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IMAGE Crushers!  作者: 水浅葱ゆきねこ
第一話 拝み屋の少年と呪われた王国

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第四章 04

 杉野孝之は、地方都市の、ごく普通の家庭に生まれた。

 幼い頃は身体が弱く、ちょっとした風邪などでも数日寝こむことはしょっちゅうだった。

 母親は働いていたために、彼は一人本を読んで過ごすことが多かった。


 悪魔や怪物といった想像上の生物に入れこみ始めたきっかけはよく判らない。

 読んでいた本の影響か。

 子供の頃に、爆発的な人気となった、家庭用テレビゲームのせいか。

 ただただ彼は、その奇怪で恐ろしく、人よりも強大な存在に魅了された。

 色々な本を読み、自分で怪物たちを分類するノートを作ったりもした。

 それは知識が増えるにつれ、新しい方法を思いつき、より複雑になっていく。


 そして、やがて、彼は思う。

 こんな空想上の生物を生み出した過程を知りたい、と。


 その好奇心のままに、杉野はひたすら本を読み漁った。

 原書を理解したい、と、外国語も自ら熱心に学んだ。


 世界のあらゆる場所に神がいた。そして怪物が。

 神は目に見えないこともある。だが、怪物は実際に目にするという伝承が多い。

 これだけの目撃談があって、それが全て虚構であるという確率はあまりに低いのではないか。


 悪魔を召喚しようとした例は数多い。

 その内の、ほんの幾らかでも、成功したことはあるのではないか。



 杉野が初めて悪魔を召喚しようと試みたのは、高校に入ってすぐのことだった。




 大学は、キリスト教系の聖藍(せいらん)大学へと進んだ。

 遠方の、しかも私学であることで、少々両親は渋ったが、子供は彼一人で、資産はそれなりにあった。

 ここを選んだのは、キリスト教における異端というものの研究をしている教授がいたからだ。

 それは宗派に限らず、悪魔崇拝という方向にも及んでいた。


 教授の授業には、必ず出席した。

 それは必修授業ではなかったこともあり、学生は割とさぼりがちだった。

 そんな中、同じように毎回出席する者たちは顔見知りになっていく。

 荻原愛美と、弥栄誠一。

 彼ら三人は、徐々に親しくなっていった。



「杉野くん杉野くん! これ、ありがとう!」

 食堂のテーブルの上に、どん、と分厚い書籍が置かれる。

 杉野はそっと昼食の乗ったトレイを自分の方に寄せた。

「読めたのか。どうだった?」

「判んない!」

 胸を張って告げる相手に、溜息をつく。

「日本語訳だろ? 簡単じゃないか」

「杉野のレベルは高すぎるよ」

 隣に現れた男子学生が苦笑して椅子に腰かけた。

「そうでもない。原書はなかなか手に入らないからな。英文訳ならまだあるんだが。できればラテン語か、ヘブライ語のがあれば」

「読めるの?」

 続いて座った女子学生が、悪戯っぽく問う。

「……勉強はしてる」

 憮然として返して、杉野は本を丁寧に鞄へとしまった。

「そんな勉強熱心な杉野くんに、ろうほーう!」

 陽気な声を上げる相手に、やや眉を寄せた。

「弥栄。もう少し、荻原を静かにさせられないか」

「俺も十五年ぐらい頑張ってるんだけどねぇ」

 にこにこと笑みを湛えたまま、弥栄と呼ばれた男は返した。

 食堂内は騒がしく、こんなことでは注目もされない。

「もー。教えてあげないよ?」

「だから何を」

 がさ、と、荻原は一枚の紙を広げて見せた。

 手書きの文字や稚拙なイラストが黒一色でコピーされている。

「……黒魔術同好会?」

「流石に正式なクラブの認可は下りてないみたいだけどね」

 学校側はかなり堅実だ。


『きたれ、新入生!

・魔術に興味がある

・魔女の秘薬を作ってみたい

・占いを学んでみたい

・古き神々の前にひれ伏したい

 各種書籍・資料・魔女の大釜・二十面ダイスなど完備!

 見学だけでもOK!』


 三人はゆっくりと顔を見合わせた。

「これ色々違うのが混じってるだろ」

「そりゃ、あんまり真面目な感じじゃないけどさぁ」

「いや真面目な黒魔術同好会ってこんなおおっぴらに宣伝するものじゃないよね」

 口々に感想を述べる。

「でもほら、各種書籍に資料だよ! 何か掘り出し物があるかもしれないじゃない!」

 まだ一年生の彼らは、図書館ぐらいしか資料を探しに行けない。まして黒魔術に関する原書など、殆ど置いてはいなかった。

 古本屋を回っても、伝手も何もない彼らが目当ての本と巡りあう可能性は低く、しかも恐ろしく値が張るのだ。

 三人は、とりあえず見学に行くことにした。



 黒魔術同好会は、意外にもクラブ棟の中に正式に部室を持っていた。

 プレハブ造の廊下を歩く。通り過ぎる壁や扉にはべたべたと色々なポスターが貼ってあった。素人劇団やミュージシャンの公演、絵画や写真の個展の案内、コンパの報せなど。

 その中で、目指す同好会はさほど周囲から浮いている、という風ではない。外見上は。

「やっぱり、今日、行くのか?」

 弥栄が、やや尻込みする。

「明日に延ばしても仕方がないだろう」

「弥栄くんは人見知りだからね」

 呆れた顔の杉野と、わくわくしている風の荻原が返す。そして、自然に扉を叩いた。

「開いてるよ」

 中から軽く声をかけられる。肩を竦め、杉野は扉を開く。


 内部は、やたらと狭かった。

 入口から見て両脇の壁には棚が並び、みっしりと本やファイル、奇妙な道具などが並べられている。

 中央には長机を二つ寄せてあり、その周囲にパイプ椅子が置かれていた。机の上も、本や紙、理科の授業で使ったような実験道具などが乗っている。

 室内にいたのは、二人。

 陽気な男は会長、静かに本を読んでいた女は副会長と名乗った。

 他にも数人会員はいるが、今日は来ていないとも。

 椅子に座るようにと促されるが、杉野の目は本棚に釘づけになっている。

「凄い……まさか、こんなものが、こんなに」

「判るの? 一年生だよね」

 驚いたように、会長が声をかける。

「杉野は、ああいう本が大好きなんですよ」

 苦笑して、弥栄が告げた。

「先輩方が集めに集めた魔道書の数々よ。気をつけて取り扱いなさい」

 副会長の言葉を聞いて、気をつけていればいいのだ、と言わんばかりに、杉野はいきなり一冊を手に取った。その場で立ったままページを捲り始める。

「おい、勝手に許可出すなよ。最初は交流とかさ」

「まだろっこしい自己紹介とかしても、気に入らなかったら入ってこないわよ。気に入ることをさせればいいの」

 呆れた顔を向けた会長は、残る二人とコミュニケーションをとることにしたらしい。

 自己紹介などを経て、それは雑談に変わった。

「君たちは何をやりたいのかな」

「うーん……。私たちは、人を捜しているんです。だから、占いになるのかしら」

 困った顔で、荻原はそう答えた。


 同好会には、様々な人がいた。

 各種占いの結果を比べ、統計を取ろうとする者。

 『魔女の秘薬』を実際に作ってみようとする者。

 彼は薬学部の学生で、作り上げたものの成分分析まで行おうとしていた。

「ヨーロッパの研究所が、実際に作ってみた例はある。『魔女の軟膏』だ」

「あの、サバトに向かう前に使ったって言われている薬?」

 学生は頷いて続ける。

「魔女が、箒に乗って空を飛ぶために塗る、薬だ。再現したものからは麻薬に似た成分が検出されて、実際に塗った人間は恐怖を伴う悪夢を見たと報告されている」

 『魔女の大釜』を使っているのも、この学生だった。尤も悪臭が酷く、学内ではもう使用できないらしい。

 材料を全て集めたら、どこか人里離れた土地で作る予定だ、と言っていた。

 そして、究極のゲームシナリオを作るのだ、とディスカッションを繰り広げるものなど。

 杉野たちも、時折それにつき合わされていた。


「実際に悪魔召喚をやってみたいんです」

 専ら本を読み耽っていた杉野が、会長に申し出たのは、一年生の夏休み前のことだ。



 彼らは大いに乗り気であった。

「実践できずして何のための同好会か」

 大見得を切る会長だったが、しかし、部室を使うことはできなかった。

「ここには、貴重なものが多すぎる。もし破損でもしたら、その損失は計り知れない」

 そもそも、夜間に学内に入れる訳もない。

「できなくはないんだけどね」

 と不穏に笑う者もいたが。

 結局、夏休みに、合宿と称して大学が所有する保養所を使うことにした。

 夜間でも会議室を利用できるし、何より広い。

 黒魔術同好会の部室は、日に日に混迷の度を増していたのだ。

 部長と杉野は、顔を突き合わせ、段取りと必要な物資を列挙していった。

「生贄は?」

「必須です」

 この時点で、数名の部員は不参加になったが。


 結果から言うと、第一回の悪魔召喚実験は失敗に終わった。

「残念だね、杉野くん」

 翌朝、じっと考えこんだままの杉野に、荻原が声をかけた。

「ん? ああ。でも、正式な作法で召喚するのにどれぐらいの広さとものが要るのか、大体は把握できた。部室は無理でも、どこかでまた試すことはできそうだ」

 前向きな言葉に、荻原と弥栄が顔を見合わせる。

「それより、そっちの進み具合はどうなんだ?」

 彼ら二人は、占いの研究をしていた。

 誰を探したいのか、全く話そうとしないため、自分たちで占うことに決めたらしい。

「うー。駄目。私、才能ないのかなぁ」

「弥栄は」

「僕もあんまりね」

 肩を竦め、二人は苦笑しあっていた。




 初めて悪魔の召喚が成ったのは、彼らが三年生になった秋のことだった。



「凄い凄い凄い! 杉野くん凄いよ!」

 十分ほど呆然としたあと、最初に大声を上げたのは荻原だった。

「いや……駄目だ。二分も固定できなかった」

 悔しげに、杉野が呟く。

 弥栄は放心した状態から抜け出せていない。

 魔方陣の中央、幾重にも悪魔を拘束する陣の中に現れた生物は、ほんの僅かな時間で霧のように消え失せたのだ。

 夢か、と思えそうな短時間だったが、しかし、焚きしめた香ですら消えない、つんとくる悪臭がそれを否定する。

 そして、生贄に捧げた鳥の死体が、羽根の一枚すら残さずに消えている。

「それでも凄いよ! 可能性がゼロじゃなくなったんだもん!」

 嬉しそうに言う荻原は、思えば最初の時から各種の生贄に顔色一つ変えていない。

 高校生の時に生物でも選択していたのか、程度に思っていたが。


 彼らは更に研究を重ね、そして。


 トゥキ・ウルを召喚し、契約を結ぶことに成功した。



 悪魔というものは、基本的に人間を堕落させ、その魂を奪うものだ。

 しかし、それぞれ得意な手段がある。

 悪戯を繰り返すもの。人の望みを叶え、陥れるもの。

 トゥキ・ウルは、情報を司る悪魔だった。

 彼の知識により、杉野の悪魔召喚の精度は格段に上がる。




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