第三幕 やっぱり勇者だよね
第三幕 やっぱり勇者だよね
勇者……? 勇者……?
勇者ってなんだ。俺にとって勇者ってなんだ?
きっかけはあるRPGだった。
金を投資すれば誰でも勇者になれるという。
だから俺は金を大量に注ぎ込んだ。
勇者になれる権利というものは金で買えるらしい。だから、俺は勇者になれた。
のはずだった。
起きてみるとそこは別世界だった。
俺が知っている世界ではない。なぜなら窓の外が戦争で明け暮れていたからだ。
片方の陣営は西洋で使われているような大砲を持っていた。
それで片方の陣営に対してとどめをさしている。
ああ……なんて面倒な世界に来てしまったのだろう。
そんなことを思っている暇さえなかった。
なぜならその弾が自分がいる場所に直撃したからだ。
直撃したのに家が壊れなかったのは幸いかもしれない。
後ろを振り返るとそこには落ちてきたと思われる弾があった。
これが直撃しなかっただけ良かったのか。俺はそう思うことにした。
家が壊れたおかげで外の景色がよく見える。
大砲を撃った側は楽勝なのか快進撃を続けている。
その証拠に大砲を撃つ部隊でさえも前進していた。
はあ……、この先が思いやられる……。
俺は目を閉じることにした。
起きてください。
起きてください。
時間ですよ。
ぱっと目を開けるとそこにいたのは見知らぬ女性だった。
見たことがない。本当に見たことがない。
がばっと起き上がるとそこは家だった。
さきほどとまた違う、だけど現代の家に近い家。
木造ということだけ違って後は作りが似ている。
家ということは……、俺は誰かに助けられたのか?
起き上がったときに俺を覗いていた人物とぶつかってしまった。
いたっ……、と思い目を開けるとそこにいたのはなんとも可愛らしい女性だった。
身長は俺より低く、頭にはカチューシャをつけてて、ぶつけた場所を擦っている。
大丈夫ですか?
声をかけてきた女性はどうやらこの人だったようだ。
見た目からするとメイドのようだが、ここの雇われなのだろうか。
こちらを見ると笑いかけてくる。
くすっと笑われるとこちらもつられて笑ってしまいそうだ。
いったい俺はどれほどこのような無邪気な笑顔に触れてこなかったのだろうか。
赤ちゃんの笑顔が可愛いというが、こういうことなのかもしれない。
人は誰でも可愛いものを見るとにこやかな顔になってしまうのだ。
そう思えてしまうほどの笑顔。
やばい、これは萌える。
萌えという感情は俺にはわからない。
と思っていた。
しかし、これは萌える。そう。そう思えるほどだ。
心の内側からくるこの衝動。これを萌えと言わずして何を萌えと呼ぶのか。
自分の中で自問自答してもいいが、それは野暮というものだろう。
こんなことをしている暇があったなら今すぐ目の前の人物をじっくりと見たい!
そうだ、考えている時間でさえももったいない。
だから、俺は目の前の人物を見る!!
っと、凝視していたからだろうか、前にいた人物は怪しそうに俺を見てきた。
さきほどの顔はどこへ行ってしまったのだろうか。
俺を見る顔は、生ゴミや、廃棄物、下等生物を見るそれと似ていた。
つまり、汚いものや触りたくないものを見る目である。
正直、怖かった。
こんな目をされていたらいくら俺でも数分で逃げ出したくなる。
もしカフェでこの人と一緒にいて初めの二言三言会話した後に、こんな気まずい状態になったら冷や汗をかきながらその場で固まってしまうであろうレベル。
つまり、今、俺はいくら可愛い美少女でも一緒にいたくない。
そう思えるほどの顔だった。
なんですか。どうしたんですか?
かと思ったら再び前の笑顔に戻る。
もう怖くて直視できない……。
怖い、怖い、怖すぎるよ……、なんだよ、これ……。
リアルの女子がこんなに怖いとは思いもしなかった。
ああ……、二次元の女子は楽だよなー。不満一つ言わないもんなー。
フィギュアは楽だよ。
愛でてるだけでいいんだもん。
ああ……、なんと二次元の楽なことか……。
と思っている間に、顔面パンチが来た。
いつの間にか突っ伏していたのだろうか。俺はK.O.を食らって床とキスをしていた。
気がついたら夜だった。
ずいぶんと寝ていたらしい。
俺は天井を見上げると呻いた。
「あれ……?」
声が出ない。
いや、そうじゃない。
必要なはずのもののところだけ言えないのだ。
たとえば自分の名前とか。
そこのところがごっそり抜け落ちてしまったかのように言えない。
ここまで出てる。だが、発声にならない。
音としてその言葉は存在しないのだ。
少しだけ考え、もう一度、考えを廻らせる。
だが、色々な考えは浮かぶものの、明確な答えは出てこない。
しばし、逡巡し、考えを廻らせた。
出てきた答えは一つ。
俺、誰だ?
夜になって気がついたが、この世界、月は存在しないらしい。
月明かりというものが見えない。
だが、自分を認識できているのは、周りが明るいからだ。
この部屋は真昼のように明るい。
よくわからない魔術なのか、魔法なのかが効いているらしい。
というのも、電源コードが見当たらないのだ。
上に照明がついているのに、蛍光管や電球は見当たらない。
その上、照明器具のような形さえしていない。上に光そのものがある感じだ。
その光がドア近くの棚の上にもある。
だから、この部屋が明るいのだ。
そこまで思考を廻らせると俺はもう一度目を閉じた。
このままいても飯が出てくる保障はない。
ならば、寝て朝になってから動くのがいいだろう。
目を開けた。
夜か……。
まだ外は暗かった。
月の明かりがないせいで真っ暗だ。
瞼を閉じると今日、起きたことが思い返してきた。
いきなりこの世界に飛ばされて何も出来ずに夜に至る。
俺、なんでこの世界に来たんだ?
とか思っていたらもう朝だった。
目を閉じて開けたらもう朝になっていた。
暗さはどこへやら。完全に明るくなっていた。
日の光はあるらしく、外は明るい。
外へ出ようと動いた。
「お目覚めですか」
ドアが開いた。そこにいたのは昨日見たやつだった。
「お出かけでしたら一緒に行くことになりますが」
やけに坦々と言ってくる。
俺は不審に思いながらも従うしかない。
ここは見知らぬ土地なのだ。なにがあるかわからない。
そんなことを考えていると追加で言ってきた。
「こちらのことを知らないでしょうから私が案内しましょう」
こっちのことを知ってかしらずか、近づいてくると俺の着ていたものを脱がしにかかる。
「!」
思わず拒絶反応で身を固めてしまった。
「もしかしてこういうことをお嫌ですか」
その女性はこちらのことを伺うかのように言ってくる。
口調からするとこちらに対して敵意はないようだが……。
俺はしぶしぶ彼女の行為を受け入れることにした。
女性に脱がしてもらうのはなんか恥ずかしい。
って言ってる間にもう上着は着替え終わってしまった。
「さて。お次は下ですが……」
女性は少しだけ首を傾げると困ったように笑う。
さて。逃げるチャンスだ。
ここで逃げないと後々尾を引いてしまう……。
俺はダッシュでドアまで行くとさっとドアノブに手をかけた。
が、そこまでだった。女性が俺の腕を掴んでいたのだ。
「お待ちください。そのまま出られては危険です」
彼女は実に心配するように言った。
俺は首を傾げようと思ったがそんな暇はなく、いつの間にか下が替えられていた。
驚く間もなく俺は腕を掴まれ、部屋の外へと出される。
そこで見たものはとてつもないものだった。
昨日見たものを覚えているだろうか。
昨日は大砲を持った兵士? が割拠していたと思う。
だが、今日のそれはまた違った。
上には戦闘機が飛んでいる。
地上には兵士たちがいるが、なんだろう……。
この世界は怖い気がする……。
上には戦闘機が飛んでいるのだが、空はオレンジ色だった。
戦いに向かう兵士たちの顔は、みんな口がきゅっと結ばれている。
俺は恐怖で顔が竦んだ。なんだろう……怖い……。
次へ続く――