逆ハーレムの落とし穴
「え、なぜですの?」
乙女ゲームの世界にヒロインとして転生し、順風満帆にヒーロー達を攻略し、遂には逆ハーレムエンドを迎える事が出来た。
「当然だろう」
ゲームでは皇太子妃となって皆から愛を捧げられる人生で終わったのに、どうしてだか最後の最後で齟齬が生まれた。
「何が当然なの?だって、愛してるのは私だけだって言ったのに・・」
「勿論だ。愛してるのはシシィだけだ」
いつも通り、蕩けるような笑顔を浮かべ、愛称で呼び愛を語るラインハルト皇子。
「じゃあなんで!」
「仕方があるまい。皇子とするには確かな血の繋がりが必要なのだ。誰もシシィを諦められなかった。アイツらは優秀な臣下だ。シシィを奪い合い失うなど、許されない」
アイツらとは、皇子の側近をしている次期宰相候補のエルバート。若くして騎士となったガウェイン。優秀な魔法使いのマリンフォルト。文官として大成するであろうリーンスタック。そして皇子の腹違いの弟であるクーライズ第二皇子。
「でもだからって、」
「それに色も似過ぎている。生まれた子が誰の子かも分からずに皇子にする事は出来ん。故にシシィを側室に迎える事も出来んのだ」
そんなの知らない。こんな展開、聞いてない。
「嫌よ。だって、一緒に暮らせないなんて、いや、寂しいわ」
「俺も寂しいんだ、シシィ」
皇太子妃はおろか、側室にさえなれない。
それぞれの攻略対象者達は「確かな血筋」を求めているが故に、誰もエリザベトを正妻はおろか愛人にさえしない。立場がそれを許さなかった。
結果エリザベトに与えられたのは、ラインハルトの側仕えとして常にその場にいながらも、攻略対象者でもない影の薄い男の妻となる事が決まったのだ。
「なんで、こんな事に・・」
そうだ。常識的に考えれば分かるはずだった。
いくら仲良くしていても、自分の子ではないかもしれない子供を、自分の後継者として愛し育てるなど、誰がしてくれるというのだ。
「セーブデータをリロードして、コンティニューしなきゃ・・リセット、そうよ。今度は逆ハーレムなんて目指さず、皇子だけを愛すの」
後世、エリザベトが嫁いだ家紋は乱世の象徴となる。生まれた子らは父方の家系の特徴を濃く受け継ぎ、公然の秘密であった彼らの関係から、対抗馬として担ぎ上げられる事が多々あったからだ。実際に当主が交代した事例もある。
エリザベトは皇子の妃という立場どころか公式愛称の地位さえも得られなかった。確固たる地位のないエリザベトは、若き恋人が現れると徐々に忘れ去られ、最後は誰も残らなかった。
いや、唯一夫であるアセットだけは残っていた。アセットは皇子たちが来ている間はエリザベトと距離を保っていたが、エリザベトが忘れ去られて数年後から関係を持つようになる。その後生まれた子が後継者となった。
エリザベトは自分を捨てた恋人達の忘れ形見である子供達の扱いに困り、やがては無関心になった。しかし時に激しい怒りがエリザベトを突き動かし、結果的にはそれが地位の簒奪という愚行の引き金となった。
エリザベトは幸せだったのだろうか。




