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鬼ノ鉄兵 ~ その大怪獣は天空の覇王を愛していた ~  作者: かすがまる
第8章 天震の巨獣、魔断の英雄
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第7話 田村

 長い長い夢を見ていて……生々しく切実だったそれらは加速度的に意味

 のわからない妄想に解けていくけれど……俺はまだ瞼を閉じたまま。


(ねえ、そろそろ起きたら? ちょっと寝過ぎ)


 何かため息が聞こえてきて、俺は少し不愉快に思った。

 ここは何とも暖かでいい匂いがする。抗いがたく気持ちがいい。

 起きる必要性もないし……もう一度ゆるゆると沈もうとすると。


(ねえ、そろそろ起きたら? 今なんて特にお勧めの時間帯)


 またも俺を揺する声。何だコイツ。目覚ましのスヌーズモードかよ。

 放っておいても次にまた「ねえ」と来るのがわかってしまったので、

 仕方なしに俺は意識を向けた。声を黙らせることにする。


 おい、うるさいよ。俺はもう少し寝ていたいんだ。疲れてるし。


(疲れてるわけない。もうだいぶ寝た。いい加減にするべき)


 いい加減って……不躾なやつだなぁ、おい。

 話せば長くなるから言わないけどさ、俺は色々あって大変に疲れてるの。

 寝ても寝ても寝足りないの。死んだように眠りたいお年頃なのよ。


(何にそんなに疲れたの?)


 色々だって言ってるでしょ。まぁ……何かよく覚えてないんだけども。

 とにかく無理し過ぎたんだよ。目一杯やりすぎたんだ。過労だよ。


(ふーん……体力馬鹿の印象があるけど)


 うわ、馬鹿とか何だし。


(じゃあ、怪物さん。馬鹿みたいに口開けて寝てないで、起きたら?)


 また馬鹿って……え? 怪物さん? ああ、俺のことか。

 いや、でも、怪物って……あれ? 俺をそう呼ぶのって……??


(……幸せって、増やせるんだね)


 は?


(なけなしの幸せの1つくらい、僕も持っていたけど……それを1人で

 持ったままでいたって、意味がないんだ。失くしてしまうのが怖いし)


 あ、いや……うん? よくわからないけど……いや、そうじゃなくて。


(笛を教えてもらった時、僕は嬉しかった。あなたは笑って教えてくれた。

 笛にまつわる全てを譲られた時も、失ったあなたは笑っていた)


 笛……縦笛? じゃあ、やっぱり、お前は……!


(伝えあったり、譲り合ったり、渡しあったり……幸せってそうやって

 増えていくもの……巡っていくものだと気付いた。1人きりで抱えて

 いたって、それはもう幸せじゃないんだと思う。だから今度は僕の番)


 お前は……そうだ……どうして忘れてたんだ……お前は!


(僕が……僕らが貰った幸せを、もう返してあるよ。怪物さん。だから

 いつまでも駄々こねてないで、起きなよ。皆が待ってるし)


 待て、待ってくれ! 少しでいいんだ、落ち着いて話を……!


(もうだいぶ待った。おはよう。ありがとう。あと……またね)


 で、ん……デンソン!!





 瞼を開いた。


 何もかもがグチャグチャな脳裏に、まずは体の重さと周囲の柔らかさが

 伝わってくる。温度はわからないが不快じゃない。ぼやけた視界が次第

 にクリアーになっていって……状況が見えてきた。


 真っ白なシーツが広がっていて、背中の感触はいかにも清潔で柔らかい。

 あちこちに大小の白いクッションがあって、雲海に横たわっているよう

 にも見える。どうやら天蓋付きのベッドに寝ていたようだ。


 その天蓋もプラネタリウム的というか……星空に神話的な線画が描かれ

 ているもので、これもやはり擬似的な浮遊感を誘っている。


 夜の雲海に浮かぶ感覚……何故だろう。そんな経験ないはずなのに、

 どうにも懐かしい。既視感というやつがあるよ。


 それにしても大きなベッドだ。10人くらい寝れるんじゃないか?

 四方にレースのカーテンが掛かっているから、周囲の様子を窺うことは

 できない。何とも豪華な寝床だ。映画でも見たことがないや。


 手を見る。人の手だ。いや、当然だけど……何でかほっとする。不安に

 かられて全身を確認してみた。普通に人だ。いや、まぁ、そうでないわ

 けがないんだけど……変な違和感があるんだ。久々に動かすような?


 っつーか、俺、こんなにマッチョだったっけ??


 わしゃわしゃと全身を無意味に動かして、寝惚けた感覚を取り除いて

 いく。伸びてみたり、床泳ぎ選手権を1人開催してみたり……。


 疲れた。


 そしてようやく頭の中身を動かしてみる。

 ここはどこ? どういう状況? 俺は……しがない大学生、高橋鉄兵だ。


 どうしてか化物だらけの世界に目を覚まして……それでどうしたっけ?

 色々なことがあった気がするけれど……上手く思い出せない。


 ただただ……胸が締め付けられる。頬を伝う熱いものがある。


 やめよう。


 今はやめておこう。


 心のどこかで、それはお前の役割じゃないと自制を促す声がするんだ。


 今ここにいる俺は、別に夢を見てるわけじゃない。けれど全部でもない。

 俺という全部の内の、ごく一部がここに憩っているだけなんだ。殆どが

 悪夢のような辛苦に沈んでいても……ほんの一部としての俺が、今こう

 して、ここにいるんだと思う。感じる。


 地獄の釜の底に落ちた俺……そんな俺と繋がっているのがわかる。

 あれだな。釣りでの浮きみたいなもんだ。その役割って何だ?


 わからないままに……俺はもう一度横になった。



 遠くで扉の開く音がした。


 足音が近づいてくる。


 レースの壁が開かれて、この豪奢な寝床へと入ってきたのは。


 

 この世のモノとも思えない程の美貌の女神。その髪は火の色をしていた。

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