第一章 テレキネシス発動
「ぎゃっ!」史人がポストにハガキを入れようとして、車イスから離れた瞬間だった。
後ろからものすごいスピードで走ってきた自転車が、おばあちゃんの乗っていた車イスにぶつかったのだ。
自転車はそのまま走り去った。
「おばあちゃん、だいじょうぶですか」車イスが横倒しになっている。
おばあちゃんは「うーん」と言ったまま動けないでいる。
史人は急いでおばあちゃんのところへ駆け戻った。幸い意識はあるようだ。「いま、施設の人に電話しますからね」史人は、おばあちゃんが入っている老人ホームに電話をかけて、事情を説明した。
すぐに施設の人が車でかけつけてくれることになった。
三輪史人は都立高校二年生。学校のボランティアの授業で、家の近くにある老人ホームへ出向いたのであった。
その老人ホームで近藤増枝というおばあちゃんと知り合いになる。
増枝おばあちゃんは七十八歳になる。車イスに乗っている。
「じゃあ、史人くんは近藤さんを車イスに乗せて、一時間ほど近所を散歩してください。ついでにこのハガキをポストに入れてきてください」と施設の職員に言われる。季節は五月下旬。木々の緑がまぶしい時だった。
「やっぱり外の空気はいいねえ」とおばあちゃんが言う。
「施設に入ってどれくらいになるんです?」と史人が尋ねる。
「もう、一年になるかねえ」
「散歩には毎日でかけるんですか」
「そうだね、具合のいい時には連れてってもらっているよ。雨の日はだめだけどね」
「そうですよね」史人が相槌をうつ。
そして施設を出発して二十分後。ポストの前に着く。
「おばあちゃん、ちょっと待っててくださいね」史人がハガキをポストに入れようとして、
車イスをロックし、おばあちゃんを一人にしたときだった。
自転車が車イスに衝突したのだ。
史人は急いで老人ホームへ電話をかけた。
「あ、老人ホームの方ですか。三輪です。おばあちゃんが自転車と衝突して、車イスのまま倒れてしまったんです」
老人ホームの職員が車で迎えに来てくれることになった。
到着した職員は、車イスを助け起こし、「このまま病院へ連れていきますね」と言った。
史人は「ぼくもつきそいます」と、遠慮しているおばあちゃんにかまわず、車に同乗した。
史人は一昨年、自分の祖母を亡くしていた。このボランティアでは率先して老人ホームを希望したのであった。
事故のあった翌日。史人が施設に電話して訊くと、増枝おばあちゃんは手をついた瞬間手首をねんざして、今日も病院へ行くとのことだった。
「ぼくが病院に付き添います」史人は放課後、通院を手伝うことにした。
施設の職員は「ありがとう、助かるよ」と言ってくれた。
「おや、史人くん、また来てくれたのかい」と増枝おばあちゃんが言う。
「はい、おかげんいかがですか」
「まあ、大事にはいたらなかったみたいだよ。それにしても送迎を手伝ってもらってすまないねえ」
「いえいえ、僕にできることがあったらなんでも言ってください」
「ありがと、ありがと。お礼にこのミサンガをあげるよ」と増枝おばあちゃんは、二つのミサンガを取り出した。
「どうもありがとうございます。僕には一歳下の妹がいますので、二人でひとつずつ使います」と史人は応える。
その夜、史人は不思議な夢を見る。
夢の中に男性の老人が現われる。
「あなたはどなたですか」史人が訊く。
「増枝の夫だよ。私は二年前に亡くなった。それから一年たって増枝の具合が悪くなり、一人で生活できないようになったんだ。それで増枝は老人ホームに入ったんだよ」
「そうなんですか」
「ところで、増枝からミサンガをもらっただろう」
「はい、もらいました」
「きみには特殊な能力がある。そのミサンガをつけると、念動力を使えるようになる。きみの妹さんも素質がある。二人で練習しなさい」
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