですし・・」


 きっと自分が選ばれなかったから、だから嫉妬しているんだ。自分が選ばれると思っていたのに、目の前の私が選ばれるのを見て、阻止したいのだ。この女は。


「そんな事あるわけないじゃない」


 何らかの呪文を唱え終わったかと思うと、頭の中に何かが流れ込んでくる。あまりの情報量に頭が痛くなる。何の情報なのか、吟味する事は難しい。只頭の中に何かが入っている事だけは理解出来た。


「終わりました」

「・・終わった、のね」


 頭痛が酷い。数日熱を出して寝込んだ時の様だ。


「頭痛は副作用でございます。鎮痛剤をお持ちしますのでお飲みください」


 女の指示で別の者が前に出てきて小瓶を差し出す。それを煽れば直ぐに頭痛はマシになった。


「先ずはご挨拶を。私は異界の召喚士、メルエム・ウェリス・フェルメリアと申します。此度は世界の危機にて貴方様をご召喚させて頂きました」

「・・本当に、私が選ばれたのね・・」

「ええ、貴方様が我らの求めていた巫女でございます。お名前をお伺いしても?」

「美穂、大園美穂です!」

「ミホ様ですね」


 口角が上がるのを止められない。ざまぁない。惨めな巻き込まれた脇役は私ではなく、あの女なのだ。ちらりと宮園の方へと視線をやれば、呆けた表情でこちらを見ている。


「彼女は帰してあげる事は出来ないのですか?」

「申し訳ありませんが、帰る術はないのです」


 邪魔だな、とまた宮園へ視線を向ける。


『・・大園さん、私の言葉分かりますか?』

「・・・言葉が分からなくなってる」

「彼女は巫女ではありませんので、言葉を与える事が出来ないのです」


 選ばれもせず、言葉も分からず、帰れない。邪魔だと思ったけど、この女が困るのを見るのも楽しいかもしれない。


『多分、向こうの言葉が分かるようになってるんだろうけど、今まで話していた言葉が分からなくなるっていうのはおかしくないかな・・』

「本当に、全く何を言っているのか分からないのね」

「仕方がありません。彼女には自力で覚えて頂く他ないのです。それよりもミホ様、今後の事を詳しくお話ししたく存じます。別室へ移動して頂いても宜しいでしょうか」

「ええ、勿論よ」


 メルエムについて部屋を出ると、幾人かが後について来る。バインダーの様なものを持っているから書記か何かだろうか。お伽噺にでも出てきそうな内装の豪華な部屋に高そうな家具と装飾品の数々に目が奪われる。


「巫女とは聖なる力をその身に留め、世界の中心にて祈りを捧げこの世界に力を与える事が出来るのです」


 メルエムの言葉は期待通りだった。

 私は選ばれた人間で、この世界にとってとても重要で、大切にされるべき存在で、先程の部屋にいた騎士たちは私を守るために志願し、選ばれた者達なのだそうだ。


「世界の転覆を目論見、ミホ様を狙う悪しき者もおります」

「恐ろしいのね」

「その為の騎士です。ミホ様をお守り致しますので、どうか御身をお任せ下さい」

「ええ・・・」

「城の警備は万全を期しておりますが、万が一という事も考えられます。絶対にお一人では行動せぬようお願い致します。そして今後は世界の為に巫女として儀式に勤しんで頂きたく存じます」

「巫女の儀式って?」

「そう難しい事ではございません。内なる清浄を保つための禊を行い、その身に聖なる力を宿す為に祈りを捧げ、恵みを与える巡業をしていただきます」


 思っていたよりも地味な仕事のように聞こえる。何よ。恵みを与える巡業って。


「魔法は使えないの?」

「はい、巫女は魔法が使用できません」

「全く使えないって訳じゃないでしょう?」


 だってこういう選ばれた者って、特別な力を授けられて騎士たちに大いなる力を与えたり、魔王のような巨悪に私だけの力が有効だったりするものでしょう。


「巫女はその身に強大な力を宿しております。その為細々とした魔法というものが使えないのです。ですが何も心配することはございません。巫女を守るために選び抜かれた騎士たちが守護いたします」

「私を守るために・・・」

「ええ、貴方の為に皆鍛えたのです」


 巫女の仕事は聞けば聞くほど退屈そうだった。でも巡業は悪くないかもしれない。先ほどの目もくらむような美しい騎士たちに守られながら、平民に感謝される旅をするのだ。うん、悪くない。


「それではお部屋に案内いたしましょう」

「はい」


 部屋から出れば、宮園が騎士たちに囲まれて楽しそうに笑みを浮かべているのが見えた。

 選ばれたのは私なのに、どうしてお前がそう楽しそうにしているのか。先ほどまでの浮かれた気分が一気に落ちる気がした。

 こちらに気付いた宮園が近付いてくる。


「こんにちは」

「・・・は?」


 突然何を言うのかと思えば、ただ挨拶をしただけだなんて意味が分からない。いや、というか今言葉が分かったのはどうしてだろうか。宮園は先ほど言葉が分からなかったはずだ。


「言葉を真似しようとしていたので、挨拶を教えたのです」

「巫女様を気にされていらっしゃいましたから、せめて言葉を話して安心させようと思ったのでしょう」

「・・・」


 優しげな表情で話す騎士たちの宮園に対する印象はよさそうだ。この短時間で男たちにここまで好印象を与えているなんて、やっぱりこんな女嫌いだ。


「そう・・・」

「彼女のことは小間使いに任せ、騎士の最終選出をいたします。ハルムート」

「はい、お任せください」


 ぱっとしない服装の男が宮園に声を掛け、端へと誘導する。

 それと同時に華やかな男たちが私の前に並ぶ。あまりの光景に目がくらみそうだ。


「皆実力のある者ばかりです。最終選別は巫女に一任致しております」

「えっと、それじゃあ・・・」


 せっかくだからとタイプの違うイケメンを選んでみた。弟系の可愛らしい容姿をしているリストン・ウィーヴァ。いかにも俺様風の迫力のある美形ヴァイス・ミリアン。静かで本が良く似合う真面目系美男子ミカエル・シルキリアス。インテリ系メガネの美形カイン・ディグローダ。お色気担当イケメンのランシュール・ガンドルフェ。いかにも叩き上げ風の平民っぽい好青年イケメン、ラルフ。


「それと・・・」

「専任騎士は選ばれし5名です」


 次を選ぼうとしていると遮られてしまった。どうやら5名までだったらしい。残念だ。気になる人材はまだ数名残っているのに。


「先に名を呼ばれた5名はこちらに」


 こちらの騎士は顔も選考基準になるのだろうか。自分で選んだとはいえ、迫力のある美男子達に慣れない私は生唾を飲み込む。


「巫女様に選ばれました事、光栄に思います」


 一斉に跪く美男子たちを見て、足が震える。

 ああ、本当に私が選ばれたのだ。そしてこの男たちは私に選ばれた事を喜んでいる。当然だ。私は特別な存在で、この世界で大切にされるべき存在なのだから。


「以後お見知りおきを」


 それぞれが違う表情の笑みを浮かべる。どの顔も綺麗で、見劣りしない。

 漫画では堅苦しい態度はあまり好かれない。というよりもどちらかというと砕けた態度で接して、あっという間に打ち解ける。向こうは私の事を特別な存在として見ているのだし、優しく接するだけで評判はきっとうなぎ登りだろう。


「私、向こうでは普通の女の子だったの。だからもっと普通に接して欲しいわ」

「お心遣いありがとうございます」


 その言葉に反応したのは召喚士の綺麗な女、メルエムだけだった。騎士たちは変わらず跪いている。言葉だけではきっと社交辞令だと受け取ったのだろう。

 ここは私の方から歩み寄って行かなくては。そう思い一番好みのイケメン、ヴァイスに近付きその肩に手を添え立ち上がる様に促す。


「こういうのは慣れてないから、ね、お願い」


 ヴァイスは戸惑った様に視線をメルエムに向けた。それに少なからず苛立ちを感じる。私が良いと言っているのに、どうしてその女を見るのか。


「・・巫女様がそうおっしゃるのです。皆様楽になさってください」

「畏まりました」


 皆戸惑いつつも立ち上がり笑みを浮かべる。


「私の事はミホと呼んでください」


 きっと彼らには私が女神の様に見えている事だろう。


「それではミホ様、居室へとご案内いたしますのでこちらに」


 案内はメルエムが行った。騎士たちはその後ろを付いて来るだけで、特に会話をする事はなかった。こちらの世界に来たばかりで、まだイベントらしいイベントもないのだ。彼らとの交流を深めるのはこれからという事だろう。少しばかりの不満を感じつつも大人しくメルエムに従った。

 もしかしてメルエムは悪役令嬢とか、そういう立ち位置なのではないだろうか。


「それにしても、普通はお気に入りの乙女ゲームに召喚されるのがセオリーじゃん。イケメンばっかりだから許すけど・・知っているゲームの方が楽しめたのに・・・」


 知っているからこそ、上手に立ち回る事が出来るっていうものじゃないか。それなのにそのアドバンテージがないとなると、少しばかり苦労するかもしれない。


「まあでも、私は選ばれたヒロインなんだし、何とかなるよね」


 不安はなく、寧ろ楽しみばかりを感じていた。

 だって、私は選ばれたヒロインだもの。



 あの日以来、大園先輩には会えていない。言葉が通じないからなのか、会わせないようにしているのか、それとも大園先輩が会いたいと思っていないのか。

 日々自体は平穏に過ぎていく。今は言葉を覚える為に勉強中だ。英語の授業は苦手だったから心配していたが、人間いざという時はどうにかなるものらしい。簡単で必要な言葉は直ぐに理解して覚える事ができた。単語だけど。


「べんきょう、します」

「椿さんは勤勉ですね」

「きんべ・・?」

「勉強を頑張る人、という意味です」

「うん、がんばる、ます!」

「そこは、頑張ります、ですね」

「がんばります」


 どうやら召喚されたのは大園先輩で、恐らく私は召喚に巻き込まれる形でこの世界に来てしまったのだと思う。すぐに還さないところを見ると、儀式には準備がいるのかもしくは召喚しか出来ないかなのだと思うのだが、如何せん言語が不自由なために確認することも出来ない。

 幸い巻き込まれただけだからと放置されることもなく面倒を見て貰っているので、ご好意に甘えさせて貰っている形だ。今のところ言語習得以外に特にすることがないのでほぼニートと言っても過言ではないだろう。一応家事手伝いみたいなこともしようとしたのだが、普通に断られた。何度も断られたので断り文句の「結構です」はわりかし早く覚えることが出来た。ちょっと悲しい。

 そういうわけで、今の私に唯一できることは言葉を学ぶことなのだ。


「今日の、天気は、晴れ、です」

「そうですね、良い天気です。中庭を散策しながら勉強しましょうか?」

「中庭・・さん、さく?」

「散策、歩く」

「さんさく!」


 言葉は覚えようと思っても中々覚えられない。元々言語の習得は苦手なのだ。そんな私に合わせてなのか、彼らは行動を伴いながら言葉を教えてくれてる。お陰で案外するすると言葉が頭に入ってくる。


「さんさく、中庭を、さんさく、します」

「中庭を散策します」

「中庭を、散策、します」

「ツバキは耳が良いんですね」

「はい、耳、よく聞こえます」


二人同時に召喚⇒一人が聖女として言葉を与えられ別室に⇒もう一人はそのまま言葉を得られず美男子に取り囲まれる⇒聖女としての説明が終わって、元の部屋に戻るともう一人が言葉も話せない筈なのに楽し気にコミュニケーションを取っているのを目撃⇒敏感に聖女の心情をくみ取った召喚者が気を利かせて話を変え、聖女の側近選びをする事に⇒好きな人を選んでいたら5人までだと止められる⇒不服ではあるが美男子5人に満更でもない様子⇒もう一人を一人の男に任せて聖女を私室に案内⇒もう一人も聖女の私室とは離れた私室にご案内⇒

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