造られた女神
私は元の世界で平和を享受し生きていた。
求められて望まないまま召喚され、押し付けれた役割を果たした。それは酷く辛いもので、大した思い入れもなく生きた記憶もない世界を救うというものだった。
与えられる訓練は過酷なもので、まるで篭絡を狙うかのような美男子達からの優しさと誘惑にもうんざりしていた。同時に与えられたのは作られた友人で、差し出される善意は胡散臭くて、全てがキナ臭かった。
それでももう私にはここで生きる以外の道はなくて、従順な仮面を被って相手をする。
スキルを得る為に与えられた試練は過酷で、時が経つにつれ私は身も心もボロボロに壊れていった。義務感からか、必要であるからか、男たちも友人たちも一際優しくなる。
それがまた辛かった。
逃げたくなる事も多々あった。
最初こそはすぐ見つかり連れ帰られたものの、より多くのスキルを手に入れ強くなるにつれ見つかる事もなくなった。
だが行き着く先もなく、気持ちが落ち着けば帰らざる得なくなった。戻ってすぐにどうして思い詰める前に相談してくれなかったのかと泣き縋られた。心配され、優しくされ、諭される。
それも回数を重ねる毎に少なくなり、ただの散歩だと認識されるようになった。というよりも見つけられなくなった事もあり、諦めたというのもあるのだろう。
強くなった事も関係して、回数を重ねる度に距離も長くなり危険な場所へも平気で行けるようになった。
自分がどんどん人間離れしているのは分かっていた。それでも誰もがまだ訓練を続けさせる。彼らにとってはそれでもまだ足りないのだ。
彼らは私をどうするつもりなのか、そんな不安が頭をよぎる。
ある時傷付いた一匹の巨大な亀を見つけた。
ただの亀だと思って助けたのだが、何と彼は人語を理解する竜なのだそうだ。
彼と話していると心が落ち着いた。彼はとても落ち着いていて、偽りのない真実だけを口にする。その時だけは、私も偽りを口にしないで済む。
この世界にあるスキルを全て習得し、ありとあらゆる称号をその身に宿した私は神にも等しい力を得た。
竜が言うには、通常それ程のスキルを身に宿せばその体は弾けて砕け散るそうだ。
彼らは何が目的で私を成長させているのだろうか。それを考えると恐ろしくなった。
結論から言うと、彼らはより強大な力を得るための媒体とする為に私を育てていたらしい。
私を結晶化し、その欠片を体内に取り入れる事で、通常不可能な数のスキルを習得したいのだそうだ。なんて馬鹿馬鹿しい。
けれどもうそれを笑う事も出来ない。
こちらに召喚された時に既に手は打たれていて、蝕む呪いは既に私の体を結晶化させ始めていた。
動けるうちに逃げ出して、自然と足が向いた先はあの竜の所だった。
砕かれた右腕と左足はもうない。逃げる前に奪われてしまった。それでも逃げることが出来たのは、これまでに取ったスキルのお陰だ。
竜は私の為に泣いてくれた。
そんな優しい竜を、私が巻き込んでしまった。
私は彼らがここに辿り着けるとは思っていなかった。彼らは弱くて、保身的で、ここは危険地帯の更に奥だからだ。
彼らは奪った私の手足を体に取り込み、力を得ていた。なんてことだ。これでは私が竜を殺したようなものだ。
悔しかった。悲しかった。自分の不甲斐なさに怒りを覚えた。
これ以上、こいつらに力を与えたくなかった。
進行する結晶化に逃げることは不可能だと悟った私は、最後の力で自身を粉々に砕き、可能な限り細分化し散り散りになった。
私という形は消えた。
しかし私という存在は残り、思念のようなものが欠片に付随した。
願わくば、竜との再会を。




