真夏の夜の。
木々と社の向こう側で、お囃子が鳴り始める。
昼間、ちらりと目にした、鮮やかな衣装を着た子供たちが踊り始めるのだろう。
暗がりの中、一本の木の根本に座りこんで、紫月は大きく喘いだ。
「間に、あった、な」
「ああ」
相棒も近くの木にもたれかかって、片手で顔を扇いでいる。
無理はない。昼間は恨めしいほどいい天気で、今もなお、夜気にその熱は籠もっている。
今回の仕事は、この神社からだ。
どうやら小型の動物霊が出没するらしい。神域にまさか、と思ったが、その動物は祀られているものが苦手な種類だったらしく、追い祓うに祓えないようだ。
このままだと苛立った氏神が祟りを起こすかもしれず、どうか夜の夏祭りが始まるまでに何とかして欲しい、と頼まれたのだ。
しかし小型なだけに相手はすばしっこく、彼らはそこそこ広い神社内をひたすら走り回った。ここしばらく鍛えて体力をつけてはいるものの、紫月はかなり限界だ。
咲耶はむしろ、暑さにへたばっている。この季節になっても、頑なに黒革の上着を着ているからだ、と半ば呆れて紫月は考えていた。
急拵えの檻に入った動物霊は、小さな丸い目で不思議そうにこちらを見上げている。
「ほら。そろそろ還んな」
気怠そうに咲耶が片手を向ける。小さく呟く呪が進むにつれ、小さな姿はちらちらと揺らめく光に変わってきた。
やがて、黄色がかった光の球になり、すぅっと檻から抜け出す。二人の間をくるりと回って、空へ向かって昇っていった。
「……蛍って、あんな感じなのかな」
「見たことないのか?」
驚いたように返されて、頷いた。都会っ子め、と長い黒髪を揺らして相棒が笑う。
「休み作って、ちょっとどこか旅行行くか。蛍を見に。来年は受験で無理だろ?」
そう告げられて、苦笑する。全く、自分は学歴に興味がないくせに、変なところに気を使う。
「そうだな」
小さく返事をすると、少年は頷いて立ち上がった。提灯の下がる方へと足を向ける。
「あー。暑ぃ。屋台出てたろ。かき氷でも食おうぜ」
「僕、屋台で何か買うのも初めてだな」
「……お前、都会っ子ですらないのか」
何だか不憫なものを見る目を向けられて、紫月は僅かにむっとした。




