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第01話

挿絵(By みてみん)


       30/30


その日、奇妙な新入生が入って来た。


商家が多く、商業で富み栄えているイェンセン城国、その中で

富裕層のお嬢様を集めたアイマリース女学院。

14~16歳の子で構成された「5」のクラスは騒然とした。

担任である女性の後から、その生徒が開き戸を手で確認しながら入ってきた。

設立5年目にして初めてだったのである、白杖をついた生徒は。

白杖をついている人を初めて見たお嬢様も数人いたようである。

そして目を引くのはそこだけではない。目隠しで顔が半分隠れている。

好奇の目、半信半疑の目で見つめられる中、

目隠しの生徒は杖を振りながら教卓の横へ進んでいく。

教卓に杖が当たると担任が彼女の肩に手を置いた。止まれ、という事だろう。

新入生は黒板の方を一度向きかけて間違いに気づき、

新調したての白いセーラーの襟と、深緑の制服の長いスカートを揺らして皆の方に向いた。


白いワイシャツとベージュのロングスカートの担任が、暗い顔をしてヒモのついた試験管バサミを取り出す。

3つの試験管バサミには、魔法石。

3本のチョークをそれぞれにセットして、ヒモを手に巻き黒板の3箇所にセットした。

1つは、日付と日直の名前を書き、

1つは今日の予定や連絡事項を書き

1つは新入生の名前を書いた。

まるでヒモでチョークを操っているように見えるが、彼女が実際にヒモを通して操ってるのは

3つの魔法石である。

彼女の魔法は、筆記具を3つの魔法石で同時に動かせる魔法のようだ。

板書しながら、彼女は黒板を見ずに生徒達の方を向いて話始める。

抑揚のない、無感情な声が教室に響く。

「えー、おはようございます 皆さん。突然ですが今日からクラスの仲間が一人増えます。

彼女の名前は サユ=ガーネットさんです。皆さんご覧のように目が見えていません。

そして。」

一目見ただけでも普通の人とは違う、その彼女に他に何かあるのか。

18人の女生徒はおしゃべりを止めて、次の言葉を待った。

「声が出なくて話す事もできません。」

クラスルーム内のざわめきが大きくなる。

好奇心にかられた後ろの席の生徒は、木の椅子を引いて立ち上がって目隠しの女生徒を注視する。

2,3人の生徒などは木の机に片足あげていた。

教卓に近い席にいるピンクの髪の巻き髪の生徒は、ことさら好奇心に目を輝かせ、

新しいおもちゃを見つけた子供のようにニヤニヤと笑っていた。

「皆さん協力して、仲良くしてあげてください。」

と担任。無茶な事をさらっと言う。

コミュニケーションが取りづらいのは必至だった。

終始口を硬く結び、無表情なサユと呼ばれた新入生。

その彼女が右側頭部の短い三つ編みとボブの黒髪をゆらしてゴソゴソと、

どこからかスケッチブックを出す。

ページをめくり、ずいっとスケッチブックを前に出す。

”よろしくお願いします” と書かれたページが開かれていた。


午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

今日は「5」のクラスでまともに授業を聞いていた者はほとんどいなかっただろう。

皆、教室の一番後ろの窓側に座った新入生が気になっていた。

しかし自由時間になってもサユに近づく生徒はいない。

みな遠巻きにヒソヒソと話し合い、話しかけるきっかけをつかみあぐねていた。

目隠しが顔の半分を覆っている姿が不気味な上、

見えなくて話が出来ない人にどう声をかければいいのかわからない、というより

声をかけて良いものかすらわかない。

クラス全体がそんな雰囲気だったのである。

当のサユは背筋を伸ばし、終始キレイな姿勢で席についている。無表情で。

どこかクラスメイト達の動揺をどこ吹く風、と受け流しているようにも見える。


「さっ サユさん!」


裏返った大きな声が部屋に響き渡る。サユは声がした方向あたりに顔を向ける。

全体がピンク色で、重力に逆らうようにハネ上がった前髪、

ツノのように編みこまれたダブルのシニヨン、さらにそこから小さな縦ロールが垂れ下がる。

短い眉の下には勝気な瞳、さらにこのクラスの年齢では、

かなり珍しいと思われる大きな胸が特徴的な女生徒がサユに近づく。

「ばっバーキン様、いっ行かれるのですか!?」

「さすがバーキン様!」

サユに声をかけた生徒の後ろに、中小2人の生徒が遠慮がちに続く。

「今何か困っている事はありまして?遠慮なさらずにおっしゃって下さって!!

わからない事があったら何でも聞いてくださいな!!!そうそう学院の中を今のうちに

案内してさしあげますわ!!!!」

ピンクの派手髪の生徒が大きな声で一気にまくしたてた。

「あの…耳が悪いとは先生はおっしゃっておりませんでしたわ…」

後ろに控えてた2人の生徒の小さい方が注意する。

サユは無表情に、大げさに耳に指で栓をするジェスチャーをした。

実際栓をしたいぐらいうるさかったのも事実。

「私は元から声が大きいのですの!」

普通のトーンに声を落として話すピンクの髪の生徒は少し顔を赤らめ、不機嫌そうな顔をした。

サユのスケッチブックがせわしなく開かれる。

”ありがとう”

”トイレはどこですか?”

”質問があります”

立て続けにページが開かれメッセージを見せる。

サユはどのページに何が書かれているか全部覚えているようだ。

この時、遠巻きにしていた生徒達の顔から不安の色が和らぐ。

どうやらスケッチブックで最低限のコミュニケーションが取れるようだとわかったからだ。

「わかりましたわ、トイレもすぐに連れて差し上げますわ、

それから案内をしてさしあげましょう。

その前に自己紹介が遅れました、私は…」

ピンク髪の少女が話す間、サユがスケッチブックをめくる。


”ルコリー=バーキンさんはどこにいますか?”


「ルコリー…バーキン…えっ!?」



「ふぅ…」

トイレ前で息をつくルコリー。

目の見えない人に、日々当たり前にしていることを説明するのは少し苦労した。

「ご不浄」なので手で触らせて位置や方向を確認させていいものかも悩んだ。

「だ大丈夫でしょうか、あ、あの方…」

バーディがトイレの方をうかがう。

「バーキン様、疑問に思ったのですが…」

「ん?なにマキナさん。」

「あの眼隠しって何か意味があるのでしょうか。

目の見えない方って皆目隠しをしているのでしょうか。」

そこへ、

”お待たせしました”

のページを開いてサユが出てきた。

「大丈夫でしたの?」

の質問に対して、”はい”のページが開かれた。

次に新たなページが開かれる。

”目隠しは、目の見えない人の新たなファッションです。”

「まあ、やはりそうなんですの!」

「よく見ると、小さな刺繍もあってかわいいですものね!」

大嘘である。

サユは事情があって目隠しをしているが、それを話して回るつもりはない。

しかしさすがお嬢様達である。簡単に信じ込んでしまった。

なにせ、比較対象を知らないのだからしょうがない。

きっと、真実を知るのはこの学院から社会に出て数年後ぐらいになるだろう。

「さて、では案内して差し上げますわ。それとも、食事が先かしら。

時間に余裕がまだありますからどちらでもかまいませんわよ」

サユはスケッチブックをめくる。

”すいません 2人きりにしてもらえませんか?”

これはルコリーではない、明らかにバーディとマキナのいる方向へ向けて開かれた。

「そ、そんな…」

「バーキン様、どういたしましょう?」

お下げを揺らして動揺するマキナは半泣きだ。

人見知りで背の低いバーディはマキナの後ろに少し隠れながらルコリーにお伺いをたてる。

「マキナ、バーディ 私なら大丈夫ですわ。お2人は先に食堂でお昼をお食べになって。

サユさんも私を探してらしたようですし、私もサユさんに色々とお話を聞きたいですもの。」


すごすごと去る二人を見送る。

廊下では何人かの生徒とすれ違う。

「ごきげんよう、バーキン様」

「ごきげんよう」

応えるルコリー。時々通り過ぎる下級生たちがそう声をかけていく。

声をかけた後、その横に立つサユの姿に驚き、足早にその場を離れていく。

”みなさん 礼儀正しいですね”

そう書かれたサユのスケッチブックのページが開かれる。

「そうでしょう、そうでしょう! 」

何故かルコリーは得意げだ。

「フフフ、私が入学した時はこの学校はひどいものでしたわ。

貴女、貴族育ちのわがまま娘ばかりが集められた場所がどうなるか想像できますかしら?」

”いいえ”とサユのスケッチブック。

「大声でおしゃべりしながら好き勝手走り回って。おサルさんの集団でしたわ。

生徒の親達の寄付で成り立つこの学院で、先生方は注意する権限も

勇気もありませんでしたし。」

ルコリーは笑顔を絶やすことなく話を進める。

気さくな性格なのかしゃべる、しゃべる。

軽くステップを踏んだり。

話が長くなるのでルコリーの話を要約すると、彼女は学校中のクラスを回り、

「良家の娘なら、淑女たれ」と説いて回った。最初は抵抗や妨害があったが

日々穏便に過ごしたい穏健派が徐々にルコリーに賛同し、今のような穏やかな学園が形成されていった。

結局、悪ふざけをする生徒は少数、周りに流されやすい人が多数いて、

「淑女たれ」と説いたらそちらに流される人が多数になり、悪ふざけ組は鳴りを潜めたのである。


長く続く話の中、サユは杖の上部を軽く掴み振りながら歩く。

杖がカラカラと木の廊下の床をすべる。

話に夢中のルコリー、杖でまわりを確かめながら歩くサユ、先ほどから案内が全然進んでない。

”それはすごいですね”のページが開かれる。サユ無表情。

本当にそう思っているのか全くわからないが、ルコリーは得意顔。

「そうでしょ、私ってすごいでしょ!フフフ。まぁバーキン家の長女とサルでは格が違いますからね。

新入生の案内の役目も、学校の代表とも言える私の役目と思いましたの。

そうだわ、ところで貴女出身はどちらですの?私は…」

まだ話が続きそうだ。

サユはスケッチブックのページを開きかけたが、思い直したようにそれをしまった。

サユが手を伸ばし、ルコリーの体の位置を確かめるように肩に触れた後、腕をつかんだ。


『まどろっこしいです。話があります。』

「!?」


ルコリーは周りを見回す。すぐ近くに声が聞こえたが、サユ以外は少し離れた場所を歩く生徒しかいない。

サユの口は先ほどから硬く閉ざされたままだ。

それに声が耳から聞こえた、というより体の中に声が響いたようにも思える。

サユが掴んでいた腕を軽く引っ張る。

『私です。私が魔法であなたに話しかけています。急ぎの用が貴女にあるのです。』


この世界では、人は誰でも1つの魔法を持つ。


幼少期には皆「バリア」の魔法を持つが、大人に近づくにつれ「バリア」は薄れ、

血筋や生い立ち、環境、思想、思考様々な要因により違う魔法を持つようになる。

しかも「バリア」の魔法以外は原則、無機物に対してしか発動しない。

特定の物に触れて、初めて魔法が発動できるのである。


個人差はあるが平均して20歳前後で個人の魔法は確定する。

大人の魔法、これを「特技魔法」または「職業魔法」という。

しかも大人の5割から6割が、魔法石を動かす魔法になるという。

15~6歳で特技魔法を持っている者は少ない。

「バリア」の魔法も弱くなり、思春期のこの時期が一番魔法が使えない時期である。

大人の魔法の為の準備期間といったところか。


「ええ~~~~っっっ!!」

ルコリーは声が大きい。

普通とは違うサユの姿が珍しいのか、廊下を歩いてる者は2人に注目しているが、

ルコリーの突然の絶叫に多くの者が不安を感じ、ザワつきはじめた。

『うるさいっ このバカ!静かにしろ!とにかく他人の邪魔がなくて、広めの場所へ案内しろ、ください。』

「ええっ!?あっええ、ええ!?」

動揺したルコリーはサユの話し方が少しブレた事に気がついていない。

サユは杖を体に寄せて柄のやや中ほど持ち、左手でルコリーの右の二の腕を軽くつかんでゆする。

この体勢で案内しろと催促しているようだ。


中庭に出てきた2人。

アイマリース女学院の案内と言っても、元々は商家の木造の家を改築したもので

8つの教室と食堂、運動場と室内運動場とこの中庭ぐらいしかない。

あと、少し離れたところに寮があるが今は案内する必要はない。

運動場は広いが、正門から校舎へ続く馬車道の隣にあり、人目に付きやすいし

休み時間とあって、利用している生徒も多い。

校舎と室内運動場、その2つを繋ぐ廊下に囲まれたこの中庭なら、

時折人が通るぐらいでまだ人目に付きにくい。

低い樹木も植えられていて、さらに都合が良い。


『ねぇ、さっきから手に何か柔らかいものがあたるのだけど、これ何かしら。』

サユが魔法で話しかける。

「何って…胸にきまってるじゃない…」

『え!?貴女私と同じ年齢ですよね。それが師匠と同じぐらい、いやそれ以上の…』

ルコリーは、右胸をなでられた。

「ばっばかぁぁっ!」

羞恥と怒りの声を上げ、サユの左手をつかみ上げる。

「女子同士でもやっても良い事と悪い事の区別も!

ああっもう貴女、色々おかしいですわよ!」

揺れる胸を腕でガードするように押さえつける。

「話せるなら、話せるって言いなさいよ。みんなを騙して楽しいのかしら?」

さらに怒りを増した声でルコリー。

サユは、左手を取られていたがすました顔で、

『特技魔法は他人に教えないのが鉄則、って親に教えてもらってないのですか?

それに魔法は物と接触して使うものでしょ。全員と話すなんて物凄く疲れるのよ。』

などと言う。

私は物扱いか、謝罪はないのかと思うルコリー。ますます不愉快になる。

無機物に触れて魔法を発動させるこの世界で、

サユのようなマインドに働きかける魔法はイレギュラーでレアな存在である。

イレギュラーとはいえ、直接触れないと会話が出来ないようだ。

『とにかく私の話を聞いて。急を要するのです。』

強く掴まれていた左手をするりと抜いて、逆にルコリーの手を握る。

サユがぐっと顔を近づける。

ほのかに石鹸の香りがする。朝に湯浴みでもする習慣があるのだろうか。

「な、なによ!?」

家では専属メイドに育てられ、学院では「バーキン様」と敬われているルコリーに

こんな接近して話をしようとする者はいない。無礼である、と言いたいところ。

よく考えてみれば、手から体に話かけているので顔を近づける必要もないし、

相手は目隠しをしているのでどこに焦点をあてて見ればいいのかわからない。

逆に目隠しに圧倒されそうだ。

とりあえず、口を見る。硬く結ばれているが小さくて可愛い口ねぇ、などと考えている。

先程までのイライラは、どこかに引っ込んだようだ。


『あなたのお父様が亡くなられました。』


「え!?」


『自殺か他殺かハッキリしませんが、他殺の可能性が高いです。』

『お父様につき従ってられたあなたのお兄様、ヒースフレア=バーキンさんも行方不明です。』


「ええええええ!おおおお兄様が、お兄様までっっ!!」

父親より、兄の行方のほうが反応が大きいルコリー。

意外に思うものの、血縁者や親類のいないサユにはそれが普通かどうかわからない。

兄のように慕っていた人がいた事があるので、そんなものかなとも思う。


『バーキン家は本家があるのはご存知ですか?

お父様の生前の遺書により、お兄様とあなたが財産を2分する事が決まっていますが、

その2人が実家にいない状態なので、本家が財産の凍結を行いました。』

『30日後にあなたの実家で相続会議が開かれます。

その時までにあなたは実家に戻らなければいけません。』

そこまで一気に話したサユが顔を離す。

『私は貴女の実家のあるタウチット城国までのボディガードとして雇われました。

一刻も早くこのイェンセン城国を発ち、タウチットへ向かう事をお勧めします。』

大陸の中央、フラクシズ地域の北にタウチット、中央西の海の側にイェンセンがある。

馬車で8日はかかる距離だ。


2人の間に暫く静寂が流れた。

聞こえるのは校舎や運動場の女生徒達の声や扉の開け閉めする音。

暖かくやさしい風が2人の間を通り過ぎる。

この時ルコリーはどんな顔をしていただろうか。

サユは見えないし、ルコリー自身どんな表情をしていたかわからない。

それどころではなかった。

ルコリーの頭の中は色んな言葉や事柄が駆け回り、それらを吟味し整理するのに一生懸命だった。

無理もない。

今まで何不自由なく暮らしていた少女には、いきなり理解しろというには難しすぎる事柄が多すぎた。

歩いていると、いきなり地面が消えて地底の暗い闇へ落ちていく気分。

そんな気持ちの中、ルコリーの出した答えは…


サユにはほんの一瞬、

ルコリーには太陽が15度ほど傾いたぐらいに感じた時間が過ぎた時、ルコリーは口を開いた。

「貴女は北から来た人でしょう?」

『ええ、そうよ』

ずっとルコリーの二の腕を掴んだままのサユは魔法で答える。

第三者から見ると、ルコリーが一人しゃべりをしているように見える。

幸いに先ほどから中庭は2人しかいない。

「イェンセンのある南ではね、バーキン家は知られてないけど北では富豪として有名なのよ。

貴女は嘘で私を連れ出して、人質にしてお父様に身代金をゆする気ね!!」

『………』

「もし家で何かあった場合には、馬車を寄こすか信頼ある使いの者が来るはずよ。

ふふっお馬鹿な人ね。私は貴女のくだらない嘘には乗らないわ。

そして貴女を警備員に渡して万事解決になるわね。

しかしなかなか考えたわね。私と近い年齢の女の子を使って学校にもぐりこむなんて。

よく学校関係者を騙せたわね。ここに入るには紹介状を初め、色んな書類が必要なのに!

あなた達一味はとんでもない悪党みたいね!

大方、お金に困って悪党の手伝いをしているのでしょう?

今、本当の事を話すなら、私が学校に掛け合って保護なりなんなり……」

『……私は今、学校関係者のはからいで、警備員寮に寝泊りしています。』

「……は?」

ここ、アイマリース女学院は赤いレンガの高い塀で囲われ、正門と裏門に警備員詰め所がある。

その堀の外に寄り添うように細長い警備員寮がある。

富豪のご令嬢を集めている場所なので、セキュリティ面では力を入れているので安全ですよ、

と内外に示しているのである。

ちなみに警備員は軍役経験者が絶対条件だが、家柄や素性の明らかな者が優先で雇用される。

女子を多く預かるので、男性警備員の抑止力として女性警備員も多い。

警備能力としてはいま一つ不安なのだが、その悩みは学院内の大人の間だけで秘されている。


『いい?ルコリー。私は依頼主と会ってないけれど、お父様が亡くなる10日以上前に

有事の時に貴女を守る依頼が来ていたの。

つまり依頼主は近いうちに有事が起こる事を予見し、

貴女への遺産を横取りしようとする敵が現れる事まで考えていたのです。

そして、家紋入りの馬車ですっ飛ばして、敵の標的になる事も危惧していたのです。』

今度は私の番だ、とばかりにサユが話を続ける。

『貴女のお父様は殺された可能性が高いのです。

そして貴女とお兄様の前にその敵が現れる可能性も高いのです。もしかしたらお兄様は…

私は二日前にこのイェンセン城国に入って、わたし達のネットワークで誰よりも早くお父様の訃報を

聞きました。だから一刻も早くこのイェンセンを出る事が敵を出し抜くチャンスなのです!』

魔法でいっぱい喋るのはつかれるわ、と呟きながらサユの話は終わる。


サユの話の後、少し考えてからルコリーが言う。

「…学校公認だからって、貴女がその敵である可能性だってあるじゃない。」

『…は?』

ルコリーの腕を掴んでいたサユの手の力が少し抜ける。


ぺちっ


ルコリーは左手でチョップを繰り出したが、サユの左手で止められる。

「ほら、貴女の目が見えないのも嘘なんでしょ!白杖もその目隠しも私を油断させるための…」

『師匠の元で修行した成果です。師匠はすごいんです。すごい師匠なんです。

私は目は見えないし、喋れないのも事実です。

話せないからこんな魔法が使えるように…』

サユが言い返していた途中で、ルコリーはサユの右手を振り払った。

「とにかく!!

何かあったとしても私は家の指示を待ちますわ。

お父様の指示でこの学校に来たのですもの、勝手にここを離れられませんわ!

お父様とお兄様に手紙を書いて指示が来るのを待ちます!」

言い放つと、ルコリーは足早に中庭から校舎へ入っていった。


鐘が鳴る。

どうやら午後の授業が始まる鐘のようだ。

ぐぅ~、とサユのお腹が鳴る。

私のお昼ごはんが…と心の中で呟いてうなだれた。


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