序章
目が覚めると見覚えの薄い天井が視界にぼんやりと入ってくる。
天井だけではない、今起き上がったベッド、壁に張られているポスターや時計、机や椅子も全て同じ感想を持つ。
俺は自分が誰なのか分からない
俗に言う『記憶喪失』と言うやつだ。
ベッドから起き上がり、まだ眠りから覚めたばかりの体を少しでも起こそうと体を伸ばす。
眠気が覚めないまま洗面台に向かい顔を洗い歯を磨く。
鏡に写る冴えない顔は『これが自分の顔か』と感想を持つくらいで違和感は感じない。
朝の支度を終わらせ、ダイニングに入ると食卓の上に母が作り置いてくれた朝食を見つける。
朝食の横には『調子が悪かったら直ぐに帰ってきなさい』と息子の体を気にかけるメッセージが書いてあった。
無音で食べるというのも寂しいのでテレビを点けると、朝の情報番組が映し出された。
テレビから事件や政治・経済の話、芸能情報に今日の天気予報と色んな情報が耳に入ってくる。
その中で気になるものと言えば、今日の天気予報くらいで後はただのBGMだ。
「ピンポーン」
出掛ける時間を知らせる家の呼び鈴が鳴ってしまう、何時もよりものんびりと朝食を食べていたようだ。
壁の時計に視線を移すと確かに出かける時間になってしまっている。
しまった!と慌てて手に鞄を持ち、靴に足を乱暴に突っ込むと同時に二度目のチャイムが鳴る。
急いで玄関の扉を開けて、視界に入る二人の女の子に朝の挨拶をする。
「ごめん、二人ともおはよう」
記憶を無くしても生活には困っていない。
帰る家もある。
常識と言う知識も失っていない。
記憶が戻らなくても生きていくのには十分な環境だ。
余裕、そんな状態にも関わらず頭を抱えてしまう問題が俺にはある。
二人は俺に嬉しそうな表情を向けると、声を揃えて挨拶を返してくる。
「達哉」
「おはよう」
「智哉先輩」
俺は自分が誰なのかがわからない……
小説をかけるほど私には文才がありません。
文章を書く練習も兼ねて投稿してみました。
多くの人の目には触れないとは思いますが、気に入っていただけたら良いなと思います。