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鬼ノ鉄兵 ~ その大怪獣は天空の覇王を愛していた ~  作者: かすがまる
第4章 天空の戦争、覇王の真実
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第2話 疾走

「現在、赤羽家は軍務中です。何人もお通し出来かねます」

「別に中に入りたいってんじゃない! 伝言でいいんだ!」

「承りかねます。お引取り下さいませ」


 門越しに対応してくれた使用人は顔見知りだが、態度は頑なでまるで

 話が通じない。くそ、どうしてだ……早く対応しないと陥落するぞ!


 ベルマリアの判断を仰ぐべきだと思ったが、もういい、とにかく領主に

 知らさなければ。警備兵の詰め所に走る。屋根の上も利用して最短距離

 で到着だ。上からやってきた俺に目を剥いてるが、知ったことじゃない。


「西に大きく煙が上がっています。発光も何度か見ました。西端砦が攻撃

 を受けていると思います。確認してください。よろしくお願いします」


 言うだけ言って、今度は西へと走る。門はもう閉まっているはずだから、

 どこかで壁を越えなくちゃならない。ああ、あの建物が頃合だな。跳躍

 して立体的な移動へ変える。ノンストップで跳び続け、外壁の上に着地

 した。飛び降りる。地面に着く前に壁を蹴って速度緩和。着地。


 さぁ、行くか。


 俺はミシェルさんの無事を確かめに行くんだ。戦争自体については後で

 考える。今のところどうでもいい。顔も知らない人たちが何人死のうが、

 俺にとって生々しくないそれらは、後で暇だったら考えるよ。


 助けたいから助けたいように助ける。文句があるなら止めてみろ。


 夜を切り裂け、高橋テッペイ。俺は矢玉だ、野獣だ、流星だ。

 善も悪もなく走るんだ。欲望のままに、我がままに、望むままに。

 右手の封魔環は既に外した。今の俺は灰髪の化物人。浮島など狭隘だ。 


 ミシェルさん……装備違ったら判別できる自信がないけども。

 いや、逆もあるか。同じ装備が複数いたら……とりあえず全部助けるか。

 

 森へ入った。街道は変わらず敷かれているが直線じゃない。地形や植生

 に合わせて緩やかな蛇行あり。直進速度が落ちるのは嫌だな……跳ぶか。


 枝葉を突き破って夜空へ。服が風を孕んでバタバタと煩わしい。脱ぐ。

 この世界の服を全部脱ぎ捨てる。邪魔だ。俺が俺らしくやるのに邪魔だ。

 カーゴパンツとトレッキングシューズのみになった。頭巾はポケットに。


 枝葉を突き破って着地。少し走って、今度はより鋭角に跳ぶ。速度だ。

 より直進速度を増すんだ。西の空はいよいよ戦塵であることが明らかだ。

 急げ。急げ。あの兜の中身を見るんだ。また言葉を交わすんだ。


 森を抜けると丘陵地帯だ。かなり移動し易くなった。谷部分を跳躍で

 短縮しつつ突き進む。草も虫も認められることに月の明るさを思って、

 それが誤解だと気付いた。目だ。俺は今、夜闇をものともしていない。


 湧き起こる魔力によるものか……それとも目が変異を迎えたか。


 まだだ。まだだぞ、俺の身体。目立った変化をしてくれるなよ?

 いつかはそうなるが、今はまだ駄目だ。誤魔化せる範囲でお願いしたい。

 魔石の探し方を学ぶまでは、もうちょっとだけ、社会生活が必要なんだ。


 幾つもの丘を越えて、砦が遠望できるまでになった。浮島がV字の崖に

 切り込まれている根元に建っているんだな。そうすることで航空船の港

 を確保しているのか。両翼は対空兵器が設置されていたのだろうが。


 ほとんど壊滅状態じゃないか。

 爆撃を止める何者もなく、兵士も無秩序に逃げ走っている。


 上空に航空船が5隻。次々と爆雷を投下している。樽型で爆発するアレ

 は呪符と同じ原理で作られた物で、主として爆発魔法が込められている。

 航空船の対地打撃として一般的なものだが……こうも好き放題とは。


 対空兵器は潰され、港の航空船も無傷なものは1隻すらない。それでも

 とにかく出航すべきだろうに、どうやらそれも出来ない様子だ。


 先に強襲揚陸をかけられたのか? だとしたら爆撃は味方殺しになる。

 座学で学んだセオリーなんてまるで当てはまらない状態だぞ。


 一般的に上陸作戦は制空権を賭けた航空戦がまずあり、次いで対地爆撃、

 最後に揚陸して制圧という流れだ。爆撃せず無理やり強襲揚陸をかける

 場合もある。キッカさんが得意とする作戦だったりする。


 しかしこれは……砦が全員寝こけていたか、もしくは爆撃覚悟の決死隊

 でも強襲揚陸させてないと起こり得ない状況だ。一方的に過ぎる。


 丁度こっちに敗走してきた兵士がいる。鎧は着ているから、寝こけてた

 わけじゃないのか。ゲット。混乱しているその顔へ頭突き。説明しろ。


「な、難民船みたいのが、フラフラと飛んできたんだ。それを助けて係留

 したら、な、中から魔物が……魔物がたくさん飛び出てきて……!」


 何てこった。


 そんな作戦聞いたことないぞ。まるで裏闘技じゃないか。けど、そうか、

 それなら躊躇なく爆撃できるのか。むしろ徹底的にやらないと上陸する

 ことができない。それが今の状況なのか。


 つまり、人道的に救助させた船から大量の魔物解放。港を中心にして砦

 を大混乱に。そこで一気に制空権確保及び徹底爆撃。今に至る、と。


「春坂ミシェルって騎士を知ってるか?」

「え、あ……新任の百人長の?」

「どこにいた」

「ええと……どこだろう……」


 放置して砦へ走る。あの人のことだ。またぞろ常在戦場の精神で鎧甲冑

 でいたに違いない。それは直ぐに戦えるが逃げ足が遅くなるってことだ。


 幾人もとすれ違うが、魔物が出てこないな。駆逐されたのか、それとも

 まだ砦で暴れているのか。くそ、爆撃が邪魔だ。音も臭いもわからない。

 視界もかなり悪いぞ……まだるっこしい、突っ込む!


「ミシェルさーん! 春坂ミシェルさーん!!」


 叫んではみたが、やはり爆撃の中では意味がない。この砦はもう駄目だ。

 どこもかしこも滅茶苦茶に破壊されていて、いっそ損傷した航空船の方

 がマシなくらいだ。後で接収するつもりなのだろう。


 ん? ということは……やはりか!


 まとまった人数が港で戦っているようだ。船魔石の貴重さを考えれば、

 最後の攻防は船上となる。この圧倒的状況では爆撃で墜落させる選択

 はとらないだろう。逆に、砦側はいざとなったら自沈させる気か。


 煙の中から何かが飛び掛かってきた。反射的に殴り飛ばす。

 瓦礫に体を打ち付けてなお獰猛に俺を睨んできたのは……魔狼だ。

 裏闘技で戦ったやつより小さい。あれは牛並み。これは超大型犬って所。


 再度の牙を避け、首を抱え込み、右貫手を胸部へ深々と突き入れる。

 拍動する熱い塊を手探りし、掴み、潰す。ついでに少し千切り取って、

 その肉片を口に入れた。久々だね、これも。


 港へ走る。途中、もう1匹魔狼が襲ってきたが、面倒なので蹴り飛ばす。

 そいつは地上へと落下していった。ゴリラのような魔猿については背後

 から組み付いて首をねじ切った。まだ結構な数が残っているようだ。


 近距離に爆撃、魔猿の死体を使って飛礫と炎を避ける。今の俺なら直撃

 しても死なない気がするが、痛そうだし、やっぱり当たりたくはない。


 ん? あれは……いた! マストの折れた航空船の甲板上に、鎧甲冑!

 10人くらいで隊伍を組んで魔物と戦ってる。そうか、まずは魔物を

 どうにかしないと意味が無い。その後は上陸部隊ともう1戦か?


 一気に駆け寄って、巨大な蜘蛛だかゴキブリだかわからん魔物に前蹴り。

 小さな他の魔物も巻き込んで、それらは等しく境海に落下していった。


「お、おお!? お主は……!!」

「通りすがりの助っ人です。とりあえずお元気そうで何より」


 相変わらず老若男女不明人だな、ミシェルさん。良かった。間に合った。

 他の兵士たちもそれぞれに力がありそうだな。逃げずに留まる胆力には

 実力の裏付けがあるってことか。


「従卒の人は中ですか?」

「……爆撃に巻き込まれて瓦礫の下だ」

「そうですか……どうします、都へ撤退するなら掩護しますが」


 あの元奴隷の人は死んじゃったか……そうか。マウイが悲しむだろうな。


「みすみす船を……魔石を奪われるわけにはいかん。可能な限りここに

 踏みとどまって戦うのだ。援軍は必ず来る!」

「無茶ですよ。魔石を取り外せないんですか?」

「専門の技術者でもないと容易にできることではない。船を沈めるだけ

 なら簡単だが……それは最後の手段だ。やった者も逃れられんからな」


 それに、と続ける。


「船がある限りは敵をここに釘付けにできる。時間を稼ぐのだ。その時間

 の全てが殿の有利に働こう。最後の最後まで抵抗せねばならん」


 悲惨な状況だな。船を見捨てりゃ早いし、実際、多くの兵がそうして

 敗走しているわけだが……この人たちにはそんな気がサラサラない。

 こちらの船は6隻。内1隻は小型船。1個艦隊と高速連絡船か。


「足の速い小型船を使えば逃げ切れますか?」

「出来ないことはないだろうが、それはせんぞ」

「是非にもしてください。5隻については俺が何とかします」

「馬鹿な! お主は魔石技術者ではあるまいし、ましてや軍の関係者でも

 ない! 助太刀を貰っておいて何だが、ここはお主の戦場ではないぞ!」


 そうだね。俺は軍人じゃないし、軍だの何だのは全く考慮していない。

 けどここは俺の戦場だ。俺がミシェルさんを死なせないための戦場だ。

 馬鹿になれってのは貴方が言ったことですよ。後で悩みますから。


「じゃあ、援軍を連れてきてください。それまでは俺1人で船を護って

 みせます。最悪の場合でも全部自沈させますよ。壊すだけなら簡単だ」


 そう言って、落ちていた魔狼の死体を1つ持ち上げる。そして見上げる。

 ポイポイと景気良く爆雷を落としているなぁ……よし、アレにするか。

 身体を熱くするエネルギーを全開にして、死体を投げつけた。


 外れた。


「お……おお?」

「……か、肩慣らし。肩慣らしですので!」


 誰かが切断したらしい節足系の脚を投げつける。投げやすさ重視っ。

 ……当たった! 当たって爆発したよ! たまやー!!


「おおおお!!」

「とまぁ、俺はとっても強いので、任せといてくださいよ。どうしても

 駄目と言うなら、ミシェルさんだけ掻っ攫って逃げます」

「な、なんと!?」

「そのために来たんです。悪いですが、他はついでです。俺は俺のために

 ミシェルさんに生きていて欲しいんです。ご意見無用です」


 ふっふっふ、馬鹿になるって、いいね! 凄くわかりやすい。

 どん引いてますねー、皆さん。どん引きで……あれ? どうして笑顔?

 え、何で拍手? は? 何この場違いな祝福ムード。え? 何??


「隊長、やったじゃないですか! これは決まりですよ!」

「まったくです。素晴らしい。まるで物語を見ているようです」

「嘘つき! 隊長の嘘つき! こんないい男を隠してたなんて!」

「おめでとうございます。生きて戻れたら、祝言には呼んでくださいね」


 はぁ!?


 え……と……はぁ!?


 駄目だこいつら何言ってんだ!? 祝言とか言わなかったか!?

 っつーかミシェルさんも何をクネクネと……鎧甲冑で器用だな……変な

 動きで悶えてるんです!? おい……まさか……おい、おい……!!


「じょ、情熱的な告白を、ありがとう……高橋テッペイ」


 すっと外されたグレートヘルム。

 その鋼鉄の兜の下から出てきたのは……珊瑚色の波打つ美髪。

 同じ色の瞳は潤んでいて、そのお姫様のような美貌を飾っている。


 

 春坂ミシェルさんは……俺よりちょい上くらいの……女性だった。

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