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第四幕「日常はこうやって変化していく」

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。亀更新になると思いますが地道に頑張って行きたいと思います。

第四幕「日常はこうやって変化していく」


 あの後、フラフラと帰宅した。

 

 あ、結局舞とアイス食べてない、と思ったのは就寝前である。

















「つらい……」


 いやここはつらたん……と言い直すべきだろうか。私は死んだような目をしながら下らない事を考える。


 授業が始まる前の休み時間、私は愛しのMy机に突っ伏していた。


「どうしたの?レイコちゃん」

「なんでもないんだよ……ふふ」


 ふわふわと浮かぶレイヤさんに私は力なく笑う。もーどうにでもなれ。今日の私はやけくそである。


「やっほー、レーコ。元気?」


 にこやかに手を振るのは我が親友殿、舞だ。何故彼女は毎日ああも元気なのだろう。


「元気に見える?」

「見えないねー」

「でしょう?」

「うんうん。それにしてもレーコ、いつの間に本条くんと仲良くなったの?」


 くッ、いきなり痛いところを。私は盛大に溜息を吐いた。


「仲良くなんてないよ。普通じゃない?」

「普通じゃないよ。だって本条くん基本女子は名字呼びだし。レーコ、名前呼びになっているじゃない」


 ……本条くん、貴方私に何か恨みでもあるんですか?私はくらっと目眩が起きた。


「まじか。なんて事ないよ。昨日ちょっと話をして、それで少しだけ仲良くなったんだよ」


 私は少し、という所を強調する。舞はコテンと可愛らしく首を傾げた。


「ええー?だって本条くん、めっちゃ笑顔だったじゃん。しかもデフォルトの微笑みじゃなくて満面の笑みだよ?これって凄いレアな事なんだから」

「おおふ……。本条くん、どうしたし」

「それはこっちのセリフだよー!」


 ぷんぷんと頬を膨らませる舞に、私は更に脱力する。私は再起不能である。


 それにしても親友殿、貴方いつの間に本条くんファンになったのだ?私はジト目で舞を見つめた。















 話は少し遡る。あの衝撃の『本条くんお呼び出しイベント』(礼子命名)の翌日の朝。


 中々衝撃の事実やら何やらが起こった気がするが、私はそれをまるっと放置する事にした。私、何も見てないし、やってないよと自己暗示すら掛けたかったが無理だったので放置。


 いつも通り(レイヤさんがやたらと構ってくる以外は)に登校してきた私に再び衝撃が襲った。そう、校門に入る時に。


 笑顔で挨拶。それがこんなにも衝撃が走ると言う事を私は初めて知った。


 まじか。私の心情がそれである。


「おはよう、礼子ちゃん」


 私に駆け寄り、にっこりと満面の笑みで挨拶をする本条くん。嬉しそうに笑うその笑顔を私は驚愕の表情で見る。美形の笑顔の破壊力は凄い。美少年でもそれは同じだ。


「礼子ちゃん?」

「……おはよう、本条くん」

「うん」


 ふわっと嬉しそうに笑みを浮かべ満足そうに頷く本条くん。え、なにそのデレ。私の身体は硬直する。


 初めに言っておくが、本条くんはにこにこと無邪気に笑みを浮かべる人じゃない。どちらかと言うと微笑みを武装し、他人との距離を適度に保つタイプだ。腹黒笑顔タイプである。


 だから私は言いたい。


 誰だこれ、と。


 言えないけど。


 思わず俯いた私の背中にチクチクと視線が刺さるのを感じた。同時に背筋に寒気が走る。


 あ、これ本条くんファンクラブの皆様方の殺気に満ちた視線ですね。私は瞬時に察する。本条くんとこれ以上居たらられる、と。


「じゃ、私先行くから」


 本条くんをほとんど見ずに私は身を翻し、昇降口へとダッシュした。


 その時ちらりと見たレイヤさんの横顔が複雑そうだったのが不思議だったけど。

















 それで冒頭に戻る。


 私は憂鬱過ぎて溜息を吐いた。舞が言っていた事が本当なら、私は本条くんのファンクラブに目をつけられたかもしれない。いやいや、考え過ぎか?そうだよ、考え過ぎだ。本条くんがただ面白がっているだけだと彼女たちもわかってくれるだろう。


 私は考えがまとまってうんうんと一人頷く。


「どうしたの?悩みなら聞くわよ?」

「悩みなんて大層なものじゃないよ。だから大丈夫」

「そう?ならいいんだけど」


 レイヤさんの心配そうな蒼い瞳を見て私は笑う。


「大丈夫だよ。だってレイヤさん、いざっていう時は助けてくれるんでしょ?」

「もちろんよ。おねぇさんに任せなさい」


 不敵な笑みを浮かべるレイヤさんに私は少し安心する。レイヤさんと出会ってそんなに経っていない。だって2日目だ。一緒に過ごすようになって2日目。うーん……それを考えると怖いくらいの毒され方だと思う。だって安心出来てしまうのだから。


 にこにこと嬉しそうに微笑むレイヤさんに私は毒気を抜かれてしまった。


 仕方ないか。私は背筋を伸ばして、次の授業の準備をした。















 放課後、下駄箱に靴を取ろうと手を伸ばす。後ろから肩を叩かれた。


 誰だ?私は不機嫌をそのままに後ろを振り向く。


「礼子ちゃん、一緒に帰ろう?」

「ななんで?」


 にっこりと笑う本条くんに私は動揺した。


「なんでって、今日、僕を避けていたでしょ」

「き、気のせいじゃないかなぁ」

「へぇ?休み時間の度に何処かに行ってたのに、ね」


 本条くんは意味深に目を細める。全てを見透しているかのように。私の小心者な心臓は可哀想なくらいバクバクと脈打つ。ついでに冷や汗もやばい。


「あはは。それも気のせいだよ。今日は無性に外が恋しくなってさ」

「ふふ。なら僕と視線が合わないようにしてたのはなんでかな」


 さっきから疑問形じゃなくて断定的なのはなんでかなぁ、はっはっは。やばい、私さっきから乾いた笑いしか出ないよ。


 これはアレか。ハハッ、本条くんたら自意識過剰だぞ☆って言うべきか。いやいやそんな事したら私抹殺されるか、この“無敗の帝王”殿に。それに本条くんの言った事は間違いじゃない。意識的に避けてました、はい。本条くんファンクラブが怖かったからね。あの子達まじ怖い。黒い噂が聞こえてくるんだもの。なんなの?あの連帯感、怖いわ。


 本条くんは黙った私ににっこりと笑みを浮かべたまま、小首を傾げる。


「ね?なんでだろうね」

「……ごめんなさい」


 黒い。笑顔が黒いです、本条くん。私はもはや涙目だ。


「ちょっとアンタ、アタシのレイコちゃんに何やってんのよ」


 レイヤさんがアタシの、と言う所を強調しながら本条くんに言った。前から思っていたけど、私レイヤさんの所有物じゃないよ。


「ああ、レイヤさん、だっけ?いいじゃないか。それくらい」


 避けられるって結構傷つくでしょ?と本条くん言った。ちょっと仕返しがしたかっただけなのだ、と。


「あのねぇ……」


 レイヤさんは呆れたように溜息を吐いた。


「ま、いいわ。一緒に帰るくらい良いんじゃないかしら。帰る方向、レイコちゃんと一緒でしょ」

「なんで知ってる?」


 本条くんの声が一段低くなった。黒い瞳が冷たく細まる。


「思い出したからよ。ああ、そう言えば、本条の本宅ってレイコちゃんの家と近かったわね、と」

「え?」


 飄々と告げるレイヤさんに私は驚きの声を零した。見れば本条くんも驚いている。


「それってどういう……」

「それよりもアンタ達そんな所にいつまでも居たら注目の的よ?」


 私の声を遮り、レイヤさんは周りを見るように促す。なるほど、確かに遠巻きに私達を見る子達がいる。私はいつも図書室で時間を少し潰して帰るのだが、そのお陰で人もまばらだ。


 私は本条くんに目配せをし、迅速に靴を履き替えて校門へと急ぐ。本条くんも行動が早かった。流石です。


 校門に着いて、私は乱れた息を整える。本条くん、何故君は息一つ乱れない。私と同じ速度だったよね?私走ったはずなんだけど。


「じゃ、行こうか?礼子ちゃん」


 本条くんは私に右手を差し出す。……お手?私はそう思い右手を本条くんの右手に乗せる。


 きょとんと目を見開く本条くんは、


「あはは、礼子ちゃんは面白いね。でも、そうじゃなくてこうだよ」


 にっこりと破顔し、私の手をぎゅっと握り繋ぐ。え?ええぇええ??私は開いた口が塞がらない。


 なんだこのデレ。私は混乱する。


 本条 和人は微笑みを浮かべる穏やかな子、と言う印象が強い。やんわりと他人との距離をとり、しつこく距離を詰める子には絶対零度の視線を向ける。あまりの恐ろしさに、もうクラスには「本条和人を怒らせてはいけない」と言う暗黙の了解があるくらいだ。


 本条くんは自分から他人に近寄る事をしない、しなくても自然と周りに人が集まるカリスマ性を持つからだ。だって、面倒な事を決めなくてはならない時皆本条くんを頼る。本条くんに頼れば、大抵何とかしてくれる、変な安心感があった。


 うーん……。私は腑に落ちない気持ちを抱える。


 本条くんはにこにこと微笑みながら私の手を引いていく。


「本条くん、なんで……?」

「礼子ちゃんは聞いてばかりだね。まあ、いいけど。簡単に言うと、僕は君の事を気に入ったんだ」


 私は本条くんの話を聞きつつもレイヤさんに邪魔をしないように、と念を送った。レイヤさんは便利な事にこちらの意志をある程度汲むことが出来るそうだ。オーラみたいな感じでレイコちゃんの感情を感じる事が出来るのよ、とはレイヤさんの言葉だ。


 で、私は本条くんの言葉に疑問を感じた。あれの何処に気に入る要素があったのか、と。


 昨日の出来事がフラッシュバックする。あの屋上での会話。あの急展開を。


 カァっと顔に熱が集まるのを私は無視し、うんうんと考える。


 本条くんは私のそんな様子を微笑ましげに見守っていた。


「礼子ちゃんの器の大きさを気に入ったんだ」

「うつわ?」

「そう。意味が分からないならそのままでいいよ。要は礼子ちゃんの性格が気に入ったんだって事だから」


 そう言うと本条くんは笑みを深める。嬉しそうに花開くような笑みは大変眼福だった。眩しいどころじゃない。本条くんはレイヤさんとは少しタイプだけど完璧に近い造形美と言うか、綺麗な顔立ちをしている。和風美少年である。


 と言うか、本条くんの中での私はどうなっているのだろう。器が大きい、と言われても心当たりが生憎全くない。


「買いかぶりじゃない?」

「買い被ってなんかないよ。礼子ちゃんは男前だし。見ていて清々しいくらいだよ」

「男前って……」


 それは褒め言葉じゃない、私はショックを受ける。


「褒め言葉さ。少なくとも僕にとっては、ね」

「ええー……」

「礼子ちゃんは素直に喜んでなよ。ね?」


 そんな可愛らしく小首を傾げられても私は喜べない。なんだ男前って、私は一応女の子だぞ!レイヤさんは私の頭上にて「やーねぇ、これだから天然タラシは」と誰に向けての言葉かわからない言葉を呟いていた。



 キキィ!!



 甲高い音を立て、一台の車――白色のバンが私達の隣に停まった。ガラリとドアが開くと素早く男の手が本条くんの腕を掴み、引っ張る。本条くんは車道側を歩いていたのだ。私は本条くんと繋いだ手をそのままに彼の腕に抱きついた。とっさの判断だ。が、悲しいかな。小学5年生の私なんて大人の男の力に勝てるはずはなく。私は本条くんと一緒にバンの中に連れ込まれてしまった。


 そして何かの薬物を染み込ませた白い布を口元に当てられ、私達は気を失ってしまったのだ。この間なんと30秒程度。驚くべき手練の業である。












 私の家から学校までの道のりは徒歩15分。比較的近い場所にあり、集団登校もなかったのだ。この近所は信じられない程平和だったからだ。


 それなのに、コレ(誘拐)。


 私は暗闇の中、確かに聞いた。ガラガラと日常が壊れていく音を。それはもしかしたらもう少し前から聞こえていたり、気のせいなのかもしれない。


 私の日常は、これ以上無いくらいに騒がしくなっていく。それは確かだった。








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