第41黒 ”正義”を壊しに、復讐の花は帝国で咲く
――翌朝。
崩れた協会に朝の光が差し込む。
静まり返った空気の中、リィナは刃を拭っていた。
「朝は嫌いですかぁ?」
シルフィが隣にしゃがみ込む。
「……そうでもないわ」
短い返答。
「ただ――現実を突きつけられるだけ」
カイゼルが歩み寄る。
「湿っぽいな。勝者の顔ではないな。」
リィナが淡々と話す。
「勝てば終わり、そんな戦いじゃないでしょ?」
「ハハッ…違いないな。」
カイゼルが不敵に笑う。
ヴェルミナが口を挟む。
「…相変わらず、あなたらしいわね。
でも気を張り過ぎるのは良くないわよ。」
そこへライラが現れる。
「……少し話がある」
差し出されたのは黒い徽章。
「ウィザーの私物のようなのだが……」
ヴェルミナが覗き込む。
「……魔術刻印。かなり古いわね」
「調べた結果、協会は単独じゃない」
ライラが続ける。
「裏に“誰か”がいる」
リィナの視線が鋭くなる。
「帝国の人物に繋がっている…」
ライラが名前を告げようとした瞬間――
「……言わなくていい」
リィナが遮り、全員の視線が集まる。
「知っているわ」
徽章を見つめ、静かに言う。
「その紋章……あいつのものよ」
一瞬の沈黙。
そして――
「ビション=ヴァルテス」
空気が凍る。
シルフィが小さく首を傾げる。
「知り合い……ですかぁ?」
リィナはわずかに目を細める。
「知り合いなんて、生易しいものじゃない」
低く、冷たい声。
「かつての“仲間”よ」
その一言で空気が変わる。
ヴェルミナの目が細まる。
「……へえ」
リィナは続ける。
「ウィザーと同じ、”パーティ”の一員だった」
「魔王討伐の中核を担った男よ。」
カイゼルが口元を歪める。
「ほう……あの男か」
シルフィが興味深そうに笑う。
「強いんですねぇ?」
リィナは即答する。
「ええ。間違いなく“最強格”の一人だった」
一拍。
「……だからこそ」
その声に、わずかな憎悪が混じる。
「……許せない」
空気がさらに重くなる。
ヴェルミナが静かに呟く。
「裏切り……ね」
リィナは否定しない。
「すべてを奪った張本人の一人よ」
「力も、名誉も……居場所も」
シルフィの瞳がわずかに揺れる。
「……なるほどですねぇ。
壊す価値、ありそうです」
カイゼルが低く笑う。
「相手にとって不足はないな」
そして少しだけ真顔になると
不快そうに吐き捨てる。
「俺と対峙した時、あいつは笑っていた。
“正義の理想”を語りながらな」
ヴェルミナが興味深そうに言う。
「理想主義者ってこと?」
「違うな」
カイゼルは即座に否定する。
「あれは“選別する側”の人間だ」
「正義を振りかざしながら、不要なものを切り捨てる」
リィナの目がわずかに揺れる。
「……ええ」
静かに同意する。
「だから私を捨てた」
一瞬の沈黙。
そして――
リィナは剣を握る。
「行くわ」
誰も止めない。
「帝国へ」
赤い瞳が冷たく光る。
「ビション=ヴァルテス」
その名を噛みしめるように。
「あなたが築いた“正義”――」
「全部、壊してあげる」
そして、静かに言い放つ。
「そして、あなたに奪われたもの全てを返して貰うわ…」
朝の光の中。
そこに立つのは――
復讐の魔王。
黒百合の女帝だった。




