エピローグのその後に
乙女ゲームのヒロインに転生して、略奪愛にもシンデレラストーリーにも興味はない。攻略などそっちのけで趣味に没頭していた。
筈だった。
「嘘でしょ・・」
「神妙になさい」
覚えのない罪を並べ立てられ、何やかんやと処刑が確定となった。
処刑エンドなんて悪役令嬢の結末にもなかったと思うし、そもそもそんな血生臭いゲームではなかった筈だ。
絶望の中、到底受け入れ難い運命が振り下ろされる。
◆
「かはっ」
飛び起きて首を押さえる。
痛みはない。傷がない。そもそも何故繋がっている。
「夢・・?」
それにしては気持ち悪いくらいに感覚が、恐怖が、絶望が、死んだという実感が残っている。
「ここは、家?」
記憶にあるものより随分と汚れている。
立ち上がろうとして、足に力が入らず膝をつく。
「・・腰が抜けてる」
余程恐ろしかったらしい。
こんな汚い床に長く座り込みたくはなかったが、汚れた姿ではベッドに戻る事もできない。
なんとか力が戻り立ち上がると、思いの外乾いていた喉を潤すため、水を飲む。
まだ朝日は登っていない。今日は何日だったか。置いていたはずのカレンダーがない。どこに行ったのか。
「あれ?」
色々と足りない気がする。学校を卒業して、それなりに実入りの良い職にも就けた。それにより住処こそは変えなかったものの、家財にはそれなりに金を掛けた。荒らされたにしては無くなっているものの中には大した価値のないものも多い。
「・・・」
おかしい。
記憶と家財が一致しない。なくなったというよりは元々なかったかのようだ。
今朝の嫌な夢といい、部屋全体に感じる違和感といい、今日はなんだか調子が悪いようだ。
「・・・」
何かが変だ。でも何が変なのか、分からない。
仕事に行かなきゃ、あれ、でも仕事道具を何処にしまったか。
「あれ?」
そうだ。そもそもこの家は学園を卒業してから引き払ったはずだ。
「・・昨日は、何してたかしら」
酔っ払ったか何かで昔の家が懐かしくなって来てしまったのだろうか。もう何年も前の事だ。別の住人が住んでいそうなものだが、酔った勢い等で押し切ってしまったのだろうか。
途端に不安になって家の中をキョロキョロと見回す。
「あれ?これって私の・・?」
見つけたのは露天で買った水晶のアクセサリーだ。インクルージョンが空に瞬く星のようで、心細い学園生活の慰めに買ったものだ。学生の頃に嫌がらせの一環で砕かれてしまったはずだ。似た品物、にしてはインクルージョンの配置まで同じに思える。記憶違いとも言えるが、一際目立つインクルージョンの配置まで同じになる事は有り得るのだろうか。
「・・綺麗」
嫌な事があるとこれを見て落ち着いていたからだろうか、混乱が少し治まった。改めて室内を見渡すと、似た品物では説明がつかない程に殆どのものに見覚えがあった。全て、学生時代に使っていた品物だ。




