表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネタ帳  作者: とある世界の日常を
101/178

廻る世界

神になる為には、


執着を失わなくてはならない。

力がなくてはならない。


これは試練だ。

望んだものではなく、目をつけられ、勝手に与えられた試練。

でももう既に、それさえもどうでも良くなるほど蹂躙され尽くした私の心は怒りに震える事も出来なくて、ただ淡々と事実を受け入れた。

 繰り返す。


 繰り返す。


 繰り返す。


 何度繰り返しても終わらない。


「また、か」


 私が死ぬ原因は様々だ。

 最初の頃は取るに足らない行為を何故か反逆罪やら国家転覆罪まで言及され、謂れの無い罪で処刑されていた。

 初めて時を巻き戻した時、つまり二回目の生では一度目に疑われた行為に一切関わらなかった。それでも同様の内容で疑われ、三度目は学園での情報収集を中心に活動した。それでも足りず、四度目は王城での活動も追加した。五度目は城下町、六度目はそれまでの情報で関連する領地の情報も集め、七度目は国内全域。七回目では既に陰謀の殆どは明らかになり処刑されることはなかったが、落ち着く前に暗殺されてしまった。八度目では近隣諸国、九度目には世界情勢を把握し、暗殺も未然に防げたが、壮年になり事故で死んでしまった。

 十回目はループの原因究明の為に、魔術や神話、呪術の分野にまで情報収集の手を伸ばした。原因は分からないまま、今度は寿命を全うしたが結局は十一回目が始まった。


 五十回目で無気力になり、六十回目から一番幸せだった時間を繰り返した。二百回目で全部壊して、二百一回目にまた幸せだった時間と同じ選択をした。二百二回目からは同じ選択をしていたつもりだったけど、違う結果になった。でも総合的には悪いものではなかったからそのまま暫くは同じ選択を繰り返した。

 三百回以降、数を数えるのをやめた。多分、数える事に意味はない。


 多分五百回目くらいに、国とか人とかそういったもの全てがどうでも良くなった。

 結果国は侵略され略奪され、私はその時間軸では奴隷になった。奴隷が思ったより面倒だったから、国と実家は存続するように選択した。でもそれも意外と大変で、面倒だった。

 だから数回繰り返した後、比較的初期段階に調べていた魔術関連への造詣を深めた。手っ取り早く色々と片付けるのに役立ちそうだったからだ。

 どこぞのイカれた研究者のように魔術に没頭した。元々体内保持魔力量の多さから皇太子の婚約者に選ばれただけあって、魔術は相性が良かった。

 女は戦場に出ないから、本来であれば攻撃魔術は学ばない。特別な適正があれば別だが、殆どは応急処置の癒やしの魔術や、信号魔術とかそういったものだけだ。でも攻撃魔術や支援魔術、禁術に至るまで様々な情報が何処にあるのかを、私は知っていた。だから集めて、覚えて、行使した。


 全部どうでも良かった。

 だから壊して、壊して、壊して、破壊し尽くした。


 最初の頃は普通の攻撃魔術だけだった。

 人を殺して、時々建物を壊して、人を殺した。何回かそれを繰り返していたけど、段々面倒になってきて、超広範囲の魔術を覚えてそれを使った。ただの攻撃魔術よりも格段に時間が短縮できた。

 けれど最後は結局同じ。また戻った。

 段々飽きてきて、もっと早く終わらせられないかと禁術を覚えた。情報としては知っていたけど、覚えるとなると中々エグい魔術だった。

 禁術で殺して、殺して、殺し尽くした。

 人だけじゃなく、獣も魔獣も虫も精霊も、森も何もかも全てを壊そうとした。

 全部消せば、もしかしたら終わるかもしれないと思ったのだ。


 でもやっぱり戻った。


 多分何十回か、百には満たない程度にそれを繰り返して、馬鹿馬鹿しくなってやめた。

 それからまた暫くは平和に暮らした。


 結婚はしない。虚しくなるから。

 初めて結婚した時は幸せだった。子供も生まれて、多分凄く幸せだった。何もなかった事になっても、何回も繰り返した。

 私だけが持つ恋人との記憶、家族との記憶。デジャヴュは私の不誠実を疑うきっかけとなり、幸せだった記憶はどんどん塗り替えられていった。幸せを諦めた時、生まれるはずだった子供たちに申し訳なくて、苦しくて、悲しくて、虚しかった。


 なんで私だけがこんな目に合っているのだろうか。


 呑気に平和を謳歌している人が憎らしくなった。

 馬鹿馬鹿しい理由で争い戦争をしている人が鬱陶しくなった。

 自分は世界で一番不幸だと嘆いている人に私の苦しみを理解して欲しかった。

 ただ死んでいく人が羨ましかった。

 輪廻に還れる事か羨ましかった。


 私には何も残らない。

 ただ経験という知識を重ねているだけ。

 死ねば消えて戻るだけ、何も残せない。


 虚しい。


 多分、千を超えた辺りで一度ふっきれた。

 真面目に生きても、誰に優しくしても、無関係に殺しても、残虐に生かしても、星を壊しても、結局何も変わらない。

 じゃあ何も考えずに生きようと、堕落して、京楽に溺れた。すぐ殺される事もあれば、運良く生き残る事もあった。

 その頃には魔法で何でも出来るようになったから、人との関わりを一切持たない事もあった。たまに邪魔だと思った人を消して、気紛れに生きた。


 何もする気力が湧かなくてボンヤリ過ごしていたら、飢え死にしていた事もあった。それも多分何回か繰り返していたと思う。何回だったかは知らない。何も確認しなかったから、眠っただけなのか死に戻りしたのかさえ分からないからだ。でも多分何回かは死んでる。それくらい長いことそんな風に過ごした。


「お腹減った」


 唐突に思い立って、街に出た。飢えている割に体が健康だったから、多分死に戻った直後の事だ。

 日課のようになっていた断絶の結界を解くと、ノックが響く。


「起きてるわ」

「失礼致します、エレノアお嬢様」


 複数の侍女が入室する。


「朝食は部屋で摂るわ」

「畏まりました」


 先頭にいた筆頭侍女が目配せすると、そのすぐ後ろに控えていた侍女が部屋から出る。一番後ろにいた侍女が部屋の据え置きの台座を運び、その上に別の侍女が持っていた桶が置かれる。そこにまた別の侍女が持っているピッチャーからお湯と水が注がれる。

 程よい温度だ。


(顔を洗うのも久し振りだわ)


 フカフカのタオルで水分を拭き取れば、心なしかスッキリする。


「お着替えはいかがなさいますか?」

「食事の後に。色は赤を」

「畏まりました」

 

 三名が片付けに下がり、筆頭侍女含む三名が部屋に残りエレノアの手入れをし整える。


「お食事をお持ち致しました」

「入りなさい」


 今回はどうしようか。

 もう何もかもを試した気もするが、まだまだ何もしていない気もする。足りないんだ。きっと、まだ、何かが。

 衝動的に魔法を行使しようとして、保有魔力が格段に上がっている事に気が付く。


(何か、したかしら)


 消失魔法を解除して体内の魔力回路を精査する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ