異世界王子の唯一の欠点
転移先の異世界王子は目が眩む程のイケメンだった。
もう人形なのかと疑いたくなるくらいに造形が整っていて、毛穴もなくて、睫毛も長くて、見た瞬間一目惚れが寧ろ出来ないレベルで次元の違うイケメンだった。本当に同じ人間なのか疑いたくなる美しさだ。
唯一欠点があるとすれば、多分この臭い。
目に染みるレベルの腋臭だ。独特の臭いが辛い。
それでも王子という地位とその美貌で擦り寄る女は多い。寧ろ腋臭という唯一の欠点が近寄り難さをほんのりと和らげているのかもしれない。
とにかく、彼の周りはいつも女性という花で彩られ華やかだった。
よくある異世界ものだと世界遺産レベルのイケメンであるにも関わらず、恐ろしいだとか美醜の感覚が違うだとか種族的な問題だとか様々な理由で何故か孤立しており、孤独な存在だってりするが、現実はこんなもんだろう。
現代社会でさえ、凶悪犯罪者であったとしてもイケメンというだけでファンクラブまであったりするイカれた人間社会だ。人類の本質は変わらない。どんな国、どんな時代でも悪を好む女はいる。そして現代に脈々と腋臭の遺伝子が受け継がれているという事は、一定数の確率で腋臭を問題としていない者もいるという事だ。
普通の展開だと異世界から来た私がヒロインで、王子の臭いは呪いみたいなもので、ヒロインは唯一その影響を受けないで普通に王子を受け入れるとかそんな展開が王道なのだろう。
だがしかし、私は鼻は良い方なのだ。
都会のドブ臭には毎回顔を顰めてしまうし、他人の汗の臭いは不快でしかなく、キツすぎる芳香剤の匂いもあまり好きではない。腋臭の臭いにはそれなりに敏感で、同じ車両に乗ってしまった時は可能であればさり気なく車両移動をしてしまう程度には敏感なのだ。
つまり何が言いたいかというと、ゴメンまじ無理。
目に染みる程の激臭は、口呼吸で味を感じてしまうのではないかと錯覚する程に強烈だ。
呼吸困難に陥りそう。
無意識に鼻孔は広がり、少しでも臭気を含まない空気を探して必死に足掻いている。今の私の顔は随分と不細工で、そして失礼だろう。
臭いに気付いているはずのご令嬢方は一切表情、仕草、態度を変えることなく会話を続けている。臭いに気付いて王子を探すなど、失礼極まりない態度だからである。




