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黒のカサブランカ ――裏切られし女勇者、闇に堕ちて魔王となる――  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 最初のメインターゲット 大魔導士、ウィザー=アルヴァレン編

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第39黒 祝宴の外側で

 

 やがて、祝宴が始まる。

 酒が配られ。火が強くなる。


「乾杯だ!!」

「勝利に!!」


 レジスタンス達が杯が打ち鳴らされ笑い声が広がる。


 勝利の余韻が、場を満たしている。


 だが――


 その輪の外。


 リィナは、一人で立っていた。


 炎を見つめながら。


 杯は手にあるが、口はつけない。


 揺れる火が、瞳に映る。


 赤い光。


 だが――そこに熱はない。


 (……終わった)


 胸の内で、言葉が落ちる。


 (これで、一つ)


 区切りのはずだった。


 復讐の一つが終わり、何かが変わるはずだった。


 ――だが。


 何も、変わらない。


 胸の奥は、静かなまま。


 達成感も、解放も、喜びも。


 どれも浮かばない。


 あるのはただ――


 薄く、乾いた感覚。


 (……こんなもの)


 自分に言い聞かせるように。


 (最初から、分かっていたでしょう)


 復讐は、何も返さない。


 失ったものは戻らない。


 それでも――


 止まれない。


 止まった瞬間に、空っぽになる気がするから。


 だから、進むしかない。


 それだけだ。


 炎が揺れる。


 その揺らぎの奥に、一瞬だけ――


 “あの人”の姿が重なる。


 (……あなたが生きていたら、

 今の私を、きっと…許さないでしょうね。)


 視線が、わずかに揺れるが、すぐに消す。


 思い出す必要はない。


 思い出しても、意味はない。


 消えない。


 消えないから――


 終わらない。


 リィナは、静かに目を閉じる。


 ほんの一瞬だけ。


 そして、開く。


 そこにあるのは、いつも通りの無表情。


 何も変わらない顔。


 何も映さない瞳。


 ――少し離れた影の中。


 シルフィが、静かに佇んでいる。


 音もなく。気配すら薄く。


 その視線は――ただ一人。


 リィナだけに向けられていた。


 (……やっぱり)


 小さく、心の中で呟く。


 (あの人は、あそこに立つんですねぇ)


 誰とも混ざらず。誰にも寄らず。


 孤独の中に、自然と立っている。



 その時、低い声。


「……終わったか」


 カイゼルが、リィナの隣に立つ。


 騒ぎには加わらない。

 同じ温度の存在。


 リィナは視線を動かさない。


「……ええ」


 短く答える。


 沈黙が流れ、炎の音だけが響く。


 やがて、カイゼルが口を開いた。


「……復讐を果たした感想はどうだ?」


 リィナは、炎を見つめたまま。


 少しだけ、間を置いて。


「……別に」


 乾いた声。


「何も変わらないわ」


 カイゼルの口元が、わずかに歪む。


「……なら、やめるか?」


 一瞬、空気が張り詰める。


 試す言葉。


 踏み込む問い。


 だが――


 リィナは迷わない。


「……いいえ」


 そこに、もう揺らぎはない。


「失ったものは、元には戻らない」


 言葉は静かに、重く落ちる。


「何もしないで、諦めるよりは――」


 ほんのわずか、呼吸を挟む。


「気分が紛れる」


 それが、答え。


 綺麗でも、正しくもない。


 ただの本音。


「それに」


 視線が、わずかに遠くを見る。


 炎の向こう、もっと先。


「復讐は、まだ終わっていない。

 結論を出すのはそれからでもいい」


 確定した未来ではない、だが、止まる理由もない。


 だから、進む。


 それだけだ。


 カイゼルは――


 ふっと笑う。


「……そうか。いい答えだ」


 一歩、離れる。


「それでこそ――」


 振り返らずに言う。


「俺が見込んだ女だ」


 静寂。


 再び、炎の音だけが残る。


 リィナは、何も言わない。


 ただ。


 ゆっくりと杯を持ち上げる。


 その中に揺れる液体を、一瞬だけ見つめる。


 そこに映る自分は――


 何も変わっていない。


 だから。


 一口。


 静かに飲む。


 それは祝杯ではない。


 勝利の味でもない。


 ただの――区切り。


 ここまで来たという、確認。


 そして――

 ここから先へ進むための、無意味な儀式。


 シルフィが、静かに目を細める。


 (やっぱり、貴方はそうでなくては)


 安心したように。


 嬉しそうに。


 そして――


 少しだけ、危うく。


「ふふ……」


 誰にも聞こえない声で。


 (どこまでも堕ちてくださいねぇ)


 その声は、歪んだ、想い。

 シルフィが影に溶ける。


 (あなたとなら、地獄の底だって……ついていきますから)


 完全に気配が消え、炎が揺れる。


 夜は、まだ続く。


 だが――


 リィナの視線は、もうそこにはない。


 見ているのは、その先。


 まだ届かない場所。


 まだ終わっていないもの。


 胸の奥に残る、消えない何か。


 それを抱えたまま――


 彼女は、次へ進む。


 止まる理由など、どこにもないのだから。


 ――リィナの復讐は、まだ終わらない。



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