溢れる本音がとまりません。
我慢の多い人生だった。
理不尽を飲み込み、不都合から目を逸らし、くだらない噂話に耳をふさいだ。
「あら、王宮は人材不足なのね。こんな簡単な案件も処理できないなんて」
「え?」
飛び出た言葉に誰もが驚く。口にした本人でさえも、何か起きたのか理解出来なかった。
「これは宰相が処理すべき案件ね。やだ、耄碌されたのかしら」
「え?」
いつもならば、黙々と熟す書類仕事。
体はいつも通りだ。さっきから口だけまるで閉ざす事が出来なくなってしまっている。
「上が無能だと下も無能になるのね、不憫だわ。いっそ引退してしまえば良いでしょうに」
「え?」
誰も彼もが耳を疑った。
目の前には、文句の一つも口にせずいつも美しい笑みをたたえ万事恙無く仕事を回す側妃。
辛辣な言葉を口にしそうな者はここにはいない。空耳かと、まず自分の耳を疑う。
「老害だと言うならば引退を進言しましょう。醜く地位に縋るなら、せめてご自身の無能を補える補佐を付けるべきだと」
「え?」
「あら、もしかしてご自身を有能だと思っていらっしゃるのかしら、いえ、まさか、だって、こんなにもお仕事が出来ておりませんのに?ああ、まさかもう耄碌どころか、痴呆が始まっておりましたのね」
「え?」
側妃は心底驚いて、その後本気で心配する様相で言葉を掛けた。
「ああ、大変。これでは重用した国王陛下の力量が疑われ兼ねませんわ」
平素の仕事を熟しながら、陳述書を作成する。貴族言葉で飾られているものの、内容はかなり辛辣だ。
要約すると、人事の見直しを進言する陳述書だ。それぞれの部門の、確かな無能の名前がハッキリと記されており、無能の証拠と併せて各人の頭か心の病を心配する言葉も添えられている。
「あの書類、どういう事ですか!皆さんとっても良い方なんです!なのに、入れ替えろだなんて酷いです」
「腹が空いたと囀る雛に餌を与えるだけが社交ではございませんのよ。時には鼬を欺き鷹と渡り合わねば、いつの間にか巣を落としかねませんわ」
「何言ってるの?今は鳥の話はしてないわ」
「まあ、言葉のお勉強はしていらっしゃらないのでしょうか。囀る声は耳に心地良いかもしれませんが、それを本気にしてはなりませんのよ」
「訳が分からないわ!」
「手配する教師を間違えられてしまわれたのですね。ご心配には及びません。私も公務からの解放を望んでおりますので、直ぐに解決させて頂きますわ」
そうして新たに作成した陳述書を手に、側妃は国王陛下への謁見を速やかに行う。
「これは何だ」
「王妃様の教育係変更を進言致しております」
「アカリには必要ない」
「まあ、陛下は王妃様を見捨てるおつもりなのですか」
「何故そうなる」
「会話の成り立たない王妃様を、まるで皆様幼子のように接しておりますわ。今はまだ見目の愛らしさから嘲笑われる程度ですけど、年月が経てば知恵遅れだと誹られ兼ねませんわ」
「そんな事、俺がさせない」
「まあ、とても王族としての経験を積んだ方とは思えないお言葉ですのね。貴族がそこまで素直だと本当に思っておりますの?」
ここ数日で何度も側妃の口から紡がれた辛辣な言葉の数々を、漸く脳が停止せずに活動するようになっていた国王は、何とか側妃との会話を成り立たせていた。
「私は王妃様が不憫に思えてなりません。王妃とは陛下の伴侶として外交も成さねばならぬ身、今は私が側妃として陛下のお供をさせて頂いておりますが、それが続けば軽んじられるのは王妃様ですわ」
「ぐ・・」




