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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第43黒 鎖は断たれた――竜人ゼルヴァ=グレゴール

 

 竜人が地面を蹴った瞬間、空気そのものが悲鳴を上げた。

 大地が抉れ、爆ぜた土砂が後方へ弾け飛ぶ。

 その巨躯はまるで砲弾。一直線に、リィナへと突き刺さる。


 だが――


 リィナは、一歩も退かなかった。


 真正面から、その突進を受け止める。


 轟音と共に足元が砕ける。

 衝撃が骨を軋ませ、腕に鈍い痛みが走る。


 それでも。


 剣は、折れない。

 意志も、揺るがない。


「……強いわね」


 押し合う刃と爪。火花が散る。

 互いの力がぶつかり合い、空間が歪む。


「でも……」


 リィナの瞳が、わずかに細まる。


 魔力が、静かに膨れ上がっていく。


「縛られたままじゃ、半分も出せてないでしょ?」


 竜人の動きに混じる“鈍り”。

 本来の力が、何かに抑え込まれている違和感。


「リィナ!胸の核を狙って!それを壊せば制御は切れるはずよ!」


 ヴェルミナの声が、戦場を裂く。


 リィナの視線が滑る。


 ――見つけた。


 竜人の胸部。

 肉と鱗の隙間に刻まれた、異質な光を放つ魔法核。


「……あれね!」


 次の瞬間、リィナの足が地を蹴る。


 同時に――

 シルフィの姿が、影へと溶けた。


「周りの雑魚は任せてくださいねぇ」

 囁くような声。


 その直後、帝国兵の首が、音もなく宙を舞う。

 気づいた時には、すでに遅い。


 影が通った後には、静かな死だけが残る。


「お前の好きにやれ」


 カイゼルが笑いながら敵兵を斬り裂く。

 その動きは荒々しくも的確で、リィナの進路を開く。


 道は整った。


 あとは――斬るだけ。


 リィナの剣に、闇が集束し

 黒い花弁のような魔力が、刃を包み込む。


「その枷を――断ち切る!」


 《黒花絶断(ブラック・ブロッサム)!!》


 黒い軌跡が空を裂き――


 鎖が、断ち切られた。


 同時に。


 魔法核が、砕け散る。


 ――静寂。


 一瞬だけ、世界が止まる。


 そして。


「――――ッ!!」


 咆哮。


 内側から爆ぜるように、魔力が溢れ出す。

 抑え込まれていた奔流が、一気に解き放たれる。


 竜人の瞳に――光が戻る。


 荒い呼吸。

 肺が空気を求めるように上下する。


 ゆっくりと、自由になった腕を、握る。


「……はぁ……」


 低く、吐き出す。

 その視線が、ゆっくりと帝国兵へ向けられる。


「貴様ら……」


 声は低い。だが、その奥に渦巻くのは明確な怒り。


「よくも……」


 次の瞬間。


 振るわれた一撃が、空間ごと叩き潰した。


 帝国兵がまとめて吹き飛び、建物の壁へと叩きつけられる。

 骨の砕ける音すら、衝撃に飲み込まれる。


 もはや制御はない。


 あるのは――純粋な力。


 そして、意思。


 竜人は、ゆっくりとリィナへ向き直る。


「なぜ、…解放した?」


 低く、問いかける。


 リィナは、淡々と答える。

「気に入らないからよ」


 迷いのない言葉。


「縛られて、使われてる姿が」


 一歩、近づく。


「見ていて……腹が立つ」


 理由は、それで十分だった。


 沈黙。


 竜人はしばらくリィナを見つめ――


 ふっと、笑う。


「……良い目をしている。強者の目だ」



 リィナは問い返す。


「あなたは、このあとどうするの?」


 竜人は空を見上げる。


 燃える町。崩れた建物。


 そして、自分の手で壊した光景。


 一瞬だけ、目を細める。


 だが――


 迷いはない。


「……決まっている」


 拳を握る。


「帝国を……潰す!!」


 断言。


 そこに揺らぎは一切ない。


 リィナの口元が、わずかに歪む。


「奇遇ね。私もよ」


 その声音は、どこか愉しげですらあった。


「良かったら……一緒に来ない?」


 静かな誘い。



 一瞬の沈黙。


 そして――

 竜人が名乗る。


「……ゼルヴァ=グレゴール」


 金の瞳が、まっすぐリィナを射抜く。


「竜人の戦士だ」


 リィナもまた、名乗る。


「……リィナ=エーベルヴァイン」


 赤い瞳が応える。


「復讐者よ」


 視線が交差する。

 互いの本質を、理解する一瞬。


 ゼルヴァは頷いた。


「いいだろう」


 一歩、前へ出る。


「その復讐――共にやる」


 契約ではない、ただの“合意”。


 だがそれは、何より強固だった。


 カイゼルが低く笑う。

「面白くなってきたな」


 血の匂いの中で、愉悦を隠さない。


 シルフィが柔らかく微笑む。

「新しい影、増えましたねぇ」


 その声は穏やかだが、どこか楽しげだった。


 ヴェルミナが小さく呟く。

「竜人の戦士……戦力には十分ね」


 リィナは、帝国の方角を見る。


 遠く。すべての元凶がある場所。


「行きましょう、帝国へ。」


 その声は静かで――


 確実に、燃えていた。


 燃え残る町の向こう、黒煙の先にある帝国へ。


 復讐は、終わらない――


 ここから、さらに深く沈んでいく。


 その背に、仲間を増やしながら。


 まるで、奈落へ落ちるように――


 それでも、止まらない。


 止まる理由など、どこにもないのだから。



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