第二幕 勇者って使えないかもしれない……
第二幕 勇者って使えないかもしれない……
俺は目覚めた。光を浴びていた。
視界の中に入ってくる光……。それが俺が生きていることを実感させた。
俺……俺は生きているのか……。
男が呻くとそれに呼応するように男の胸が上下した。
肺は正常に動いているらしい。
自分のからだを見てみるとベッドのところに繋がれていることがわかった。
それを一つずつ解くと腕を持ち上げてみる。
うん。動く。これならまだ戦える……。
軽く動かすと力瘤もちゃんとできた。
上半身を起き上がらせてみると意外に動けた。
といってもまだ油断は禁物だ。
体が動かせるからといってからだ全体が動かせるとは限らない。
上半身を前後に軽く動かすとかなり動かせた。
よし。これでいける。
そう思った男はベッドから下りた。
意外にいけると思ったからだはまだ不安定だった。
まだ前後に揺れ、安定しない。
それでもなんとか動かすと俺は部屋のドアを開けた。
体が動かせる。これはなんて幸せなことなんだろう。
あのときには考えたこともなかった。
自分の体が自由に動かせるのが幸せなんて……。
ドアを開けるとそこは俺の知らない場所だった。廊下が見たことないとかそんな話ではない。
ここが俺の知っている世界かすら怪しい。
「どこだ……ここは」
男の呟きに空間が答える。
ここはあなたの知らないところです。さあ探して御覧なさい。
そう言われて男は捜すことにした。
第一章 男の旅立ち
男として生まれたからにはやってみたいことがある。
すなわち、それは男の欲求そのものである。
そう交尾とか性的欲求だ。
それが出来ないで俺は死んだんだ。それが出来なくて悔いになるのは悔しい。
そう思うと生きる気力が湧いてきた。
力瘤を作れば作れるし、歩こうと思えば歩ける。それだけで今の俺にとっては喜びだった。
あんな世界にいたんだ。これぐらいできて当然だろう。
そう思ったが、違うかもしれない。
軽く外を歩いてみるといろんなものがあることにきづいた。
草が生えていたり花が咲いていたり、けっこう普通に咲いていた。
ここがどんな世界かは知らない。だが、この世界はけっこう俺がいた世界と似ている。
ちらりと見てもこの世界がどれだけ似ているかがわかる。
草は生えてるし、空に雲はあるし。それに長閑な雰囲気がある。
ここがどこか地方だといわれても信じてしまうかもしれない。
そんな雰囲気がここにはあった。
風が吹き、雲が流れ、草や花が揺れる。周りにあるものは家一軒もない。
そう縛られていた場所を出るとそこは畑のど真ん中のような場所だった。
田んぼのど真ん中といっても変わりない。
それほど人がいるといえるか怪しい場所だった。
民家はなしか……。だったら、ここはどこだ?
民家らしきものはない。ならばこの畑はだれが世話をしているんだ?
遠くの方に山が見えるが、本当に山なのかはわからない。なぜならここが俺がいた場所かわからないからだ。ここがゲームの世界だということもありえる。
さっき、ゲームしてたからな。
少しだけ深呼吸すると気持ちのいい空気が入ってきた。
吸えば吸うほど俺、浄化されるんじゃないか……?
そう思ってしまうほど、その空気は美味しかった。
さて、呼吸もしたことだし、探索にでかけるか……。
と思ったところでいきなり夕方になった。雲が暗くなり、空気が冷たくなった。
……。
俺、思っていたのと違ったかな。
寝るという概念がここではないらしい。
寝なくても勝手に放置していると勝手に朝が来た。
夕方が来てどうしようか悩んでいると体感時間で5分ぐらいで変わった。
朝のようにいきなり明るくなったのだ。
鶏でも鳴いていたら雰囲気でも出たのかもしれないが、聞こえたのは俺の欠伸の音。
なんか腹減った気がするが、食い物はこの世界にあるのか?
第二章
行き当たりばったり。
人は何をすると悲しくなるのだろうか。
俺は今悲しい。なぜなら腹が減っているくせに何も食えないからだ。
そう。この空間は腹が減ったという概念は与えてくれるが解消する方法が存在しないのだった。すなわち、食うものがない。少なくとも今の俺の見える範囲ではそれらしきものが無かった。
少し歩いた。この朝という時間はかなり長いらしい。お陰様で楽に歩けた。
かと思ったら甘かった。
俺が行くところ、行くところ、何も無いのだ。
民家らしきものがあったから行ってみれば人はない。
さらに冷蔵庫があったが、中には何も入っていない。空だ。
次の民家らしきものも漁ってみたが同じだった。
冷蔵庫には何も入っていない。
その事実は俺を絶望のどん底に突き落とした。
俺は考えてみれば引きこもってずっと食っちゃ寝をしてきた。
コーラなんて何本飲んだかわからない。常備飲料だった。
部屋から出なかった日も何日あったかわからない。
もちろん、トイレのときは除くが。
さすがに大のときはトイレに行かないとマズイしな。
さて。過去を思い出している場合じゃない。
どうするか。
1.民家をさらに探す
2.諦める
3.こうなったら世界の果てまで飯を探しに行く
4.テキトーに過ごす
5.人をこの世界に連れてきたやつに復讐をする
6.のんびり過ごし、この世界に来た目的を忘れる
さて、どうするか。
テキトーに過ごすのが一番やりやすそうだが、テキトーに過ごしているだけではこの世界は優しくないだろう。
なぜだろうか。そんな気がした。
そうなるとさし当たって可能性がありそうなのが民家を探すだが……
見ても見ても民家なんて見当たらない。
こんなに二軒も見つかったのが奇跡なぐらいだ。
さて。どうするか。そのとき。携帯電話の音が鳴った。
耳を澄ましてみると直ぐ近くからだった。
俺のポケット?
手をポケットに差し入れてみるとそこには四角い形状のものがあった。
取り出してみると確かにそれは携帯電話だった。
電話を取ると耳に当てる。
「あ。もしもし? 聞こえるー?」
「だれだおまえ」
やけに軽快な声が聞こえた。向こうの相手は嬉しいのか、やけに楽しそうにこちらにはなしかけてくる。
「だれだ。もしかして――」
「あれ? わかっちゃった? おっかしーなー、わからないようにしたんだけどなー」
楽しそうに笑う話主はこちらのことを見透かしているかのように言った。
「あんな言い方をしたんだ。可能性としてはなくはないだろう」
「へぇー。君ってけっこう頭がいいんだね」
「おまえに言われたくはないな。どっかの女神さんよ」
「女神じゃないよ。ただの天使だよ。あれ? 天使だっけ?」
天使といったやつはこちらのことなどを気にしてないように言う。
「君ってこっちのこと知ってたっけ?」
「そうだな。覚えている限りではおまえのことは覚えている。あと、死にそうだったことも」
「そうか。そうかー。ならよかった。じゃあ君にクイズだ」
「クイズー?」
「そう。もしわたしに勝ったらなんでも君の質問に答えてあげるよ」
「そうか。ならば洗いざらい吐いてもらおうか」
「まだまだ。クイズに勝ってからね。では。第一問」
目の前にいきなり問題が現れた。
わざわざクイズ問題よろしくクイズ番組のような見た目になっている。
第一問 あなたはなぜここに生まれたと思う?
1:死ぬため
2:生きるため
3:生き抜いて死ぬため
4:やることがあったから
5:しょうがなく
6:人に言われたから
7:神様に言われて
さて、どれでしょう?
いきなり難問が来た。とうか、これ、答えあるのか?
「おい、てめえ、これ、答えあるんだろうな」
「それは探してみてのお楽しみ。では、よろしくー」
「待ちやがれ!!」
いきなりプツンッと切れてしまった。ツーツーという音すらない。
聞き返してみても何も答えない。
持っていた携帯電話を思わず握りつぶしてしまいそうになるが、それはこらえる。
「くそっ! くそがっ!!」
が、地面に叩きつけたくてしょうがなくなり握り締めて振りかぶる。
「くそっ!」
その手は離すことが出来なかった。その手を離したら何かを失ってしまいそうで……。
握り締めたままポケットへと突っ込む。ぎゅっと押し込むと自分の思いを押し付けるかのようにしてから手を離した。
「さて、どうするか」
頭を冷やして今あったことを振り返る。
「あいつはこの世界にきた理由を探せと言った。そんなことは可能なのか?」
冷静に振り返ってみよう。
現実世界でもそんな答えは見つかってない。だったらこの世界でも見つからないだろう。そう考えるのが普通だ。そうだ。そんなことをしてあいつは俺を騙すつもりなんだ。
この世界に入ったのが間違ったのだと。
そう考えるとイライラしてくる。
あいつのせいで俺はこの世界に来た。
あいつがいなかったら俺はこの世界に来なくてよかった。そうだ。あいつがいたから俺はこの世界に来させられたのだ。全てはあいつが悪い。そう考えるとあいつが全ての原因ではないか。
すっきりした気持ちで俺は頭を上げた。
そんな気持ちのお陰なのか、この世界がやけに晴れているように見えた。もちろん、上の天気のせいなんだろう。だが、今の俺にはこの世界がすっきりと輝いているように見えた。
そう思えたなら後は簡単だ。歩くだけでいい。
一歩踏み出すと後は自然に後ろ足がついてくる。
そうだ。それでいいんだ。
ずいぶんと気持ちが軽くなった。気持ちはこの天気のように晴れている。
はは……。ずいぶん俺は気楽な人間だな。こんなんで楽になれるとはな。
はは……と軽やかな気分でいた。だが、それを壊すやつがいた。
ぷるるると音が鳴った。
携帯の着信音だ。
俺は携帯を取ると耳にあてる。
「もしもし」
少しだけ重い声で言うと相手も意外そうな声をあげた。
「あれ? どうしたの。ついに気でもおかしくなっちゃったの?」
そうかもしれない。こんな世界に来たんだ。気でもおかしくなるさ。
「ああ。そうだな。おかしくなってしまったのだろう」
「ふふ。君は本当に面白いね」
「そう思うならかまわない。さあ、答えを言え」
「諦めてしまった人には教えないよ」
「いいや。諦めてなどいない。答えは出ている」
「そうなの? じゃあ言ってみて」
「答えは簡単だ。おまえが悪い。全てはおまえが仕組んだことだ。そう
。この世界に来たのも全てはおまえが悪い。そうだ。答えはおまえが俺を呼んだからだ」
「ふむう。うーん……正解にしてあげたいのは山々なんだけどー」
「……。どういうことだ?」
その後、天使は黙ってしまった。
俺の答えがいけなかったのだろうか。
それともやはり答えは近いもので、それを正解にしようか迷っているのだろうか。
逆に俺を陥れようとしているのだろうか。
そう考えると気が気ではなかった。俺の心拍数が上がった気がする。
「さて。しょうがない。答えるよ。いいよ。合っていることにしてあげる」
「……? どういう意味だ?」
「今は教えられないね」
「さっさと教えろ」
「それは無理だよ。なんせ――おっと、人が来たみたいだ」
「あ、待て!!」
一方的に切られてしまった。なんだ、なんだったんだ。一体……。
考える暇もなく、会話が終了してしまった。
そうそしてこの物語も終了だ。
俺はなんと次のステージにいた。