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間話「無敗の帝王が見つけたもの」

第三幕らへんの本条和人くん視点のお話。

間話「無敗の帝王が見つけたもの」


 退屈だ。僕の心の中を知らずに周りは皆こう言う。


 「何でも出来るから羨ましい。貴方は完璧だ」


 ニュアンスの違いはあれど、皆似たような事を口にした。


 僕はソレに愛想のいい外面用の笑顔を貼りつけて対応する。


 自分が人より恵まれているのは自覚している。“無敗の帝王”?それは周りが勝手に言い始めただけだ。始めはただの冗談だったのにいつの間にやらである。


 旧家でもあり、今や大財閥の本条家の家訓がある。


 『自己責任』。


 自分の選択には責任を持て。責任を持てるならば口煩く言われない。大金持ちの家には少々変わった家訓である。僕が良家の子息、令嬢が通うような私立の小学校ではなく、普通の公立小学校に通っていられるのはこの家訓のお陰だ。


 自分で言うのもなんであるが、僕は天才だ。一度見たものは一度で模倣する事が出来たし、何か習い事をやれば短期間で極めてしまう。少しの我侭を黙認された理由だ。人脈もそれなりに揃えている。


 嘆くでもなく、ただ退屈なのだ。負けず嫌いのこの性格の所為かもしれないな。僕は人知れずひっそりと溜息を吐いた。
















 その日、本条 和人がそれを見つけたのは偶然だった。


 朝、いつもは車での送迎だったがたまには歩いてもいいだろうと思い、和人は通学路を一人歩いていた。


 いつも周りは騒がしいからこういうのもいいな、とぼんやりと考えていた時だった。


「レイヤさん、ちょっとうるさいよ」


 前を歩く少女が一人、何もない空間に話しかけていた。前を歩く彼女の顔をよく見てみるとクラスメイトの一人だった。


 これ以上近づくと気づかれるな、と思い和人は一定の距離を保ちつつ彼女の会話?を聞く。


「え?他に好きな時代劇?うーん……。ああ、あのほら、馬に乗っている将軍さんのやつとか。控えおろう、だっけ?」


 微妙に違うよね。和人は心の中でツッコミを入れる。


「あれ?レイヤさん、どうしてそんな脱力してんの?」


 ああ、彼女の見えない会話相手もそう思うのか。和人は妙に呆れた。


 と言うか、本当にいるのか?和人は疑いつつも、彼女の視線の先を辿る。そして目を凝らした。


 薄ぼんやりと青い人影が見えた。



「え?」


 和人はあまりの事に思わず声が出た。


 なんだあれ。もう一回見てみる。するとさっきよりもはっきりと半透明の青い人影が見えた。


「はは……。僕、そんな才能もあったのか」


 和人は思わず渇いた笑みを浮かべた。



「面白い事になりそうだ」


 数年ぶりに和人は心の底から面白いと思った。彼女に抱いた感情か、それとも青い人影に向けてのものかは分からなかったけれども。
















 あれから学校についてあの面白い少女はクラスメイトの霧島 礼子さんだという事がわかった。クラスでも目立たない部類の子だと思う。淡々と読書をしているイメージが強い。


 肩まである真っ直ぐで艶やかな黒髪が綺麗だな、と和人は思った。


 あれから青い人影は徐々に姿がはっきりと見えるようになってきた。あれから、と言ってもほんの数時間の間の事である。和人はその変化に素直に驚いた。


 青い人影がちゃんとした人に見えるようになった。美人を見慣れている和人でさえ、凄い美人だ、と思った。無表情だったら、精巧な人形にも見えただろう。半透明の幽霊の姿の彼は周りに青い炎のようなオーラが揺らめいていた。


 直感的にアレは良くないものだ。と和人は思った。


 良くない、と言うのは少し語弊があるかもしれない。例えるならば絶対的な力の差、ソレに圧倒された時に感じる畏怖に似たモノを感じたのだ。



 本当に面白い。



 和人は微笑みを浮かべた。


 勝利に慣れているからこその渇望と言ってもいいかもしれない。何か、何かないだろうか。日々良くわからない飢えに似たモノを本条 和人は抱えていた。焦燥にさえ似た何かを。












「ねぇ、霧島さんだっけ?放課後、僕に時間をくれないかい?」


 中庭を歩いている霧島 礼子を軽く叩き、和人は笑顔で言った。


 これを言った時の霧島 礼子の表情は中々面白いものだった。


 ポカーンと鳩が豆鉄砲を食らった間抜け面。


 うん、中々いい表情だ。不意打ちをした甲斐があったものだ、和人は頷いた。
















 霧島 礼子、と言う人物は良い意味で予想外だった。


 彼女の隣に居る幽霊を悪霊にしか見えないと告げても彼女は言った。


「別にいいんですよ。レイヤさん、悪い人じゃないし。守ってくれるって言うんですから。悪霊?別にいいじゃないですか。人間、一つくらい過ちを犯すものですよ。私はレイヤさんの言葉に嘘はないと思いました。レイヤさんは私を守ってくれるって、そう言ってくれました。だから私はそれを少しは信じたいと思います」


 和人の目を真っ直ぐに見ながら、迷いなく言ったのだ。


 愚かだ。和人はすぐに思った。


 あの霊の桁違いの力が分からないのだろうか。それに幽霊を信じるなんて馬鹿じゃないか。和人は心の中で一通り毒づく。


 でも、思うのだ。真っ直ぐに信じたいと臆面もなく言った姿見て思ったのだ。


 なんて愚かなのだろう。なんて美しいのだろう、と。きっと彼女はレイヤとやらの姿形で信頼を寄せたのではないのだろう。あの迷いのない瞳は、そんな甘さを含んではいなかった。ただ、彼女は幽霊である彼と話してみた結果、悪い人ではないと判断したのだろう。


 単純な話だった。


 けれども簡単に出来る事ではなかった。


 見た目に左右されず、得体の知れない者を信頼する。文字だけなら簡単だ。表面だけなら誰だって出来るだろう。だけど彼女は、霧島礼子は幽霊と会話し、触れ、受け入れ、信頼したのだ。


 本条 和人には出来そうもない。


 負けた。心の器の広さで彼女に勝てない。


 本条 和人はほんの少し微笑んだ。なんて爽快なんだろう。負けても嬉しいなんてイカれてる。心の中でソレを秘めて微笑んだ。




 この時、霧島 礼子、と言う人物を和人は気に入った。













翌日、登校してきた礼子に駆け寄り、和人は、


「おはよう、礼子ちゃん」


 と満面の笑みで挨拶した。

 





ちなみに本条くんはヤンデレではありません。礼子に向ける感情も、礼子の心の器の大きさを気に入っているだけ。

「お前、すげーな!」的な。

実は本条くん、レイヤさんが見えるようになるまで霊感なんてありませんでした。それが一気に覚醒して見えるように。チートですね。

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