追いかけっこ
逃げる女と追う男
「貴方は一見、優しくて朗らかであるが、その本質は無関心で冷めたものだ」
「わあ、凄いね。そんな事言われたのは初めてかも。大抵その本質に気付いても、余計な軋轢を避ける意味もあって、誰も口には出さないもの」
「私は、貴方に気に留めて貰いたい。だからあえて言葉にした」
「ん~。さあ、どうだろうね。この質は意識して出来上がったものじゃないし、指摘されたからといって、別段何かが変わるものではないと思うわよ」
「だが、少しは印象に残っただろう」
「ああ、そうね。多分」
何から逃げているのか、私はひと所に留まり続ける事が酷く苦手なのだ。顔見知りが、知人が増えるほどにそれは顕著になる。それらを最小にしても、三年が限度だ。短ければひと月で土地を移る。
誰も私を知らない土地に移ると、心が落ち着く。
「またな」
この男とまともに会話をしたのはそれが初めてだと記憶している。しかし男が言うには何度か話はしたと言う。ただ私が覚えていないだけだ。その事実に気付けば大抵の人間は離れていく。当たり前だ。そんな反応をされて平常でいられる人間は殆どいないだろう。怒るか傷付くか、反応は人それぞれだとは思うが、それは明らかにマイナスの感情であるだろう。
変な男だ。ふ、と自然と笑みがこぼれる。
「ばいばい」
潮時だ。そう思った。
その日の夜、旅の支度を整えて、日の出と共に家を出た。
「もうすぐ夏だな。海が綺麗な土地に行こうか」
当てのない旅は好きだ。何処までも行けそうなそんな気がする。
「いない?」
「はい、数日前から誰も彼女を見ていないそうです」
「彼女の家へ」
「宜しいのですか?」
「確かめなくては」
家には家具が並んではいるが、人の気配がない。服や小物など細々としたものが何も無い。
「この家具は付属品か・・」
「そのようです。大家によると五日前に手紙が家にあったそうで、行き先等の記載はなく、ただ感謝と別れの言葉が綴られていたとの事です」
「・・・そうか」




