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鬼ノ鉄兵 ~ その大怪獣は天空の覇王を愛していた ~  作者: かすがまる
第1章 地獄の地上、魔法の天空
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第2話 転生

「お前ら、全周囲警戒だ。俺ぁ、ちょっとコイツに話がある」


 号令というか何というか。可憐にして貫禄のある指示を出して。

 俺の横に胡坐をかいた美少女がいます。よっこいしょ言いました。


「で? お前、日本人のつもりなんだろ? そうだろ?」


 腰のポーチから何やら木の枝を出して噛み噛みしつつの質問とか。

 ええと……何この人超怖い……見た目と裏腹にドスが利いてるです。

 本能が察知してる。この人喧嘩強い系の人だ。暴力上等系の人だよ。


「おい、コラ、答えろよ」

「は、はひぃっ。タカハシテッペイと申しますっ」

「テッペイ? 漢字は?」

「あ、アイアンソルジャーで、鉄兵です」

「あいあんそるじゃー……って、うはっ、何だそれカッケー名前だな!」


 バンバンと肩を叩かれた。あれ、ちっとも痛くない。女の子の腕力だ。

 もっと凄いの予想してた。リンゴどころか鏡餅すら握り潰せる系の。


「俺ぁ、山田太郎。まあ、こっちの名前だと赤羽ベルマリアだけどな」

「え?」


 ええと……え? 今何か変なこと言わなかった? 

 ちょっと対応に苦慮してると、山田だかマリアだかさんは苦笑した。


「赤羽家ってのは悪名高くて困るぜ。できれば気にしないでくれ」

「は、はぁ」

「テッペイはこっちではどんな名前なんだ?」


 こっちという言葉は、あっちがあること前提だよな?

 あっちってのは日本のこと? こっちってのは……どこ??

 でも何か気さくな感じだし、話を合わせておいた方がいい気もする。


「あの、テッペイでお願いします」


 とりあえず頭を下げてみた。だって俺は鉄兵ですし。


「んじゃ、俺はベルマリアで頼む。これでも立場のある人間なんでな」

「はぁ……よろしくお願いします、ベルマリアさん」

「さんをつけるたぁ、いいデコ助野郎だ。なんつって」


 物凄く素敵な笑顔でVサインされた。されたけども。


「い、いやまぁ、俺も日本人と会うの2人目だし? 興奮気味なの!」


 ワタワタとされた。されたけども。え?

 凄く可愛い生物を見ている気がする一方で、発言内容が気になる。

 2人目って…………どゆこと??


 ベルマリアさんはといえば、何やらブツブツと呟いている。

 アニメ詳しくない系のやつだったかーとか。ネタが古すぎたかーとか。

 テンション高めなのは本当らしい。頬が紅潮していて、それも美しい。


「んで? どうしてこんなとこにいんだよ、テッペイ」


 ニカッと笑顔を向けられるとドキドキする。やっぱり綺麗な子だ。

 歳は幾つくらいだろう……高校生くらいだろうか。


「どうもこうも……自分でも何がなにやら。ここもどこやら」

「は? 探険団じゃないのか? まさか地這ちはいの……おい、これ、地毛?」


 痛い痛い、髪の毛鷲掴みとか、怖い怖い!

 何本か引っこ抜いた上に、それ見て凄い怖い顔してます、この美少女。

 別の意味でドキドキします。か、カツアゲは強盗なんだぞ、犯罪だぞ。


 うわっ、今度は顔を掴まれた……って、近い近い近い!

 キスではなかったものの、凄く近い。視界一杯に綺麗な顔がある。

 本当に綺麗だな……左右色違いの瞳に魂を吸いこまれるみたいだ。


 あ、遠ざかっていった。やっぱりドキドキする。美って罪だ。


「テッペイ、お前、まさか……日本人のまんまなのか?」

「へ??」


 探険団、地這、地毛、まんま。何一つわからないんですけども。

 けどそれが大問題っぽいのは伝わってきて、またドキドキしはじめた。

 何か嫌な予感がする。まさかとは思ってたんだけども。


「もしかして……ここって……地球じゃない?」

「あったり前だろが! 地球にさっきみてーな怪物がいてたまるか!」


 ですよねー的に納得すると同時に、んな馬鹿な的に混乱もするわけで。

 色々と許容限界を超えました。皆して俺の心を振りまわし過ぎです。

 はい、もう無理でした。さようなら視界。こんにちは地面。


 俺は見事に気を失って倒れたのだった。





 目が覚めてもそこは異世界だった。

 知らない天井というか、知らない狭い部屋に寝かされていた。

 木造だ。でも異世界。だって普通じゃない人が俺の顔を覗き込んでる。


「良かった。目を覚まされたんですね」


 可愛らしい女性だと思う。エプロン越しにも豊満なものがわかるし。

 けどね、普通じゃない。紫色の髪から飛び出た三角形が2つある。

 猫耳だ。見紛うことなき猫耳。失礼を承知で下半身を見る。尻尾も。


「え、えっと……何か?」


 ピクピクと動いてる。本物だ。普通の耳はないのか確かめたい。凄く。

 尻尾、くねるたびに毛並みが光沢を放っててやばい。さわりたい。

 猫派なんだもの。これは劣情と違うの。愛なの。さわりたいのよ。


「わ、私、ベルマリア様にお知らせしてきますっ」


 あ、あー……行っちゃった。はたと気付く。今のヤバいんじゃね?

 もしかしなくてもセクハラな感じだったのではないだろうか。

 しかもそれをお知らせされちゃうのではないだろうか。まずくね?


 い、いや、でも、触ってないし。未遂だし。

 とりあえず身形を正しとこう、そうしよう。釈明するにも形は大事。

 あ……服が違う。上は長袖肌着だけど、下が知らないズボンだ。


「よーう、目が覚めたらしいな!」


 真っ赤な髪の美しい人がノックもなく入ってきた。ベルマリアだ。

 手には何か藁巻いた瓶を持ってる。酒に見える。おっさんぽいです。


「いきなり失神すんだからビビるよな、全く。ほら飲めよ」


 枕元にコップと水差しがあった。そのコップに薄黄色の液体を注ぐ。

 渡されましたけどもコレ何だろう? 恐る恐る口をつけ……酸っぱ!


「目ぇ覚めるだろ。向こう風に言うならレモンジュースさ」


 酸っぱいとわかっていれば、美味しく飲める代物だった。ふぅ。

 実際、凄く美味しい。生き返った心地だ。落ちたり叫んだりしたし。


 ベルマリアはニコニコしてそんな俺を見ている。くすぐったいです。

 これほどの美少女に飲み物注がれたり、笑いかけられたり、贅沢だ。

 巨大スズメバチに運ばれてたとこから考えると、凄い差だね。


「アルメルに欲情したらしいな?」


 レモンジュース吹いた。


「随分と元気な話だなぁ、ええ、おい。巨乳にか? それとも猫耳か?」

「えほんっ、げほんっ、うぇ、ぐえっ!」

「だが残念だったな。アルメルは俺のもんだ。手ぇ出したら殺す」

「げほげほ……滅相もない!」


 何かツッコミ所があった気もしたけど、それどころじゃないやい。

 話をしよう。話をしよう。お願いします。話をさせてくだしあ。


「冗談だ。何にせよ確認しなきゃならんことがたくさんある」

「そ、そうですね」

「まず1つ目。お前は転生者ではないんだな?」


 転……生? 輪廻転生ってやつ? 仏教??


「違うと思います。気付いたらでっかいスズメバチに運ばれてました」

「虎蜂か。よく助かったな……まあいい、教えておく。俺は転生者だ」

「はぁ」

「……わかってない、わかってないな、お前。事の重大さが!」


 何か綺麗な子がいきり立ってる。首ブンブンすると髪から香りが。

 いい匂いだなぁ。どうして女の子って男と違って甘いんだろう。

 

 なんて、ぽへーっとしてたら殴られました。グーで。痛くないけど。


「寝てんな! くそっ、端っから説明してやるからよく聞け!」


 グイッと瓶ごとジュースをあおり飲み、ベルマリアは語り始めた。

 いや、ちゃんと聞くけども……いちいちおっさんくさいと思います。





「まず言っておく。この世界はお前の知る世界とは違う。日本もない。

 科学の代わりに魔法が発達している。電力文明ならぬ魔力文明だ」


 いきなり言われても信じなかったろう。けれどもう、信じるしかない。

 化物がいて火だの雷だの槍だので退治するのだから。異世界なのだ。


 異世界……外国って意味じゃない。違う惑星だったりするのか?


「俺は以前は山田太郎というサラリーマンだった。今や記憶も曖昧だが、

 社畜として働いて死んだんだ。多分、過労からの病死だと思う。5歳の

 時にそれを思い出した」


 おっさんか!? おっさんなのか、この美少女の中身は! 何故!!

 転生ってそういう残念なシステムなの!? 仏様、ねぇ、仏様!!


「何しろ性別変わってたからな。混乱したなんてもんじゃねぇ。

 正直言って、世界がファンタジーだってこと以上の衝撃だったぜ……

 思わず屋敷一軒全焼させちまった」


 さらっと凄いこと言った気がします。どういう犯行動機だよ、それ。


「ふふっ、俺も若かったな。まあいい」


 まあよくない。そして確信した。

 この人、精神的には絶対に三十路越えてる。そういう気配が濃厚。

 外見との違和感が半端ないです。何だろう、この新感覚は。


「俺も最初は転生なんて発想には至らなかった。悪い夢だと思ってたよ。

 けど、今際の曾祖母を見舞ったときに、聞いたんだ。言ったんだよ。

 『次も転生するなら日本に戻りたい』って。決定的だろ?」


 お、お気軽なものなのか、その、転生とやらは……派遣先的な?


「喰いついたね、俺ぁ。親戚どもが止めるのも振り払って話し込んだよ。

 曾祖母の方も喜んでたしな。何でも前世では銀行職員だったらしい。

 鈴木りそなって名前で、ノルマに追われる毎日だったそうだ」


 どっかで聞いたことあるような名前だ。しかし転生とは。

 魂とかそーゆー話なんだろうか。魔法があれば魂もありそうだが。


「それから調べたんだが、どうやら歴史上、俺や曾祖母のような存在は

 幾人か存在したらしい。誰もが一角の人物だ。帝室にもいた節がある」


 深刻そうに眉根をしかめるその表情すら悩ましい。おっさんなのに。


「俺自身もそうだが、その手の人物は魔法の天才であることが多い。

 転生特典というふざけた言葉も古文書で読んだことがある」


 ふぅ、と息をついて、瓶をぐいっと。

 白くて細い喉だの首だのがとっても魅力的。おっさんなのになぁ。


「この時代にはもう俺しかいないと思っていたんだが、お前が現れた。

 しかしお前は違うらしい。日本人のままこっちへ来ちまったんだな?」


 理屈はわからない、というよりは何もかもわからないけども。

 でも、そういうことになるのかな? いつもの格好だったし。


「俺は最初、お前は転生者だと思った。俺も一時期そうしてたんだが、

 髪の毛を黒く染めたくなるんだよな、日本人としてさ。服も作ったり」


 そう言って自分の髪を一房手にとった。綺麗な、本当に綺麗な赤色。

 ただの一色じゃないんだ。緋、紅、赤、火……鮮やかに燃える炎の色。

 しかも目は金銀に輝いてるんだから、何とも崇高な印象だ。

 

 そういえば、さっきの兵士たちも黒髪は1人もいなかった。

 赤、青、茶、緑、金、銀、紫、桃……色々。目も髪と同じ色だった。

 ベルマリアに比べると濁っていて彩度の低い発色ではあったけれど。


「それならば問題はなかった。だが、どうやらお前のは地毛らしい」

「そりゃまあ、はい、生来のもんですけど」

「まずいんだよ、それは。すこぶるまずい。だから船を空に戻した」


 はい、またわかんないこと言い出しました。この美少女なおっさん。

 船ってのはわかる。さっきから少し揺れてるし。狭さも船室で納得。

 でも空て。あ、いや、飛行船なのか? そういうこと?


「ああ、そうか、それも知らないのか……いちいち面倒だなぁ」

「お、お手数をお掛けしましてすいません」

「いや、俺こそすまん。常識のすり合わせってのは大変なんだな」


 まあでも、と笑う。ニヤリと野性味のある笑い方で。

 しかして美少女。違和感がそのまま何ともいえず魅力的で困る。

 おっさんなのに……中身おっさんなのに……外見って怖いわー。


「この世界で2人っきりの日本人だ。俺が面倒みっから心配すんな!」


 え……何このトキメキ。ちょっと惚れちゃいそうなんですけども。

 女性としても飛び切り魅力的だけど、そうでなく、男として。

 だってプロポーズみたいなんだもの。頼りがいがあるんだもの。


「外見じゃ俺の方が年下だが、通算じゃ俺の方が年上なんだ。任しとけ」

「せ、先生……!」

「何だそりゃ、キモい。俺ぁ15の夜に走り出した世代だぞ」

「ええと……じゃあ、先輩」

「お。いいねソレ。凄くいい。それでいこう」


 というわけで。


 俺はこの名も無き異世界で、先輩と共に冒険をしていくことになる。

 この時はまだその全貌も正体もわかっちゃいなかった、魔法の世界。

 美しくも残酷で、清濁定かならぬ、危険に満ち満ちたこの世界で。


 ……俺は、ある時から『鬼神』と呼ばれることになるんだ。

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