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第三章 一度しかない人生

 史人は妹の聡子に手紙を見せる。

「えっ? 高沢一樹くんが闇の組織の一員だなんて……。信じられない」

 史人は言う。

「おまえも念動力が使えるんだ。いっしょに戦いに来てもらう」

「でも……」ためらう聡子。しぶしぶいっしょに行くことにした。


 そして約束の、日曜日の午前十一時。

 河原には、一方に史人、聡子、増枝おばあちゃん。他方に一樹を筆頭とする六人のメンバー。

 すでに六月に入っていた。どんよりとした曇り空だ。


「よく来たな。おまえに恨みはないが、念動力を使える以上、『闇の組織』としては生かしておくわけにはいかない」と一樹が口を開く。

「ちょっと待って。どうして高沢くんが『闇の組織』の一員なの」聡子が喉をしぼるようにして声に出す。

「おれは小さい頃に両親を亡くした。親代わりに育ててくれたのが『闇の組織』なのさ。だから組織に忠誠を誓うのだ」

 一樹は剣を抜いた。


「おばあちゃんの車イスにぶつかったのもおまえたちのしわざか」と史人が訊く。

「そのとおり」一樹が応える。


「待って、話し合いで解決しましょう。お互いに傷つけあうなんて、やめましょうよ」と聡子が叫ぶ。

「問答無用」一樹が言う。「かかれ」組織のメンバーたちに声をかける。


 史人は念動力を使い、河原の小石をたくさん相手にぶつける。相手は身動きがとれない。

聡子はたじろいだまま、動かない。

「聡子、おまえも戦うんだ」と史人が言う。

「おねがい、もうやめて」と聡子は哀願する。しかし自分におそいかかってくる組織のメンバーには、防衛するしかない。石つぶてを当てる。


 すると増枝おばあちゃんがすっくと立ち上がり、「覚醒!」と叫ぶ。

組織のメンバーを合気柔術によって倒していく。

「おばあちゃん!」史人が叫ぶ。

「車イス生活は世を忍ぶ仮の姿。私が柔術で倒していくよ」おばあちゃんが手首を極めて押さえこんだ相手の上に、史人が念動力で重たい石を乗せていく。

 組織のメンバーは皆やられていく。


 一樹が剣をもって史人に向かってくる。

 史人は精神を集中して、一樹に向かい合う。

 二人は間合いをおいて立っている。


 剣を構える一樹。史人は念動力を使って、剣をもつ一樹の指を一本一本ほどいていく。

「なっ、なにをする」あわてる一樹。

 史人はさらに精神を集中して、一樹から剣を奪う。そしてそのまま、空中に浮かんだ剣を使って、一樹に斬りつける。致命傷にならないよう、急所ははずす。

「ぐっ」倒れ込む一樹。


 聡子はあわてて一樹の元に走って行き、持っていたハンカチで止血をする。


 するとどこからともなく黒いローブに身をつつんだ男性が現われる。

「まだまだ弱いですね、一樹くん」

「おまえは誰だ」と史人が訊く。

「ま、『闇の組織』の首領とでも名乗っておきましょうか」男性は念動力を使って剣を取り戻そうとした。


 史人と聡子が力を合わせ、剣をもってかれまいとする。


 男性の背後からそうっと増枝おばあちゃんが忍び寄り、後ろから羽交い絞めにする。

「なんだ、このバカぢからは」

 おばあちゃんの力よって、敵の男性は動けなくなる。


「さあ、いまがチャンスだよ。剣を使ってこの男を刺してしまいなさい」と増枝おばあちゃんが言う。


「やあっ」かけ声とともに、史人が念動力で剣をあやつる。


 剣は組織の首領に真正面から突き刺さる。後ろにいたおばあちゃんまで剣が到達する。

組織の首領は「な、なぜおれの念動力が使えないのだ」と苦しみながら倒れ込む。


「聖なるミサンガには敵対する念動力を封じる力も持っているんだよ」増枝おばあちゃんも痛みに顔をゆがめながら説明する。


 首領は息絶えた。それと同時に、史人と聡子のミサンガは切れた。


「おばあちゃん、いま救急車を呼ぶからね」と史人が声をかけた。

「一樹くんも助けてあげて」と聡子が付け加えて言った。


 そして二人はやってきた救急車で病院に搬送される。


 史人はおばあちゃんが乗った救急車に同乗した。

「ミサンガが切れたのは、役割を終えたからだよ」とおばあちゃんは言う。「敵の首領を倒したんだからね」


 史人は心配そうに訊く。「おばあちゃんはだいじょうぶ?」

「幸い、浅い傷で済んだみたいだ。だいじょうぶだよ」とおばあちゃんは応える。「これであなたたちも念動力を使えない、元の姿に戻るんだ。あの一樹という少年も、これから一人で生きていくことになるだろう。一度しかない人生、命を大切にするんだよ」


「おばあちゃん、これから毎日お見舞いに行くからね」と史人が言った。

「ありがとう、史人くん」おばあちゃんは史人の手を握り、はっきり聞こえる声で礼を言った。


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