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金の卵

「じゃあ養育の地ってところ以外の場所って知らないのね」


 前世の薄くなった知識とコヨーテに教えてもらった莫大な知識を保有しているクルミだが、嘘や隠し事のできる知恵はまったくといっていいほど皆無だった。コヨーテに念押しされていた『転生者』という事実を伏せれたのは上出来である。


「そうです。それで数か月前にそこを出てはじめて着いたのがこの町なんです」


 シャルの「それだけあれば好きなだけ食べれる」という言葉を信じて食べ続けるクルミ。それを頬杖をついて飽きれながら傍観するシャル。テーブルには山になった皿が所狭しと埋め尽くしていた。


「それでさ冒険者の登録したらどうするの?ダンジョン探索とか幻獣ハンターとか目的があるんでしょ」

「最後にステーキもう2枚お願いしまーす!」

「はーい、これでステーキ最後だからねー!」


 はじめは驚いていたウェイトレスと影にいたコックさんは今ではすっかり慣れてしまい、稼ぎ時だと言わんばかりに動いていた。ちなみに顔が似ているとは思っていたが親娘らしいとさっき知った。


「えと冒険者になれば入国やお金を預けたりと便利だからということでそれ以上のことは考えてません。旅の目的はえーっと悪い人を倒すことです」

「ああ賞金首ハンターか――ってクルミ意味わかってる? 危ないんだけどそれ」

「大丈夫ですよ、私ものすごく強いんです」


 クルミはシャルは色々説明してくれたり、自分の身を心配してくて優しい人なんだなと思っていた。

 一方、シャルというと金はあるが頭の弱そうなクルミにかなーーーり心配になっていた。


「強いたってコヨーテおじさんだっけ?その人としか戦ったことないんでしょ。賞金首っていったらピンキリだけど凶悪で残忍極まりない奴らだよ。普通はパーティー組んで経験積んでから自分のやりたい方向性に進めばいいんじゃない」

「えっと・・パーティーって何ですか?」

 眉間に人差し指を当てて悩みこんでしまったシャル。徹底的に何もかも常識が抜け落ちている。


(コヨーテおじさんとやらも旅に出したくなかっただろうなー)


 通常はフリーのデバッファー(補助魔法使うイメージ)であり仕事ごとに顔なじみのパーティーに参加しているシャル。一人のときは町周辺のクエストをこなしたり食べ歩いたりしていた。


 幸か不幸か本日はどこからも声がかかっていなかった。


「パーティーてのは一緒に冒険する人のことだねー。その日だけだったり、一生付き合う時もあるだろうし。んまーそのうちわかるよ。よしっ、ステーキのお礼に食べ終わったら冒険者ギルドまで行って手続きまで手伝ってやる」

「本当ですかっ!?急いで食べますね」


 焼きあがり始めたステーキの匂いがそろそろ到着することをお知らせしていた。





 ―冒険者ギルド


「それではこちらの用紙に記入してください。それが終わりましたら水晶に認証をしていただきまして登録料の金貨1枚をお支払いただけましたら登録になります」


 三十路くらいのメガネをかけた女性が冒険者登録用紙をクルミに渡す。冒険者ギルドの馴染みのシャルが話をしてくれてスムーズに物事が進む。


 にしてもお会計の時は驚いた。シャルに言われて金貨3枚を出したクルミはまさか銅貨がそれ以上の枚数の銅貨と豆銅貨になるとは考えていなかったのだ。地球ではある程度大きくなったころには終末戦争で貨幣制度は崩壊していたので実際にお金に触れる機会はなかった。


 お腹もお財布も満足したクルミはシャルに促されて昼間の閑散とした冒険者ギルドの一角で手続きに入ることにした。

 複数人が座れるベンチ式の長椅子に隣り合って座る。


 用紙と最近普及してきたエンピツを片手に固まってしまったクルミ。


「まさか字かけない?代わりに書いてあげよっか?」

「ううん、字は書けるよ。生年月日とかどうしようかと思って―」

「あー適当でいいよ。自分の誕生日わからない人いっぱいいるし。ていうかクルミって何歳なの」


 冷や汗を垂らして満面の苦笑いをするとシャルをじっと見つめる。


「年齢もか・・・。見た感じあたしと同じくらいか少し下くらいだよね。同じにしちゃえばいいよ。創世歴120020年の春風月の20日ね」


 粗雑な鉛筆の黒炭を滑らせ濃い字で記入していく。時折悩んだり止まったりしているがなんとか書いている。


「ごめんシャル。この職業って戦士(ファイター)って書けばいいのかな」

「魔法が2系統以上使えなければそれでいいよ。鑑定水晶がそこいら修正してくれるしね」

「じゃあ出来た!」

「ほいじゃーいってみよっか!」


「「お願いします」」

「はい、お預かりしますね」


 受付に用紙を提出すると記入漏れがないかチェックされていく。問題がなかったのだろうか赤い印が2つ押されると水晶の表面にある紋様や文字に触れる。


「それではこちらの水晶に両手を当てて5秒ほどお待ちください」


 無言でクルミは手を水晶に当てる。特に光ったり音がでるわけでもないらしい。


「はい、ありがとうございました。それでは発行にミスリル板を使いますのでお先にお会計を済ませてもよろしいでしょうか」

「はい」

「それでは金貨1枚になります。出来上がり次第およびしますので」


 クルミは受付嬢に金貨を渡すと先ほどのテーブルに戻ろうとしたがシャルに引き留められた。


「1分くらいで終わるよねそれ」

「はじめて冒険者になる人だからマニュアルどおりやってるのよ。新人なんて年に数人しか来ないんだからそれっぽくやらせてよ」


 淡々と会話していた受付嬢は本音を吐露する。どうやらシャルとは仲が良さそうだとクルミは微笑んだ。


 水晶にあった長方形の窪みにカード型の金属辺を合わせる。すると小さい音でチーだかジーだかという音がかすかに聞こえた。


「あれでミスリル板に情報を書き込んでるだよ」

「へー」


 ほんの少しの経つと水晶がうっすらと光り、受付嬢が板を取りだした。わずかにだが鉄が焼けるような匂いが流れてきた。


「おかしいわね。ちょっと使えるか調べるから待ってね」


 二人はなんだろうと思いながら待っているともう一度水晶にはめこんでいる。


「どうしたの?」

「私も初めてなんだけど、印字が上手くされてないみたいでもう一回やってるの。他のギルドでも稀にあるとは聞いてたんだけどね」

「使えればなんでもいいですよ」


(もしかして転生者だからかな。水晶壊れなきゃいいけど)


 焼きなおされた冒険者カードを確認すると、細く穿かれていた穴に革ひもを通しクルミの手に渡された。ミスリルを用いた冒険者カードはとても軽く薄いがまったくたわむことはなかった。


「おめでとうございます。これで晴れてクルミ・オキ様は冒険者になられました。今後のご活躍をご期待します。こちらは『冒険者初心者の手引き』になりますので後でお読みになってください」

「おめでとクルミ」

「ありがとうございます。嬉しいです」

「それでクルミちゃん、そのカード印字変だけどちゃんと使えるから許してね。どうしても嫌だったら大都市の冒険者ギルドに行けば直してくれるから」


 どこが変なのか受けつけテーブルに置いて二人で覗いてみた。


「名前のとこが変でしょ。本当はファーストネーム、ミドルネーム、ファミリーネームの順になるのにクルミ・オキじゃなくてオキクルミになってるの。それ以外もちょっと・・・」

「あーマジだー」

「そうですね。でもこれ普通に使えるなら大丈夫ですよ」


 入国審査や銀行機能が使えれば問題ないのだ。


「それにしても冒険者カードってこんな感じなのですね」


 クルミとシャルはカードをまじまじと見る。

 冒険者カード表面は、左側に魔法で描かれたカラーの写真があり、右側に情報が掲載されていた。鑑定魔法でステータスも登録されていはいるが表示はされておらず、裏面には取得スキルが載っている。



 オキクルミ

 性別:両性 生年:西暦2000年 種族:人 職業:パラディン

 Lv:1 ランク:J 称号:なし 賞罰:なし 二つ名:なし(登録認証後使用可)


 スキル一覧:『超人Lv1』

       『剣術Lv9』『槍術Lv8』『投擲Lv7』『武器術Lv4』

       『雷魔法Lv7』『木魔法Lv7』



「あたしとパーティー組もう!」

「え」

「シャル言っておくけどそのスキルレベル合ってるかもわからないからね」


 ずっと探してた最強のパートナーになる可能性のある人間が目の前に現れた。


 バッファーと呼ばれる補助魔法使いには相方(ペア)が必須と言われている。それは補助をするという能力そのものに起因する。主に肉体能力の増強とするバッファー魔法は直接戦闘を行う者にかけてこそ真価を発揮する。


 しかしバッファーは人気がない。単体だと狩れない自分も守れないイメージが強い。その事を知っていたから攻撃魔法を取得し、相性の良い冒険者を探した。


「わかってる!あたしがこの金の卵育てるんだからっ!」


 シャルは飛びついてクルミに抱き着いて二人して倒れこんだ。


 クォーターエルフとして80年もこの日を待った。

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