王太子の婚約破棄を取材していたら、元恋人の伯爵令嬢が殺されました
その日、王太子レオポルド・グレーフェンベルク殿下と、公爵令嬢のアマーリエ・エルレンブルクの婚約破棄が大きく報じられ、王都を賑わせた。
その記事を書いた記者の名は、マレーネ・ホフマン。王都で広く読まれる「王都新報」の記者である私だ。
「マレーネ、よくやったな。おまえの記事のおかげで、この何年かでも最高の売り上げだ」
王都新報の編集長のゲオルクさんはご機嫌で、私の記事を褒めた。
けれど、私はそこまで誇らしい気分にはならなかった。
王太子殿下と公爵令嬢の婚約破棄であれば、誰が書こうが新聞は売れただろう。
「おまえのおかげで、俺のスクープも影が薄くなっちまった」
そう文句を言ってきたのは、同僚の記者のヴィクトール・ザイデルだ。
「私の記事が悪いんじゃないわ。王太子殿下が婚約破棄したのが悪いのよ。そんなのに勝てるスクープなんてそうそうないわ」
「婚約破棄なんかより、俺の記事のほうが興味深いと思うんだけどなぁ。世間と俺の感覚はズレているのか? だとしたら記者として致命的か」
「あんたの記事って……」
「伯爵令嬢シャルロッテ・リーベナウが殺された事件だよ」
伯爵令嬢のシャルロッテ様が、人気のない路地で胸を刃物で刺された状態で亡くなっていた事件……それは殺人事件として報じられたが、まだ犯人は捕まっていない。
「あの記事読んだわ。確かに私もあんたの事件のほうが興味があるわ」
「おい、だめだ。マレーネは王宮の取材がまだあるだろうが。王都の皆が詳細な記事を待っているんだ。婚約破棄の理由はまだはっきりわかっていないじゃないか」
ゲオルクさんが、シャルロッテ伯爵令嬢の事件に興味を示した私を嗜めた。
「意外と関連があるかもしれませんよ。シャルロッテ様は、レオポルド殿下のかつての恋人ですからね」
「それくらい知っている。ヴィクトール、だからこそおまえはおまえの取材を続けるんだ。もし関連がありそうなら、私とマレーネに知らせろ」
「もちろんです、ゲオルク編集長。マレーネ、おまえのほうも何かあったら教えてくれよ」
ヴィクトールが私にそう言って、外出しようとする素振りを見せた。
しかし、私には彼の発言に気になることがあった。
「待って、ヴィクトール。あんたまさか、レオポルド殿下がシャルロッテ様を殺したとでも思っているの?」
「殿下が直接殺したなんてことは考えていない」
「でも、殿下が殺害を指示した可能性はあると?」
「可能性がないとは思わない」
「でも、妙だわ。もしシャルロッテ様が婚約の邪魔だったから殺されたなら、なぜ、その直後にアマーリエ様との婚約まで破棄したの?」
「さあな、じゃあレオポルド殿下は無関係かもしれないな」
「それを調べるのが私たちの仕事でしょう?」
「それを調べるのは憲兵と法務卿だ」
「憲兵や法務卿に真実はわからないわ」
※
私はヴィクトールが取材するシャルロッテ様の事件が気になっていたが、私は私の取材を続けるために、王宮にいた。
後でヴィクトールと情報交換すると約束している。
王宮の玄関広間に王太子レオポルド殿下が姿を現すと、私たち記者は色めき立った。
レオポルド殿下が集まった者たちに向けて口を開くと、私たちは黙って耳を傾けた。
静寂の広間に、レオポルド殿下の声が響く。
「皆様、お集まりいただき、ありがとうございます」
その口調は落ち着いていたが、どこか憔悴しているようにも見えた。
「皆様ご存じのとおり、私はアマーリエ・エルレンブルクとの婚約を破棄いたしました。これは円満な婚約破棄です」
「円満な婚約破棄というのは?」
一人の記者が尋ねた。
レオポルド殿下は表情も変えずに応じる。私は殿下がとても冷徹な人間なのではないかという印象を受けた。
「お互いのことを嫌って別れたのではなく、合意の上で別れたということです。いずれわかることだとは思うので話してしまいますが、アマーリエは隣国の王家との縁談を検討することになりました。私との婚姻を進めるよりも、王国にとって益があるとお互い考えての結論です」
記者たちが騒然とした。
これはまた大きな話題を呼ぶだろう。
一方で、私はレオポルド殿下とアマーリエ様に少し同情してしまう。
王家と高位貴族の人間である以上、お互いの気持ちがどうであれ、政治的な判断を優先するということなのだろう。
こんな話を耳にするたび、自分が平民でよかったと心から思う。
「お二人のお気持ちはいかがなのですか?」
また別の記者が尋ねた。
ずいぶん無神経な質問だが、殿下のお気持ちまで聞けたほうが記事は面白くなるだろう。
「何も。先ほども申し上げたとおり、お互い納得しての婚約破棄です」
レオポルド殿下は最後までその冷徹な表情を崩すことはなかったが、私はその奥にかすかな悲しみの色を見たような気がした。
政治的な判断を優先するために、押し殺さなければならない人間としての感情が確かにそこにある気がしたのだ。
あるいはかつての恋人の死も、殿下のお心に何らかの波紋を広げていたかもしれないとまで想像したが、そこまでは考えすぎだろうか。
事務所に戻り、レオポルド殿下の婚約破棄に関する記事を書いていると、ヴィクトールも帰ってきた。
「レオポルド殿下のお話はどうだった?」
ヴィクトールが尋ねてきた。
「アマーリエ様は隣国の王家との縁談を検討することになったんですって。お互い納得しての婚約破棄だそうよ」
私がそう答えると、ヴィクトールは落胆したようにため息をついた。
「ではやはりシャルロッテ様の事件とは無関係か」
「ええ。何の関連も見えないわね。で、そっちは何かわかったの?」
「状況から見て、殺人に間違いなさそうだとの法務卿の見解だ。シャルロッテ様の所持品を確認したところ、財布や宝石が施された装飾品も盗られていたとのことでな。おそらく強盗目当てだ」
「じゃあ、やっぱりレオポルド殿下とは何の関係もないじゃない」
「いや、強盗に見せかけて殺したってことも考えられるだろう?」
「まあ、なくはないでしょうけれど……。私はレオポルド殿下がシャルロッテ様の殺害に関与しているとは思えないわ」
「ひとつ不可解なこともあるんだ。シャルロッテ様が亡くなっていたのは、王都の貧民街でな、そんなところに貴族のご令嬢がひとりでいたっていうのがどうも違和感がある」
「犯人に連れて行かれたか、呼ばれたとか?」
「今のところ、シャルロッテ様が誰かと一緒にいたという目撃情報はない。ただ、シャルロッテ様は、貧民街で慈善活動をしていたから、そこにいたこと自体はそれほど不思議ではない」
「あ、そういえば、私、慈善活動のことで、シャルロッテ様を取材したことがあったわ」
そうだ。二年ほど前だったか……。あの頃はまだ王太子殿下と親しくされていた頃だろう。
短い取材だったので忘れていたが、とてもお優しい方で感じが良かったのを覚えている。慈善活動を生きがいにされていて、王太子殿下との関係も順調だったのだろう。とてもお幸せそうだった。
「そう。だから貧民街にはよく出入りをされていた。ただ、ひとりであんなところに行けば、強盗に遭う危険があるのは、シャルロッテ様もわかっていたと思うのだが……」
いや、あの人はひとりでも行きかねないかもしれない。根拠はなかったが、あの人は、お優しすぎて、何かがあれば自分のことよりも、他人を優先するような方だと思った。もし貧民街で誰かが困っていたなら、自分の危険など考えずに、そこに向かうこともありえたのではないか。
※
レオポルド殿下とアマーリエ様の婚約破棄の続報記事が「王都新報」に掲載された。
私は、殿下のお言葉のとおり、アマーリエ様の隣国の王家との縁談が理由だとその記事に書いた。
けれど、私には何か釈然としない思いが残っていた。
私は目の前に積まれていた紙の束を呆然と眺めていた。
それは「王都新報」の読者からの投書で、私の記事について宛てられたものだった。
私の記事に対する批判的なものも多かったが、意外な観点から私の記事が読まれていることもあり、投書を読むのは好きだった。
私は何気なくその紙の束を手に取り、漫然と目を通していった。
そして、ひとつの投書が私の目を止めた。
その投書の差出人として書かれていた名前は——シャルロッテ・リーベナウ。
つい先日亡くなったシャルロッテ様が、私に投書をしてきていたのだ。
慌てて私はその紙を開き、その内容に目を通した。
その内容に、私はあまりに強い衝撃を受け、二度、三度と読み返した。
そしてしばらく放心した。
「おい、マレーネ!」
そのとき、新聞社に大声が響いた。
ヴィクトールだ。
「犯人らしき男が捕まった」
「えっ……?」
私はそのヴィクトールの報告に耳を疑った。
「貧民街の男で、シャルロッテ様の宝飾品を質に入れようとしていたところを取り押さえられたんだ」
「嘘でしょ……」
シャルロッテ様の手紙と、その殺害犯らしき男が捕まったという知らせに、いよいよ私はどうしたらいいのかわからなくなった。
※
どうしてよいのかわからなくなった私は、王宮に取材の申請をした。
思い切った行動だったが、そうすると決めると、それ以外に取るべき行動はないようにすら思えた。
王宮からは、婚約破棄に関する取材はもう受け付けないと言われたが、「王都新報」に届いたシャルロッテ様の手紙をお見せしたいと伝えたところ、取材の許可が下りた。
「レオポルド殿下、記者のマレーネ・ホフマンです。本日はよろしくお願いいたします」
私が取材を申し込んだ相手は、レオポルド殿下だった。簡単に許可が下りるとは思っていなかったが、殿下が私の取材を受け入れたことを考えると、やはりシャルロッテ様のことは今でも心のどこかに残っていたのだろう。
「挨拶はいい。シャルロッテの手紙というのは?」
「こちらです」
私は手紙を差し出した。
レオポルド殿下が手を伸ばし、その手紙を手に取った。
「ああ……」
殿下が手で口を覆った。
「間違いない。シャルロッテの字だ」
一字一句完全に記憶してしまうほど、私はその手紙を何度も読み返していた。
そこにはこう書かれていた。
マレーネさん
以前、あなたが私に、慈善活動のことで取材してくださったことを覚えていらっしゃいますでしょうか? あれから、あなたの記事はいつも読ませていただいていました。私はずっと、あなたは信頼できる記者の方だと思っており、ご迷惑になることは承知で、あなたにこの手紙を託させていただきます。
私は、誰よりもレオポルド殿下の幸せを祈っております。
そのために、私はいないほうがよいのではないかという思いが日に日に強くなってまいりました。かつての恋人の私が生きていると、婚約者のアマーリエ様にあらぬ疑いをかけられ、レオポルド殿下が肩身の狭い思いをしてしまうのではないかと。
いえ、それは言い訳かもしれません。私自身が、レオポルド殿下と一緒にいられない現実に、耐えられなくなった気持ちが強くなってきています。
だから私は、この世界からいなくなろうと思います。
ただ、私が自死したことが殿下のお耳に入ったら、殿下を無為に苦しめてしまうのではないかと悩みました。だから、それが私の選択したことだとは殿下に知られたくないのです。
あなたにだけこの秘密を打ち明けて、都合の良いことを申し上げますが、この手紙の内容は誰にも見せないでいただきたいのです。
ただひとつの例外を除いて。
それは、もし誤って誰かが犯人とされてしまったときです。私のせいで、無実の方が冤罪となることだけは避けたいのです。その場合に限ってのみ、私が自死したのだと公にしてください。
ただ一度だけお会いしたあなたに、こんなお願いをして申し訳ございません。こざかしい女とお思いかもしれません。
ですが、レオポルド殿下の幸せを祈る気持ちだけは決して嘘はありません。私はレオポルド殿下を心から愛しておりました。殿下との日々の思い出は、天に召されてからも私の宝物になるでしょう。その殿下には、どうしても幸せな人生を送っていただきたいのです。
その気持ちだけは、どうか汲み取っていただければと思います。
シャルロッテ・リーベナウ
手紙を読み終えたレオポルド殿下が顔を上げた。
「マレーネ……と言ったか。君はシャルロッテにずいぶん信頼されていたのだな」
「他に思い浮かんだ者がいなかったのではないでしょうか。同じ女だということもあると思います」
それは謙遜でもなく、私の本心だった。
なぜシャルロッテ様が私を信頼してこの手紙を出してきたのか、私にはわからなかった。
「シャルロッテと離れ離れになったのは、もちろん政治的な判断のためだ。王家はリーベナウ伯爵家よりも、エルレンブルク公爵家との関係を結ぶことを優先した。私がアマーリエよりもシャルロッテを想っていることなどお構いなしにな。
……シャルロッテが死んだと聞いたとき、ひょっとしたら彼女が自死したのではないかと、そんな考えが頭をよぎった。たとえ殺されたのだとしても、彼女はあえて自分から請うて殺させたのではないかと。だからこの手紙を読んでもそこまで驚かん。
不思議なものだな。強盗殺人の可能性が高いと言われていたのに」
「私は、シャルロッテ様が誰かに自分を殺させたとは思いません。誰かに罪を負わせるなど考えそうな方ではないと思います」
「君の言うとおりだ。彼女はそんな女ではないな」
「はい、自ら死を選ばれたのだと思います」
「俺のためにか……。ばかな女だ……」
レオポルド殿下の頬に、涙が一筋流れていた。
「私が殿下にこの手紙をお見せしたということは……。どういうことかおわかりですね?」
「……シャルロッテ殺害の犯人として捕まった者がいるのだな?」
「はい。おそらくシャルロッテ様は、亡くなる前に、ご自身の財産を貧民街で困窮している者たちに渡しておりました。それが証拠となり、その中のひとりが強盗殺人を犯したとされたのです」
「シャルロッテは心の優しい女だった。その優しさが仇となってしまったか」
「はい。ですので、シャルロッテ様の自死を公にする前に、殿下にこの手紙をお見せしておこうと思ったのです」
レオポルド殿下が大きく息を吐いた。
「……シャルロッテが信頼した君に、私とアマーリエの婚約破棄の真実を話そう」
「アマーリエ様の、隣国との縁談というのは嘘なのですね?」
「ああ」
殿下の涙は流れ続け、その声は震えていた。
「シャルロッテが死んだという知らせを受け、私はすぐにアマーリエを呼んだ。そして、私のせいでシャルロッテが死んだとアマーリエに話した。私の心はひどく傷ついていた。その心を抱えたまま、誰かと結婚をすることなどできそうもないと」
「それで、アマーリエ様は何と?」
「アマーリエも聡い女だ。私の気持ちを汲み取ってくれた。自分も、望んだ結婚などではなかった。婚約はなかったことにしようと言ってくれた」
「そうでしたか……。では隣国の話はその後に考えたのですね」
「ああ、本当の理由を隠すためにな」
レオポルド殿下は頭を垂れ、俯いた。
目に見えない、大きな錘を背負っているようにも見えた。
「記事にするならそれでもよい。もうどうでもよくなった」
「……考えさせてください。私はシャルロッテ様にも、殿下にも信頼していただきました。殿下にとっても、亡くなったシャルロッテ様にとっても、最善となることを考えます」
そう言いながらも、私の胸中は複雑だった。
「正直なところ、私は、シャルロッテ様の自死という選択は愚かしいと思いました」
「何だと?」
レオポルド殿下が顔を上げ、私を睨んだ。
「だって、自死だろうが、殺人だろうが、あの方の死こそが、あなたを最も悲しませているではないですか」
「……」
「それでも、私はシャルロッテ様が何よりも殿下の幸せを祈った、その思いまで否定したくはありません」
私の言葉にも、レオポルド殿下は黙ったままだった。
その目はただ、手元の手紙を見つめていた。
※
「マレーネ!」
新聞社に戻るなり、ゲオルク編集長が私を呼んだ。
何を聞きたいのかもわかっている。
「レオポルド殿下の取材はどうだった?」
それを聞きたいですよね。
私は大きな笑顔を作ってみせた。
「はい。すごいですよ。あのシャルロッテ様は自死だそうです」
「何!?」
ヴィクトールも聞きつけて近づいてきた。
「殿下がシャルロッテ様の遺書のような手紙を受け取ったそうで、そこに記されていたそうです。犯人とされた男は冤罪で、間もなく釈放されますよ」
本当は、その手紙は私に宛てられたものだったが、ゲオルク編集長にそれを知られるとややこしくなりそうなので、私は嘘をついた。
「婚約破棄のネタではないのか……。だが、それもでかいネタだ。まあ、よくやった。で、シャルロッテ様の自死の理由は何だ? レオポルド殿下に手紙を宛てたということは、当てつけか? レオポルド殿下はどう思っていたんだ」
「そこまでは教えてもらえませんでした」
「そうか……。まあいい、面白おかしく書いておけ」
「はい、編集長」
ゲオルク編集長に答えてから、ヴィクトールにも声をかける。
「ヴィクトール、シャルロッテ様の事件の詳細な情報も必要だから、記事を書くのを手伝いなさい」
そう言って私はヴィクトールの手を強引に引いて、会議室に連行した。
格好をつけて殿下には任せておけというように言ったものの、私はどうしてよいのか迷っていた。
だから、シャルロッテ様が信頼を寄せた私に秘密を明かしたように、私も、私が信頼するヴィクトールにだけ、シャルロッテ様の手紙を見せ、すべてのことの真相を教えて巻き添えにした。
「聞かなきゃよかったぜ」
「もう聞いちゃったんだから観念しなさい。どうしたらいいと思う? 新聞社の利益なんて忘れて。シャルロッテ様と殿下にとって最善となる記事はどんなもの?」
「なあ、マレーネ。おまえは俺たちの仕事は何だと思う?」
「王都で起こったことを人々に知らせることよ」
「おまえは王都で起こったひとつひとつの出来事をすべて伝えるつもりか? おまえが昨晩食べた食事の内容や感想も?」
「昨晩は食べていないわ」
「じゃあ、食べなかったことを書くのか?」
「書くわけないじゃない。ばかばかしい」
「そうだ。俺たちは、人々の耳目を集めそうなことを選別して書いている。人々の心を動かすようなこと、あるいは生活に影響が出そうなこと、あるいは危険が及ぶ可能性があるようなことを選んで書いているんだ」
「そうよ。だから今回も何を書くか相談しているんじゃない」
「俺はな、俺たちが書いちゃいけないこともあると思っている。たとえば、それを書いたことで、不当に大きな不利益を被る者がいる場合は書いてはだめだ」
「だからそんなことはわかっているわよ」
「じゃあ、おまえももうわかっているだろう。こんな重いネタを話しやがって。すべて書けば、『王都新報』の過去最高の売り上げになるかもしれないぞ」
「婚約破棄の真相が、レオポルド殿下のシャルロッテ様への未練だった、なんて書けばね。この記事を読んだ人々は、レオポルド殿下を嘘つきで身勝手だと罵るか、シャルロッテ様の想いを尊いと思うか、あるいは愚かだとやはり罵るか。いずれにせよ、好き勝手話されて、やがて飽きて次の事件を求めるのよ。
でも、レオポルド殿下にとっては一生忘れられない出来事でしょうね。シャルロッテ様にいたっては、亡くなってからも忘れていらっしゃらなそうだもの」
「そうだ。人々の一時の慰みものにして、レオポルド殿下を王都の人々の心ない言葉の的にして、シャルロッテ様の想いを汚してしまうのか、あるいは二人の想いを王都中の噂話のネタにはせず、二人だけのものとしてそっとしておくのか。どちらがおまえにとって正しい選択なんだ?」
相談はしたものの、本当は私に迷いなどなかったと思う。どうするかなどもう決めていたのだ。
ただ後押しが欲しかった。
「やっぱりあんたは頼りになるわ」
「まったく……。時間の無駄だったぜ。俺はまた次の取材があるから行くぜ」
「ありがとうね」
ヴィクトールは私に背を向けて、ただ右手を上げて私に見せた。
※
翌日、「王都新報」にシャルロッテ様が自死であったとする記事が掲載された。
人々は、シャルロッテ様がレオポルド殿下への未練を断ち切れずにいただとか、貧民街の惨状に絶望していたのだとか、好き勝手に推測したが、レオポルド殿下の婚約破棄との関連を推測するような声は大きくはなかった。
少なくとも、レオポルド殿下を非難するような声はほとんどなかったと思う。
そして、私の記事以上に、ヴィクトールが新しく書いた別の侯爵令息の醜聞のほうが、王都ではずっと話題になっていた。
昨日まではレオポルド殿下の婚約破棄や、シャルロッテ様の殺人犯らしき男の話題でもちきりだったにもかかわらず。
記者として、知っている事実を伝えなかったことがゲオルク編集長に知られたら、こっぴどく叱られるだろうな、と思いながら、私は隣にいたヴィクトールに笑みを向けた。
「ヴィクトール、面白い記事を書いてくれたわね。ありがとう」
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
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