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鬼ノ鉄兵 ~ その大怪獣は天空の覇王を愛していた ~  作者: かすがまる
第8章 天震の巨獣、魔断の英雄
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第6話 鉄兵

 不思議な夢を見ていた。


 千の首を持つ化物になって色とりどりの小さな獣と戦う俺。

 何もかもが哀しくて、やりきれなくて、叫びながら殺した。


 大事な宝物を背負って飛ぶ俺。雲の峰を越えていく旅路。

 雲の下の食べ物を拾い喰いしながらの、行儀の悪い旅路。


 世界は悲響に満ち満ちていた。

 

 なぜだ、どうしてそんなことをする、かえせ、きえろ、しんでしまえ。

 要約すればそんなところか。狂おしいばかりの人類排除の意志。呪詛。

 重魔力という形をとって世界中にあまねく轟きわたる怨嗟。拒絶。


 それは……この星の絶叫なんだ。


 空の旅は時を重ねるにつれ俺に多くを教えてくれた。食べ物が原因か。

 まるで思い出を振り返るように、この星の歴史を見せてくれたんだ。


 ここはやっぱり、地球なんだ。俺が生きて、死んだ、地球なんだ。


 俺がロシアで大酒喰らった挙句、雪原に凍死した後も、人類の歴史は

 当然のように進んでいったんだ。その途中、すこぶる状態のいい無縁仏

 として発見された俺が人体標本になったのはご愛嬌だけども。


 人類はどんどん進歩していった。どんどん影響力を増していった。


 そして辿り着くんだ。エネルギー革命の果てに……龍石に。


 龍石。


 究極的にクリーンな、無限のエネルギー源。蒸気でタービンを回すなん

 て面倒なことをしないでも、熱にも電気にも減退なく変換できるパワー。

 それどころか、土地改良や医療にすらそのままに用いることができる力。


 そう、まるで魔法のような……つまりは魔石だ。


 俺が生きていた時代は環境破壊や格差の問題を解決できずにいたけれど、

 龍石を発見するに至ってそれらはあっという間に解決されたようだ。そ

 りゃそうだ。砂漠に樹齢500年からの森林を即座に創造してしまえる

 んだから。ペットに人間並みの知性を与えて会話を楽しんだりもして。


 夢のような豊かさの創出。かつてないほどの繁栄。地上の楽園の創出。


 だから、人は、その視線を外へと向けたんだ。無限に広がる大宇宙へ。

 龍石を搭載した新時代の方舟が大気圏を容易に突破したその時……誰も

 が次の夢に思いを馳せたその瞬間……世界の終わりが始まったんだ。


 邪龍の顕現。


 大海原から突如として現れ、方舟を破壊し、世界各地の龍石を奪って

 いく。けれどそれは強奪かもしれないが盗難じゃない。奪還なんだ。


 龍石とは星の命。地球が自転し、公転し、地磁気を発生させ、この宇宙

 に永遠に近い運動を続けるためのエネルギー源。惑星の核たる物質。そ

 のエネルギー量からすれば人類文明の奇跡など微々たる消費に過ぎない。


 地球の外へと持ち出しさえしなければ……!


 文明は徹底的に滅ぼされた。繁栄は終焉を迎え、人類は大自然の中に

 投げ出された。ある意味において人類はそこで一度滅んだのかもな。


 だから、その後再び立ち上がった文明は新人類と言うべきかもしれない。


 龍石の……魔石の力が大気中に満ち満ちた環境に適応して、人類は新し

 い力を手に入れた。それこそが魔法。魔法のような科学でなく、科学と

 しての魔法。過酷な地表を生き抜くために。


 技術を発展させ、周囲の影響力を増大させ、大自然の中に安息の小自然

 を切り取っていく道程……古今東西、人の歴史はこれに尽きるのかな。


 精霊ってのは、この時期に開発された大規模な魔力制御機構のようだ。

 大自然の諸力を管理しやすく分類し、特化させ、制御する……野の雑草

 にそれぞれ名前をつけていくように、魔力を「分かる」ものにしたんだ。


 そして歴史は繰り返す。

 より良い生活のために……人は龍石に手をだした。


 爆発的な繁栄など束の間のこと、二度目となれば邪龍の出現も早かった。

 人類はその猛威に対して此度は魔法の力でもって対決した。精霊機構が

 その切り札であったようだ。その管理責任者こそが……初代の天帝。


 後はおとぎ話のままに……人は天空へ逃れ、邪龍は海中に封じられた。


 世界のあちこちに居た悪魔石……俺の食べ物……それは初代天帝と邪龍

 との激闘の中で千切れとんだ破片たちだ。封印のせいで本体に合流する

 こともできないで……ただ呪詛を振りまいていた。


 人類への呪い。全ての悲しみの原因だと思っていた重魔力。

 それは地球の叫びであり、文明そのものを拒絶する恨みだったけれど。


 とにかくも、消せるんだ。


 悪魔石は全て回収した。残すところは大元である邪龍。封印に濾されつ

 つも海水へと滲み出ていたそれを止めれば……消せる。吸魔巨樹が残存

 を吸収し、黒い水へと変えるのに……数百年といったところかな?



 ああ……夢か現かという気分だな……俺は今、邪龍と合流しつつある。



 海の底に輝く虹色の卵のような封印は、俺が天帝をぶっ飛ばしたせいか、

 極めて不安定な状態にある。封じてはいるものの隙だらけだ。一度脱走

 した身である俺には穴だらけにすら思える。侵入は簡単だった。


 東京の遺跡を眼下に眠り続ける邪龍。源魔岩。それは半ば俺自身だ。

 いや、逆か。俺は半ば邪龍だ。まぁ……もう……どっちでもいいや。


 俺は邪龍と溶けて混ざる。支配することは無理だろう。何しろこの星の

 代理人のようなものだ、こいつは。俺という意識が輪郭を失って消える

 ことは決定事項だ。死ぬ……というのとは少し違うのかもしれないが。


 届けることができる。影響することができる。俺には切り札がある。


 元々、記憶も色々と抜け落ちちゃって、「自分」の目減りした俺では

 あるけれど……ずっと胸に秘めてきた想いがある。とっておきの想い。


 ほら、今でもこいつだけは鮮明に思い出すことができる。


 真っ赤に燃える炎のような髪。神秘の金銀に輝く瞳。

 気高く、凛々しく、勇気と意志に満ちていて……実は少し甘えん坊で。

 天空の美しいモノの中心であるかのように輝き屹立する、偉大な覇王。


 ベルマリア。


 俺の第二の人生は、君だった。

 君に出会い、君と過ごし、君と別れ、君を想う……それが全てだった。


 俺は実のところ大した人間じゃない。物語の主人公になれるような、

 そんな美徳を持った強い人間じゃないんだ。張り詰めたものもない、

 怠惰な人間さ。ヘタレって奴だ。自分でもわかってるんだ。


 けれど、君を知った俺は、カッコつけることを知ったんだよ。


 だって君は本当にカッコよかったから……人はこうもカッコよく在れる

 って見せてくれたから、俺も自分をカッコいいと思えるように頑張れた。

 諦めないで、妥協しないで……全力で自分をカッコ良く生きれたんだ。


 太陽なんだ、君は。

 その光に温められて輝けた俺は、まぁ、惑星か衛星か……そんなとこか。


 愛してるよ、ベルマリア。


 自己愛よりも強い想いで、君を愛している。君は俺よりも尊く大切だ。

 君がいるから強く在れる。君がいるから……この世界を愛せるんだ。

 君が生きる世界は、君が生きるがゆえに、素晴らしい世界なんだ。


 君への愛は俺に不相応なくらいに輝かしい。無敵の宝剣だよ、これは。


 こいつばかりは邪龍にだって消せやしないさ。


 むしろ邪龍にも君を恋焦がれさせてやる。だって邪龍は俺なんだから。

 たった1つ、君への愛を武器にして……君の生きる世界を呪わないため

 に……諸共に沈んでいくよ。


 邪龍は帰るんだ。地中深く、深く……きっとそうしてみせる。


 寝こけてる邪龍を起こさないように、そっと、まるで夢遊するかのよう

 にして、地球の内側の奥深くへと潜っていこう。静かに。眠るように。

 


 でも……不思議だな。



 もう離れ離れになって、会えるはずもなくなって、それで随分と経った

 のに……時折、君の温もりを感じる時がある。今も、ほら、暖かい。


 いい気分だ。


 こんな風に眠ることができるなら、それが永遠に続いたって、悪くない。


 ああ……本当にいい気分だ。


 どうか健やかに。そして幸多からん事を。

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