初クエスト1
強制的にパーティー認定されたクルミは世界に慣れる機会だと思いこころよく受けた。
シャルは冒険者ギルドのボードに貼っているクエストを書いた紙を剥ぎ取り、町の外に連れ出された。近くの小さい森だから「大丈夫」と3回も念押しされた。
「それでクエストというのは紙に書いてあるお願いを叶えればいいのですね」
「そうそう、今回は森にゴブリンが出没してるから倒して欲しいっていうのが、森林伐採ギルドから出てるからサクッと倒せばオーケーって感じ」
手をつなぎ若干引きずられる状態で数キロさきの森へ向かう二人。
「ところでパーティーって未だによくわからないんですけど。シャルは何で私を選んだんですか?」
冒険者としての経験のまったくないクルミを選ぶ理由がわからない。冒険者カードを見た瞬間からハイテンションなのでそのあたりに理由があるのだろうと予測する。
「あたし強い戦士探してたんだ。それに賞金首ハンターって魔獣とかも狙うしパートナーいるでしょう。お互いにウィンウィンな関係になれるでしょ」
たまにシャルは知らない単語を使うが必要そうな言葉でないかぎり気にしないようにしている。
「えっと、私、冒険者はあくまで形としてだけで、こんなに親切にしてもらってもいずれは色々な町に行かなきゃいけないので・・・あのーなんていうか」
手引きをしてもらえるのはありがたい。しかしクルミには各地を巡りやることがあった、それは非常に危険でシャルを巻き込むのは忍びないと思った。
「勝手についていくならいいでしょ!?あたしにも旅の目的あるしね」
「え、あの町に住んでるんじゃないんですか?」
「んもー考えすぎ!ダメならダメで解散すればいいでしょっ!!あと町には2年くらい住んでるけどそろそろ旅に出ようと考えてた!以上!!」
怒気まじりに少しクルミは委縮しそうだったけれども臆することなく答えた。
「シャル、よろしくね」
「はじめっからそう言えばいいのに」
(良かった怒ってないみたいだ)
前方に緑の塊が微かにうかがえる。目的地のゴブリンのいる森が段々と近づいてきた。
「そういえば私の冒険者カードってまだ見せてなかったね。パートナー組むから特別に見せてあげる」
シャルは細い首に通していた紐をとり胸元から冒険者カードをとりだしてクルミにぶっきらぼうに渡す。
シャルロット・F・ティア
性別:女性 生年:創世歴120020年 種族:エルフ系 職業:エンチャンター
Lv:34 ランク:D 称号:なし 賞罰:なし 二つ名:なし(登録認証後使用可)
スキル一覧:『付与術Lv8』『力場支配術Lv5』
『光魔法Lv9』『回復魔法Lv3』
『無詠唱Lv2』『高速詠唱Lv2』『紋章術Lv2』
『投擲Lv2』
「うん全然わかんない」
「ん?どこが?ちなみに生まれ年は冒険者カードができた年に作ってその創世歴にしたの。だから本当は100歳。ってかカード作るときに気づいて・・・なかったんだ」
「全く。あとエルフ『系』とか職業のとこもよくわからない」
「『系』ってのは、あたしがクォーターエルフだからそういう表記になっちゃうの。あとバッファーてのは俗称で正式にはエンチャンターっていうの」
自分のと見比べてみるが強さの基準になりそうなレベルとランクの違いがわかりにくい。
「んで、レベルが戦闘経験の質と量の合算で決められて、ランクは単純に強さを表してるの。まあわかんなくてもカードが自動的に判別してくれるからどうでもいいし」
「ふーん、ありがとう返しておくね。でも便利だけど誰が作ったんだろうね」
「さあー?興味あるんなら大都市に行ったときに図書館とかで調べてみれば?」
「そうしてみる。ところでシャル、ゴブリンって強いの?」
クルミの知識としては、養育の地にあった蔵書の情報のみだった。その醜悪な見た目や荒っぽい性格、また戦闘方法から生態系までを完全に暗記していた。だが全て文面上であり実際の強弱としては未知であった。
「え、剣術レベル9あったよね。コヨーテおじさんと狩りに行ってたとかじゃないの?」
「だいたいコヨーテが召喚した魔獣かな。剣持てないし」
(おーいおいおい。コヨーテおじさん召喚系かーい)
「魔獣ってどんなのだった?」
「一番はじめは狼だった―」
(狼召喚が得意だからコヨーテおじさんなのかな)
「100匹。死にそうになったらコヨーテが一瞬で治る魔法かけてくれて―」
(冒険者だったらBクラスは間違いないし、回復魔法も・・すごい)
「次からデュラハンおじさんと剣のしゅぎょ・・・」
「ちょい待ったー!そのおじさん首から上あった?」
「え、あるに決まってるよ。シャル変な事言うね」
「あはは、ごめん。デュラハンていう首なしアンデッドかと思っちゃった」
剣の修行の時間はデュラハンおじさんの頭部は切りあいが監督できる定位置の石の上だったことを知る由のないシャル。
「それでさ魔獣で一番強かったのって何」
これを聞けばどれくらいの強さがわかるだろうとシャルは気軽に聞いた。
「ドラゴンよりフェンリルってとても大きい角がたくさん生えた狼かな。あれは出来れば遠慮したい」
シャルはクルミが嘘を言うタチではないことは重々承知していた。ということはその伝説クラスの魔獣を倒すクルミも、召喚するコヨーテおじさんも匹敵するということに他ならない。そんなのと比べたらゴブリンなんて・・・ゴミだ。
「クルミ、本当に賞金首ハンターになるんだよね?」
「え、違うよ悪い人倒すって・・森についたよシャル。その話はあとにしよう」
まだ日の傾きは浅く、数匹程度ならクルミの小手調べだろうという考えは吹き飛んだ。
「ちょっと偵察に行ってくる。シャルはここで待っててくれるかな」
返事する間もなく、クルミが少しかがみこみ地面を踏みこむと一瞬で掻き消えていた。視線で追うクルミは緑に消えるまで数秒しか要さなかった。
(あはは、あたし必要ないじゃん。―ん、あれにバフったら・・・)
「ただいま!いっぱい緑の人いた!たぶんゴブリンだよね!!」
「もう探してきたの!?」
10秒もかからず戻ってきたクルミは、初クエストにわずかばかり興奮しているようだ。
「近くにいたよ!行こう!」
「わ、わかった。一緒にいこ!」
この討伐以降、シャルはクルミの『いっぱい』という言葉に気をつけねばと心に刻んだ。