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下ネタ満載ラブストーリー! 『さっぽろ恋ものがたり』シリーズ

廃校の鬼教師

作者: おじぃ

「お前はこうも毎日毎日宿題をしてんとは!! これじゃ大人になっても社会で通用せんぞ!!」


 山奥にある木造二階建ての小学校。夏休み直前で蝉が合唱する今朝も、教室には怒号が響いていた。定年間近、顔にシワがあっても頭はツヤツヤと光沢を放っている。鬼教師と名高い男の、教師生活最後の夏。


 …に、なる筈だった。


 ◇◇◇


 鬼教師が定年退職して六十年、小学校は二十年も前に廃校となったにも拘わらず、校舎は解体されず残されたまま。かつて校庭だった場所は背の高い草が生い茂り、ちょっとしたジャングルと化していた。


 この小学校には、あの鬼教師が幽霊となって現れるという噂がある。それを聞き付けた若者が夜な夜な肝試しをしに校舎へ侵入するというが、未だ遭遇したという報告は、インターネットで噂を流した匿名の者からしかない。


 八月の夜八時頃、林間学校で近くのキャンプ場にあるコテージで寝泊まりしている中学二年生の少年、音威子府おといねっぷ神威かむいは、吊橋効果で想い人に好いて貰おうと、意中の上幌かみほろ万希葉まきばをキャンプファイヤー終了後に呼び出した。


 万希葉は肩甲骨辺りまでかかる艶やかな髪、色白でスレンダーなモデル体型で、男子からの人気が高い学園アイドルだ。


「なんか用?」


 神威はスカートめくりの常習犯として校内では有名人。万希葉は夜の森で何かされるのではと警戒している。


「噂の廃校まで肝試ししに行こうぜ!」


「ここを抜け出すってこと?」


 万希葉は更に警戒レベルを上げた。いざという時のために催涙スプレーを持っているが、押さえ付けられたら抵抗する自信がない。


「徒歩五分だしすぐ帰れるって!」


「卑猥な事しないでしょうね?」


「なんだと!? 紳士たる俺は卑猥な事なんかしないぞ!」


「よく言うわよ。毎日のスカートめくりに加えて、体育館で一緒にマット片付けた時なんかジャージズボン脱がしたじゃない」


「いやぁ、万希葉はパンティーのバリエーションが豊富だからな! 今日は何色? ふっふ~♪ みたいな感じでやらずにはいられないというかなんというか」


 頭をポリポリしながら照れ隠しする神威は、本当は今すぐにでも何かしてしまいたい気分だ。


「ふっふ~♪ って何よ。それにジャージでも下着は変わらないから。まぁいいわ。どうせ暇だし。もし何かしたら『ねっぷ』の大事なトコ、明日のバーベキューで焼くから」


 『ねっぷ』というのは神威の苗字、音威子府おといねっぷから取った徒名だ。


「何もしねえって! 安心して肝試しを楽しもうぜ!」


「キャッ!?」


 語尾を言っているところで、神威は万希葉の尻をペシペシと軽く二回叩いた。


「ちょっ!? 何すんのよ!? 焼かれたいの!?」


「わりぃわりぃ! つい癖でな!」


 数分後、神威はなんとか万希葉を宥め、一緒に冒険の旅へ出発した。


 実は万希葉も鬼教師の噂が気になっていて、肝試しをしたいという気持ちがあった。


 ◇◇◇


 虫の声を聞きながらペンライトを持って鬱蒼とした森を抜け、背の高い草を掻き分けながら進むこと約五分。廃校の昇降口に到着。先程まで聞こえたキリギリスやコオロギの声は聞こえず、何故かスズムシのリーン、リーンという声が不気味に響く。夜のため気温は低いが、風は生暖かい。いかにも幽霊が出そうなシチュエーションだ。


「うほーいっ! 廃校だぜ! いざ潜入ー!」


 夜な夜な若者が訪れるという廃校だが、今は神威と万希葉を除いて誰も居ないようだ。


「ねぇ、やっぱめない? なんか色々おかしいわよ。なんでこの辺だけスズムシの声しか聞こえないのよ」


「ここはスズムシの縄張りなんだよ! たまにそういう場所あるだろ」


 言って、神威は半ば強引に万希葉を校舎内へ連れ込んだ。


 二階建ての木造校舎は腐敗が進み、歩けば床がミシミシ、天井には所どころ大小の穴が開き、屋根や床を構成していたと思われる木材がぶら下がっている。


 カサカサカサカサッ!


「何!? なんか音したわよ!?」


 万希葉は不審な音に怯え、神威にしがみついた。


「どれどれ?」


 うほーいっ! 心臓バクバクだぜ! と歓喜を表に出さず、神威は音のした方向にペンライトを向けた。


「あれはネズミだな。どうせなら人体模型でも走って来ればいいのに」


「ちょっと!? そんな事言って本当に走って来たらどうすんのよ!?」


「万希葉、怖いのか?」


「別に、怖くないわよ…。人体模型が走るわけないし…」


 言いつつも、万希葉は神威と目を合わせようとせず、俯いている。


「怖くても大丈夫だって! 俺が誘った手前、何があっても万希葉だけは無事に帰すからな!」


 普段は強気な万希葉が怯えて俺を頼りにしてるぜ!! 誘って良かったあああ!!


 神威は鬼教師を捜す目的を半ば忘れ、フンフン! と鼻息を荒くしている。


 ………。


「どうした? 急に黙り込んで」


「別に…」


「そっか」


 ややあって、万希葉は神威のシャツを抓んで軽く引っ張り、鼻で深呼吸をし、小さく口を開いた。


「…ねっぷも、ちゃんと無事に帰るのよ?」


 トクン!


「おう」


 神威は頬を熱くして、一言返事をするのが精一杯だった。普段はツンツンしている万希葉が自分を心配してくれているのが意外で、素直に嬉しかった。


 廊下を隅まで歩いたところで、今度は階段を上がる。階段もやや傷んでいるが、廊下より頑丈に出来ているようで、ミシミシという音はしない。


 ◇◇◇


 二階に到達して突き当たりを右折すると、目の前に頭がピカリとハゲた初老の男が険しい目付きで二人を見ながら仁王立ちしていた。噂の幽霊と思われるが、姿カタチがハッキリ見える。


「「えっ?」」


 何これいきなり!? 窓ガラスがガタガタ震えたり、奇妙な声が聞こえたりとか、もっと前フリとかあって良くない!?


 二人の考えは一致していた。こうもあっさり見付かってしまうと神威はどう反応すべきか分からなかったが、万希葉は違った。


「ひひゃ、ひゃ、きゃあああああああ!!」


 万希葉は悲鳴を上げて押し倒すくらいの勢いで思いっきり神威にしがみついた。


「おおおっ!? 怖いのか!? 大丈夫だ! とりあえず俺に任せろ!」


 うほーいっ! 発展途上だが胸の感触が堪らねぇぜ!


 浮かれ気分の神威は幽霊など眼中にない。


「お前たち、これ以上進むでない! 今すぐ立ち去れ!」


 神威の無視に耐え兼ねた幽霊は物凄い剣幕で怒鳴るが、イマイチ迫力に欠ける。


「その前になんなのよその格好!? 白いブリーフ一枚でもっこりしてるわよ!?」


 幽霊はハッとして、ふと自分の身体を見回した。身に纏っているのは『もっこり』を包み込む白いブリーフのみ。中年太りの腹がボテッとしてだらしない。


「な、な、しまった! あのだなっ、これはだなっ、決してさっきまでキャバレーとSMクラブをハシゴした後にヘルスで昇天して服を着るのを忘れた訳じゃないぞ! この通り現世に留まって子供たちの指導をしているだろう!?」


「おおっ! 幽霊のオッサン! 詳しい話を聞かせてくれ! 特にSMクラブ!」


 神威の反応に、幽霊はニンマリと鼻の下を伸ばした。


「あれはだな、まずプリンちゃんというだな、ロ~リロ~リキュンッ! な名前と見た目の割にSっ気たっぷりの女の子に目隠しをされてから亀甲縛りにしてもらってだな、踏み踏みされながらムチを打ってもらって尻に溶かした深紅の蝋燭ろうそくを…」


 ニンマリと満面の笑みで語る幽霊もとい噂の鬼教師であったが、はっとして我に返った。


「って、教育者たる私がそのような所など行っておらん!」


「ちょっと!? 二人してなに盛り上がってんのよ!? マジキモいんですけど! あーもう、こんなんだったらでっかい枝切り鋏でも持って来れば良かった!」


 恐怖を忘れて怒り心頭の万希葉。でっかい枝切り鋏でナニをスカッと切るつもりなのだろうか。


「男の世界さ…。キリッ…」


「ばっかじゃないの!? もう幽霊見付けたんだしさっさと戻るわよ!」


「おっとっと、そうだオッサン、せっかく学校見学しに来たんだから隅々まで見せてくれよ!」


「それはいかん! これ以上先は是が非でも通さんぞ」


「なんでだよ。財宝でもあんのか? 特注の高級カツラとか」


「ええい! ごちゃごちゃうるさい! こうなったら強制退去だ! 地縛霊たる私の脅威を思い知るが良い! 奥義、発光! ピカリンヘッドォォォォォォ!!」


 鬼教師は神威と万希葉にツルツルピカピカした頭頂部を向け、まるで太陽のようにギラギラ発光し、周囲が真っ白になった。鬼教師の愛情篭ったまばゆい光が神威と万希葉を優しく包む。


「うわあ眩しい!!」


「キモーい!!」


 鬼教師は退職してやがて亡くなり、御霊みたまとなった現在でも『発光! ピカリンヘッド』を行使して学校に忍び込むイタズラっ子たちを指導しているのだ。


 ◇◇◇


「あれ? 俺たち何かしてたよな?」


「…キャンプファイヤー?」


「いや、その後だよ。何だっけ。もしかして、俺と万希葉が一つになったとか?」


「は? 何それ。有り得ないんですけど」


 神威と万希葉はいつの間にか他に誰も居ないキャンプファイヤーの広場に戻ったのだが、廃校に忍び込んだ記憶を失っている。


「ん~と、真面目な話するとさ、俺って色んな奥義を習得するためにひっそり修業してんだけど、なんか出来れば習得したくない技を誰かに見せ付けられたような気がするんだよなぁ…」


「ふふっ、なにそれ」


 神威は何となく髪の手入れには気を付けようと思ったのだった。


 それから数週間、神威は激しい抜け毛を発症する夢を見て、恐怖で何度も飛び起きた。


 ストレス社会と呼ばれる現代。薄毛の恐怖は老若男女を問わず訪れる。鬼教師は、つもりはなくともスカルプケアには気を付けろと身を以って教えていた。


 ◇◇◇


 廃校二階の廊下。二人を追い払った鬼教師は一安心していた。


 鬼教師の待ち構える先は床が腐って大きな穴が開いており、人間が踏み込んだら、少なくとも転落して大怪我は免れなかった。


「早く解体してくれんと成仏出来んわい。とはいえ子供たちの元気な声が今でも聞こえる錯覚を覚えるこの学校が無くなるのちょいと寂しいものだが。未婚の私をあの世で迎えてくれる者などらんし」


 鬼教師が風俗店をハシゴしていて留守中に誰かが訪れて転落したら一大事。訪れた者の記憶を消すのは、これ以上噂を広めないため。


 最初に訪れた者の記憶は消さなかったため、噂はネットを通じて瞬く間に広まり、一夜に何組もが肝試しに訪れた日もあった。なので以後の訪問者については噂の拡散を極力抑えるため廃校に関する記憶を抹消するようにしたのだ。


 ちなみに、第一発見者が鬼教師と遭遇したのは一階の職員室。デスクの引き出しに隠したオトナの本を取りに天から降りた盆で、本の内容は知られずに済んだ。


「なになに、近くで林間学校をやっておるのか。仕方ない、期間中は夜遊びをやめて、昼間にメイドカフェで萌~え萌~えキュン♪ してくるか♪ ウヒョヘヘヘ~」


 風俗店やメイドカフェで頭が光っているオッサンが居たら、それは幽霊かもしれない。


 今日も鬼教師は子供たちの健やかな成長を願いつつ、キモチイイ汗を流しているだろう。


 


 

 ご覧いただきありがとうございます。


 これが恐怖を煽れるか不安ですが、思いきって投稿してみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何でこの話の幽霊は現代通なんでしょうか。 下界に降りてきていると言うのは呑んでいますが、通過ぎでは。
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