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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 最初のメインターゲット 大魔導士、ウィザー=アルヴァレン編

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第9黒 復讐対象:元勇者パーティの魔導士ウィザー

 

 ヴァルディスを離れた夜。

 月は雲に隠れ、街道は黒い絹の帯のように静まり返っていた。


 リィナ、シルフィ、カイゼルの三人は、音を殺して進んでいた。

 馬も使わず、ただ影の中を滑るように歩く。


「次は……あの女ね。」


 リィナは歩みを止めず、低く呟いた。

 脳裏に浮かぶのは、オルフェンの書斎で見つけた封筒の中身。


 細密に記された住所。魔導通信の記録。

 王国魔法協会の内部構造の簡略図。


 すべてが一本の線で繋がっていた。


 ――ウィザー=アルヴァレン。


 かつて背中を預けた仲間の名。


 リィナの赤い瞳が、わずかに細められる。


「影が……騒いでますよぉ。」


 シルフィが耳元で囁く。


「この街……嫌な気配が多いですねぇ。隠してるつもりでも、全部見えてますよぉ。」


 リィナは短く頷く。


「ここに住む者も、奴らと変わらない……」


 赤い瞳が周囲を走査する。


 窓に残る魔力の残滓(ざんし)

 警備兵の巡回の間隔。そして通行人の表情。


 すべてが情報となり、頭の中で組み上がっていく。


 やがて街の中央に、巨大な塔が姿を現した。


 王国魔法協会の象徴。夜空に突き刺さる白い塔。


 青と白の旗がはためき、結界の淡い光が外壁を覆っている。


 だが、その輝きはリィナの目にはただの檻にしか見えなかった。


「……この塔にいるですねぇ。上級魔導士が。」


 シルフィが影の中から呟く。


「警備は厳重。巡回も多い。けど……影の通り道は残ってますよぉ。」


 カイゼルは上空に浮かび、結界の波動を解析していた。


「ほう……多重防御か。

 外壁結界、警戒感知、魔力識別……なかなか用心深い。」


 口元が愉快そうに歪む。


「だが、綻びはある。天才というのは往々にして、己の力を過信するものだからな。」


 その後、三人は街の各所で情報を集めた。


 酒場の隅。露店の裏。

 路地裏の手引き屋。


 断片だった噂が次第に輪郭を持ち始める。


「……昨夜も協会に戻ったらしいぜ。」


「研究室に籠りっぱなしだとよ。」


「詠唱なしで魔法を使う研究とか……正気じゃねえ。」


 そしてウィザーが協会内で秘密裏に魔法を研究していること、

 日常的に魔力結界を張り、魔法障壁で侵入者を防いでいることを確認する。


 リィナの瞳に冷たい笑みが浮かぶ。


「……知りたいことは、全部分かったわ。」


 そのときだった。


 夜の街を歩く彼女たちの背後で、微かな足音が混じる。


 一定の距離を保ち、決して近づかない影。


 シルフィの声が闇の中から響く。


「……あの小男、怪しいですよぉ。」


 リィナは振り向かない。


「魔法協会に売る気ですねぇ。

 さっきから記録を書き続けてます。」


 小男は袋を抱えながら、必死に尾行していた。


(やっぱりだ……黒のカサブランカ……!)


 額に汗が滲むが、口元は歪んでいる。


(これだけの大物の情報……一生遊んで暮らせるぞ……!)


 その瞬間。


「…そこの男、止まりなさい。」


 氷のような声。


 小男の背筋が凍る。


 振り返った瞬間、赤い瞳と目が合った。


「ちっ……バレた!」


 彼は一目散に走り出す。


 急いで負うリィナ達だが入り組んだ路地に加え、

 相手は土地勘もあり中々捕らえることが出来ない。


「面倒だな……殺すか?」


 カイゼルが冷たく言う。


「だめよ。」


 リィナは即答した。


「ここはアイツらの縄張り。騒ぎは避けたいわ。」


「だが…逃げられてたら元も子もないだろう?」


 ――その時。


 路地の闇が裂けるように、複数の影が現れた。


 黒衣の集団が音も無く小男を包囲する。


「――心配無用。情報は渡させぬ。」


 小男は膝が震え、その場に崩れ落ちた。


 取り囲まれた恐怖で声が裏返る。

「お、おい、待て!俺はただの住人だ!」


「我々はレジスタンス……残念だが既に調べはついている。

 お前を放っておけば、あの連中に情報が渡る。」

 リーダー格の人物が静かに続ける。


「や、やめろ……!」

 小男は袋を抱え、必死に後退する。

 だが、黒衣の影が左右から迫り、逃げ場は完全に塞がれていた。


「く、くそ……どうすれば……!」


 リィナは一歩踏み出し、冷たい声で問いかける。

「お前が魔法協会について知ってる情報、全部吐きなさい。そうしたら命だけは助けてあげる。」



 小男は必死に抵抗するも、影に覆われた路地では逃げ場はない。

「……わ、わかった……!」



 小男は怯えきって座り込み、震える声で告白を続けた。


「そ、その……ウィザー……魔法協会の大魔導士とは……

 繋がっている貴族がいるんです……研究に資金を出していて……

 研究内容にも詳しい……」


 リィナは微動だにせず、赤い瞳を鋭く光らせる。

「……名前は?。」


 小男は顔を歪め、恐怖で言葉を絞り出す。

「オルベール……オルベール=カインハート子爵です……!」


 その名を聞いた瞬間、リィナの体に冷たい血が流れるような感覚が走る。

 目の奥で怒りが赤く燃え上がり、呼吸は浅く、剣を握る手に力が入り、微かに指先が震える。


「……オルベール……」

 吐き捨てる声は、憎悪の塊だった。


「……あの時、私を裏切った……あのクズか……」


 闇の魔装がざわめき、暗黒紋章が血のように光る。


 影が周囲に広がり、街角の闇がさらに深く沈む。


 リィナは振り返らず、低く冷たく言い放つ。

「……次に会うとき、オルベール……あんたの全てを奪う。」


 その言葉は、決意ではなく――確定した未来を示しているようだった。


 リーダー格の人物が思わず息を呑む。


「……その怒り、只者ではないな。」


 小男は顔面蒼白、袋を抱きしめたまま、唇を噛みしめ震える。


 リィナの赤い瞳が、夜の街の闇に深く沈む。


 復讐は、もう止まらない。


 まずはウィザーに手を貸す裏切り者――オルベール=カインハート子爵。

 その後は貴方よ。――ウィザー=アルヴァレン。

 

 ――貴方はそう簡単には殺さない。じっくり地獄に落としてやるわ。


 闇の中で、黒百合の影が静かに歩き出す。


 その足音を聞いた者は――誰もいなかった。

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