悪役令嬢ですが全ての災厄を払えるだけの力を付けて、人畜無害に生きようと思ってるのに、決闘を申し込まれてばかりいます。
「フェディチ伯爵家ルナメリルア嬢!手合わせ願いたい!!!」
期待に満ち溢れた眼差しで、意気揚々と決闘を申し込んできたのは、見目麗しい男である。
「アルメーク辺境伯家のカイランド様でいらっしゃいますね」
前世の言葉で言うと、攻略対象者である。
彼は七人いる攻略対象者の一人で、赤い髪に青い目が特徴の快活な少年である。
「それで、私の聞き間違いで宜しいのよね?まさか殿方がか弱き乙女に決闘など申し込むだなんて、ありえませんものね」
「う、ぐ・・」
「ああ、良かったですわ。そうですわよね、それでどういったご用件で?」
「あ、ああ、いや、その、そうだな・・」
今日は単体か。良かった。カイランド一人ならば御しやすい。
「はっ、君がか弱い乙女だって?」
何処にいたのか、割り込んできた声に内心舌打ちをかます。
「あら、まさか騎士の風上にも置けない粗忽なラインハルト様でなくて?」
「相変わらず言葉が刺々しいな」
「あらまあ、失礼。つい正直な気持ちが口をついて出たようですわ」
「まあ、君の実力に免じて無礼な態度は多めに見よう」
「無礼な態度にさせているのは貴方でしてよ」
ラインハルトは遠慮なしに戦いを挑んでくる頭のおかしい男だ。最近は開始の合図さえなしに不意打ちで奇襲をかけてくるほどに愚かだ。
「そろそろ騎士をクビになるのではなくて?」
そもそもの始まりは実践も兼ねた校外学習の時だ。
ルートによっては悪役令嬢であるルナメリルアはこの校外学習の襲撃イベントで死ぬ。それを知っていたルナメリルアは既にレベルカンストと言ってもおかしくない程に鍛え上げており、なんの憂いもなくそれに参加していた。
しかし直前で思い出したのだ。ルナメリルア以外にも名も知らぬモブが何人か巻き込まれて死ぬことを。そして入学以来仲良くしているご令嬢はゲームでは顔どころか名前も出てこない完全なモブである事を。つまり友人が襲撃イベントで死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。
友人であるモブ令嬢ことユーフェルミア子爵令嬢は、前世でも出会えなかった掛け替えのない親友とも呼べるほど気のおけない相手である。絶対に失いたくない。
慌ててユーフェルミアの現在位置を確認した刹那、襲撃イベントが傍らで始まってしまった。そしてユーフェルミアはそこから程遠くない場所にいた。
瞬間、何も取り繕う事なく飛び出した。
周りは何が起こったのか分からなかっただろう。ルナメリルアはいつの間にか消えていたのだから。
「私のお友達に手を出すなんて、命知らずですわね」
ええ、我を失う。とまでは言いませんが、この時の私は紛れもなく頭に血が登っていました。手加減を忘れ、容赦のない一撃を無慈悲なまでにその襲撃者に叩き込みました。
魔物が可哀想?まさか、魔物は紛うこと無き獣。理性もなく人を獲物と見ている危険種。同情の余地などありませんでした。
友人に危険が及ばぬよう、神速で息の根を止め続けました。何せ数が多い。一匹でも取りこぼせばそれが誰かを傷付けるかもしれない。私が守りたいのはユーフェルミアだけではあるのですが、恐らくユーフェルミアは学友が亡くなるのを良しとしないでしょう。嘆き悲しむあの子を見たい訳ではありませんもの。
「これで最後ね」
最後の一匹の首を刎ねてルナメリルアは呟く。
混乱が起きたと思ったら、あっという間に終息した。その場にいた者達の認識はそんなものだ。理解不能。
魔物は誰かに襲いかかる前にその首が飛んでいた。というよりも出てくるそばから首が飛んでいたように見えた。
いや、まさかあり得ない。元々首がなかったのだろう。そう勘違いしてしまいそうなほどに、ルナメリルアが施した処置は手早いものだった。
目撃した者たち以外、最初は半信半疑だった。
しかし引率していた教師もそれらを目撃していた為、授業やら実施でよく手本として当てられるようになってしまったのだ。
「そうですね、ではフェディチ・ルナメルリア。お手本を」
「はい」
堂々と前へ出たものの、内心は不満で一杯である。




