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鬼ノ鉄兵 ~ その大怪獣は天空の覇王を愛していた ~  作者: かすがまる
第6章 覇道の天空、魔戦の大地
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第7話 恐怖

 どういうんだ、これは……!


 荒野を抜けた途端、俺は次々と襲い来る魔物との連続戦闘を強いられた。

 大小様々の魔の動物たち。それぞれに凶暴で、それぞれに害意と殺意を

 放射して……あちらこちらで殺し合い、俺を見れば飛び掛かってくる。


 それらを蹴散らして疾走する。左手は熊爪、右手は鎌にして、点々と

 死骸を生産しつつ先へ。急げ……急げ……ホラキンへ!


 様々な疑念と危機感が俺を苛むが、何よりまずはホラキンへ行くべきだ。

 天空のことは後回しでいい。地上の異常事態への対処が最優先だ。これ

 ほどまでに魔物が増えたとなれば、ホラキンの防衛が危うい。


 沼蛭の沼地を抜ける魔物がいるかもしれない。

 鬼の住む茸の林を抜ける魔物がいるかもしれない。

 虎蜂の飛ぶ森を抜ける魔物がいるかもしれない。

 そして、ミーが1匹でも討ち漏らせば、子供たちが襲われる。


 俺は既に抜け道を知る。婆さんからの情報にはそれも含まれていた。

 採集もやっていたのだから当然だ。崖の裏手、立ち枯れた大木の洞に

 入口がある。巧妙に隠されたそれは地中を貫いてホラキンへと至る。


 何事もなければいいが……既に取り返しのつかない事態が進行している

 気がしてならない。疑念があるんだ。胸を焼き喉を枯らす疑念が。


 考えない。考えたくない。今はとにかく急ぐんだ。急ぐしかないんだ。

 あってはいけないから。俺の疑念……そんなことがあってはいけない!


 ……ええぃ、くそっ、鬱陶しい!


 もはや何百匹目なのか数えもせず、種類も確認しないで、群がる魔物を

 固体と液体の何某かへと変貌させる。喰らう暇もなければ喰らう気にも

 なれない。共食いはお前らに任せるよ。そら、撒き餌だ。喰ってろ。


 大跳躍でもって空を行ったところで……蜂やら蜻蛉やら鳥やら……魔物

 と化して凶暴な在り様となったものたちが集まってくる。避けられない

 から戦わざるを得ず、どう斬り払ったところで速度が減退してしまう。


 この……有象無象どもが!!


 俺の肩から、背から、8本の鋭利な節足が飛び出した。それぞれが敵を

 1匹と限らず何匹も貫いたようだ。それはいいが、やはり衝撃の分だけ

 減速してる。引き抜く時間も惜しい。滅茶苦茶に動かして死骸を飛ばす。


 節足を身中に戻しつつ着地。その途端に地中から無数に生じた柱がある。

 ここらは巨大線虫の生息地かよ! 沼蛭以上に探険者にとって致命的な

 魔物だ。完全に囲まれた。何十匹いるのか……面積単位で出やがった。


 邪魔すぎるだろぅが!!


 重心を下げる。下げるなんてもんじゃない。船魔石をイメージして重量

 自体を増やした。地面にめり込んでいく両脚。その一方で右腕を大きく

 変化させる。柔軟で強力な触手を基本として、鎌を長く長く生じさせて、

 その材質を硬く硬く……何物をも断つ大鎌を形成していく。


「ぅおおおおお……りゃあああっ!!」


 反時計回りの大旋回。全部が全部を切断するつもりの大薙ぎだ。あら?

 勢い余った。止まらなかった。これは……3回転半くらいしたか? 


 俺を中心に林立していた巨大線虫たちは、一瞬の静寂の後、それぞれに

 数個の肉塊と化してドチャドチャと降り始めた。やりすぎた。体重と腕

 を元に戻してまた駆け出す。遊んでいる暇はないんだ。


 この先は泥湿地帯か……跳ぶ……いや、飛べるか?


 地を蹴って大きく跳び上がり、たちまち群がり集まった魔物たちの内で

 最も大きな翼を持つものを選定する。あいつか。4枚翼で3個頭の魔鷹。

 少し距離があるが……そらよ。右手を触手にして、その先端は角にする。

 さっきのでコツを掴んだ。それを一気に伸ばして刺し貫く。


 他の奴らを左手の鎌で薙ぎ払いつつ着地。触手を戻していく様はまるで

 釣りだな。もがく魔鷹の頭を潰して首の根元に噛みついた。吸い喰らう。


 ……よし。背から4枚の翼を生じさせた。脳で体内地図とでもいうべき

 ものがゾワリと更新される。先の節足に比べればマシな変化さ。半数だ。

 羽ばたきを練習する。色々と足りてないな。翼を更に大きく変化させて、

 体重の方は軽くしてみる。うん……いけそうだ。行く。


 大ジャンプ1発、これまでにない高度まで上がって、そこから滑空する

 ように飛翔を試みた。難しいが何とかなりそうだ。魔鷹が体得していた

 諸情報が何となく頭に入っている。それを高速で履修していく感覚。


 一面の泥を眼下にして飛ぶ。4枚翼を広げて飛翔する形だが……うーん。

 羽ばたく分にはいいけど、滑空するには2枚で十分というか、4枚だと

 変な風圧が掛かって飛びにくい。こう……こうか? こんな感じか?


 などと試行錯誤を繰り返しつつ、両手の方もまた新しい攻撃方法を試す。

 空飛ぶ魔物は小さく壊すだけで墜ちると気付いたからだ。いちいち両断

 するには及ばない。翼の根元を一撃するだけでバランスを崩す。墜ちる。

 点の攻撃でいいんだ。ならば……こうだろ?


 両手の10本の指を伸張させるイメージで、肘から先を触手および角に

 変化させた。1本1本がロープ付きの槍という感じだ。ピンポイントで

 命中させるには全体のバランスが難しいが、その操作を学んでいく。


 ははは……今気付いたけど、触手それぞれに簡易な目がついてるようだ。

 すぐさま視界に反映されるわけじゃないが、明らかに感覚が助けられて

 いる。妙に命中させやすいと思ったよ。空間把握能力も上がっているか。


 化物だなぁ、本当に。誰かに姿を見られたら申し開きもできないほどに。

 お前は何だと問われたならば、まぁ、鬼の鉄兵ですと答えよう。うん。


 森林地帯に入った。このままホラキンを目指してもいいが、あの付近の

 虎蜂の数を減らしたくない。やはり抜け道から行くべきだろう。高度を

 下げる。4枚翼によるふんわりな着地。飛びかかって来た魔鼠を粉砕。


 腐葉土を脇にどけて蓋を開け、閉じた後には蓋を揺らして腐葉土を崩す。

 この道が無事であることに一抹の安堵を得る。そして急ぐ。ホラキンへ。


 ……俺の考え過ぎであればいい。思い過ごしであればいい。愚にもつか

 ない妄想であったと笑えればいい。胸がドキドキとする。頼む。頼むよ。

 神でも悪魔でも何でもいい。頼むから……失敗を重ねさせないでくれ。


 抜け道をホラキン側に出る。倉庫の隣の小部屋だ。真っ暗闇だ。何で?

 手探りで戸口を探して廊下へ出た。変わらない闇。どうして。何で灯火

 が1つもない。嫌だ……嘘だ……まさかだろ? 違うんだろ? なあ?


 触手を無数に生じさせ、ペタリペタリと全部を触りながら進む。いない。

 誰もいない。嘘だ。違う。そんなことないはず。そんなことは嫌なんだ。


 ん、何かいる……暗闇の中に何かが動いた気配……無数の脚で蠢く甲虫。

 大型犬ほどのサイズがある。キーキーと鳴いて、触手に噛みついてきた。

 違うだろ。何でこんな所にお前らみたいのがいる。魔物じゃ駄目だろ?


 触手に鎌を生じさせ、手探りで全てを殺していく。駄目だって。いちゃ

 駄目なんだって。違うんだって。ここは……ホラキンなんだ。駄目だろ。


 嫌だなぁ……どうして、ここでの呼吸に重魔力をこうも感じるんだ?

 嘘だろ? そうじゃないだろ? ここは吸魔巨樹によって重魔力が薄い

 場所のはずだろ? だから魔物がいないんだろ? いるじゃん。何故?


 とりあえず全部死ね。消えてなくなれ、お前ら。ことごとく殺す。


 視界が効くようになってきた。外の光が差し込む所まできたんだ。進む。

 人の身を取り繕ってから、出る。峡谷にかかる岩の橋。対岸には蜂の森

 が上層に確認できる。そこへつながる崖の道の定位置。いない。ミー。


 ん? 何だこの節足は……ああ、橋の裏に何かいるのか。百足の化物だ。

 駄目じゃん、そんな場所に居たら。ホラキンの皆が困るじゃん。死ねよ。


 動き出した機先を制して、橋を掴む節足を逐一切断していく。頭が持ち

 上がるその前に切ってしまう。邪魔だから。在ってはいけないから。


 落ちろ。落ちろよ。ほら……落ちろってんだよ!


 ははははは! 落ちていきやがった。ざまぁみろ。ここに張り付いてる

 お前が悪いんだよ。ここは魔物がいていい場所じゃないんだ。覚えとけ。


 ……谷底にかけても魔物がいるか? 岩壁に張り付くように蜘蛛だの蟻

 だのの魔物が確認できる。許容できない。全部を殺す。殺す。殺す!!


 4枚翼で飛翔し、触手鎌や触手角を駆使して、あらゆる魔物を駆逐して

 いく。許さん。ここにいることを許さん。許せるはずがない。1匹もだ。

 何でこんなにいるんだ。もどかしい。もっと一気に殺してしまいたい。


 崖の両方に触手を放って身体を固定、大鎌でもって「線」を幾つも引い

 ていくことにした。触れれば断たれる大切断の連続。死ね。死んでいけ。


 ん……谷底にもいるのか。触手を戻して落ちていく。4枚翼は浮遊には

 向いている。ふわりと着地。流石にここいらは重魔力が薄いか。魔物も

 小型のものばかりで、しかも数が少ない。目につく側から刺し殺す。


 さて、巨大百足に止めを刺すか。まだ生きてるだろ? あっちか?



 ……居た。死んでいた。正確には殺されていたと言うべきか。


 腹を見せて痙攣する巨大百足。その巨体のあちこちには山吹色の何かが

 突き刺さっている。幾つもの節をもち折れ曲がるそれは……節足なのか。

 それら集まっていく先には、その持ち主たる討ち手が佇んでいる。


 山吹色の……どこかロボット風にも見える人型のそいつ。


 刺々しい節足はそいつの髪の毛だ。金物のメデューサだな。身体は鱗で

 覆われていて、手も足も先細っていって尖っている。妙に艶めかしいな。

 尻尾のようにも節足が何本か生えている。そっちは比較的太い。


 鬼だ。


 こいつは鬼だ。鬼なんだ。山吹色の……金色系統の鬼。この場所に鬼。

 それは何を意味する? わかってるんだろ、俺。この鬼の居る意味を。

 

 俺に気付き、振り向いた。金属の卵といった風に滑らかなのは半面だけ。

 もう半面は人間のままだ。金色の瞳。人間らしい表情はまるでないけど。


 空を裂いて節足が飛来した。1つ、2つ、3つと、次々に俺にぶつかる。

 鋭いが刺さらない。俺は硬い。いや……幾つかは刺さったか。強い鬼だ。

 刺さった部分から痺れるものを感じる。電撃だ。そういう攻撃なのか。


 それらを他人事のように感じながら……俺は鬼の目を見つめ続けていた。

 こうやって百足を殺したんだな? こうやって谷底の魔物を狩っていた

 んだな? 独りきりでこうやって……地下への道を護っていたんだな?



 なぁ……そうなんだろ?


 そうなんだろ……なぁ…………メリッサ。



 恐れていた不安。見えた現実。刺され電気を流しこまれている今が遠い。

 冷える。心が冷え切って、凍えてしまいそうだ。胸に大穴でも開いたの

 だろうか? びょうびょうと風が吹き抜けていく感覚がある。穴はない。


 滅多打ちにされ、更に幾つもが突き刺さるのに任せたまま、俺は立ち尽

 くしていた。鬼を……鬼と化したメリッサを見つめて。言葉もなく。


 やっぱりそうだったのかと思う。


 恐れていた事態。あってはならない、取り返しのつかないことが起きた。



 悪魔石を吸収しようと噛み付いたのは……いつのことなんだ?


 俺は……目覚めるまでに…………どれほどの時間をかけたんだ!!!

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