夢殺し
そう遠くない未来、娯楽は発展を遂げ、人々の妄想とも呼べる夢をまるで現実であるかのように体験できる仮想現実、VRゲームが発売された。ゲームの名前は「夢見る異世界」。異世界を舞台にしたゲームで、様々な設定でゲーム上の登場人物になる事が出来る。
それぞれのNPCはAIで動いており、それなりに融通は利くが設定された性格や行動から大きく外れる事はない。売りはNPCの種類の多さだろう。既存のゲームやアニメ等の様々なコンテンツとのコラボを実現する事で多くの顧客を確保した。その情報量の多さから、システムはスーパーコンピューターで管理、運営されており、プレイヤーはネットワークを通じてゲームにアクセスする仕様になっている。
まあつまりはオンラインゲームのようなものだ。一応プレイヤー同士が交流する事も可能であるが、基本は交流無しのプレイをメインにしている。
夢見る異世界のサービスが始まったのが3年前。
私は今、そのゲームの中でプレイヤーのサルベージを専門にした仕事を行っている。
「今日の対象は?」
「山田花子、推定45歳。乙女ゲームの悪役令嬢転生でもう1週間ログインしたままの状態だ」
「1週間?旧式でログインしたのかしら?」
「恐らく」
「全く、ずっと回収し続けてるっていうのに、なくなんないわね」
「新式でもプロテクタを外して使うバカが多い」
「いくら現実から逃げたくても、ゲームに逃げるだけじゃ何の解決にもならないっての」
「人は正論だけじゃ生きていけないのさ」
「そうね。それにその馬鹿達のお陰で仕事が無くならないんだしね。寧ろ感謝したいくらいだわ」
「無駄話をしてないで、内容を確認して頂戴」
「はいはい、山田花子、推定45歳。乙女ゲームの悪役転生で悪役で平穏に暮らしたいと思っているのに、王子や高位貴族その他イケメンにモテて王妃コースね。あら、この人欲張りなのね。魔王とか人外にもチェック入ってるじゃない。しかもヒロインも転生のざまぁ展開設定・・ストレスたまってるのね」
「ログを確認したが、どっちかざまぁされるヒロインなのか分かんねぇくらい似たような行動してるぜ」
「あ~・・まあ、お相手役って言っても所詮AIだし、どんな行動とっても大筋は変わんないからね。精々分岐が違う位だし、好感度も課金であげられるからなぁ・・」
「課金しまくりだぞ」
「会社としては有り難い人種だね。ここまでハマられると迷惑だけど」
「全くもってその通りね。早いとこ終わらせるわよ」
「了解」
サルベージする為には、対象と同じ仮想世界に入らなくてはならない。無理矢理仮想世界から引き剥がしてしまえば、その反動は全て対象へと流れてしまうからだ。それがどういった結果を招くことになるのかはもう十何年も昔に大きなニュースとなった事で一般にも広く知られている。だからこそ、サルベージ屋の需要は高い。
「さ、早いとこ馬鹿で夢見がちな乙女を助けてあげましょ」
「口が悪いわね、あんまり馬鹿にしてちゃだめよ。現実が余程辛かったんでしょ。きっとゲームが生きがいだったのよ。私達は今からそれを奪うのよ。可哀想でしょ」
「さり気に姐さんが一番ひどいと思うけどね」
「まあ、そんな事ないわよ」
「はいはい、準備終わりましたよ。姐さん方」
「こっちも準備完了」
「じゃあ行くわよ」
「はーい」
「モニタリング開始。姐さん、行ってらっしゃい」
意識が現実から切り離され、仮想世界へと落ちていく。何度経験しても不思議な感覚だ。確かに体はそこにあるのに、まるで機械に魂を吸い取られているような気分だ。
「ログイン完了。情報リンク開始して」
【はいはい、接続完了。起動しますよ】
「・・・起動確認。接続良好。うん、問題ないわね」
【対象は現在学園にて攻略対象と交流しています】
「学園祭の準備ね」
【はい、




