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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 二人目のメインターゲット 大司祭、ビション=ヴァルテス編

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第40黒 ビション=ヴァルテス――その光、救いにあらず

 

 帝国教団――聖灰(せいかい)教団本部。


 白と金に彩られた聖堂。


 天井は高く、柱は天へ祈るように伸びている。

 余計な装飾はない。

 ただ“純粋さ”だけを象徴する空間。


 静寂が支配していた。


 音がないのではない。

 音が“許されていない”。



 息をすることすら、どこか罪深く感じるような――

 そんな圧が、空間そのものに染みついている。


 その中心に――


 大司祭ビション=ヴァルテスは立っていた。


 ただ“そこにいる”。


 それだけで――

 空気が、緊張する。


 存在そのものが“規律”だった。


 その前に、ヴァレンが片膝をつく。


 形式としての忠誠。

 だがその内側には、明確な“遊び”が混ざっている。


「報告を」


 静かな命令。


 声量は小さいが――逆らう余地は、一切ない。


「はっ」


 ヴァレンが口を開く。


「蒼光協会――壊滅」


「ウィザー=ヴァレンタイン……死亡」


 空気が、わずかに沈む。


「討ったのは黒のカサブランカ――”リィナ”」


 沈黙。


 音が消える。


 ビションは、ゆっくりと目を閉じる。


「……そうですか」


 穏やかな声。


 肯定でも否定でもない。


 ただ、受け取ったというだけの響き。


 ――その直後。


 ほんの一瞬だけ。


「……リィナ」


 零れるように。


「……生きていたんですね」


 それは驚きか。


 それとも確認か。


 だが――

 完全な無機質でもなかった。


 その余韻すら、すぐに切り捨てるように。


 ビションは再び、静寂へと戻る。


「そしてウィザーの敗北……」


 小さく、呟く。



「やはり……」


 結論に至るまでの、わずかな間。

 口元が、ほんの少しだけ歪む。



「甘かった、ということですね」



 情はない。


 惜しむ色もない。


 先ほどの“揺らぎ”は、すでに消えており、

 ただ“評価”として切り捨てる。


 ヴァレンが楽しげに笑う。


「お仲間だったんじゃないんですか?」


 ビションは、視線すら動かさずに答える。


「かつて、ですよ」


 その一言で、過去は切断される。


「過去の関係に意味はございません」


 温度のない声。

 記憶はあっても、感情はない。


 ――いや。


 “必要な分だけ、切り離している”。


 ゆっくりと目を開く。


「重要なのは――“結果”のみ」


 絶対の物差し。


 ヴァレンが肩をすくめる。


「で、その“結果”ですが……」


「次に狙われるのは――”()()()”かもしれませんよ」


 にやりと笑う。わずかな挑発。


 だが。


 ビションは――


 微笑む。


 それは優しさではない。


 “確信”の形をした微笑。


「ええ、来るでしょうね」


()()は、そういう人間です」


 かつてを知る者だけが持つ、確信。


 理解している。


 思考も、行動も、その果ても。


「ですが――」


 一歩、踏み出す。


「問題はございません」


 静かに。


 絶対的に。


「私の相手ではありませんので」


 その一言で。


 場の支配権が、完全に確定する。


 抗うという発想そのものが、意味を失う。


 ヴァレンが、わずかに目を細める。


(これは……本物だな)


 遊び半分の興味が、わずかに“警戒”へと変わる。


「力とは、秩序のためにあるもの」


 教義のように。


 だがそれは、信仰ではない。


 “確信”だ。


 「感情に振り回される者に――

 勝機など、ございません」


 洗練された儀式のように。

 淡い光が、指先に宿る。


 神聖な輝き。


 だが――


 温かさはない。


 まるで、光そのものが“裁き”であるかのように。


「仮に現れたとしても――」


 視線を落とす。


 そこにいるはずのない“対象”へ。


「裁くだけです」


 絶対の自信。


 そして――


 それが“現実になる”と錯覚させる圧。


 ヴァレンが、くつくつと笑う。


「いいですねぇ……。そういうの、嫌いじゃない」


 だが、ビションは興味を示さず、視線すら向けない。


 ただ静かに告げる。


「準備を」


 それ命令ではない。


 開始の宣言。


「異端の排除を開始いたします」


 その声は――


 裁きそのもの。


 逃げる余地も。

 抗う意味も。


 全てを否定する響き。


「私の光が…」


 完璧に整えられた表情でわずかに微笑む。


「闇を、正しく導きましょう」



 この場にいる誰もが理解する。


 “逃げ場はない”。


 新たな脅威は、既に動き出しているのだと。



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