第37黒 敗者の密書と、最後に笑う影
瓦礫の陰。
人気の消えた魔法協会の一室で――
リオネルは荒い息を吐きながら、棚を漁っていた。
「クソッ……このまま終われるかよ……!」
引き出しを乱暴に開ける。
金貨、宝石、魔導具。
目に付くものを片っ端から袋に放り込む。
「へへッ……これだけありゃ当分は困らねぇな」
だが、その手が止まる。
「ん?…これは」
奥に、ひとつだけ。
異質な封書。
黒い封蝋に刻まれた紋章――
「……帝国?」
眉をひそめながら、封を切る。
中身を開いた瞬間。
「……は?」
視線が止まる。
そこに記されていたのは――
内部報告書。
蒼光協会の機密。
さらに、差出人の名。
――帝国教団直属
大司祭ビション=ヴァルテス
「おいおいおい……」
口元が歪む。
「内通……してたってわけか?」
紙をめくるとそこには
日付、報酬の記載、そして受取人の名。
明確な“取引の証拠”だ。
「はは……はははッ……!」
笑いが漏れるのを
震える手で、それを握りしめる。
「なるほどなァ……」
目が濁る。
「これさえありゃ……」
呼吸が荒くなる。
「帝国に取り入れる……!」
脳裏に浮かぶのは――
金。地位。安全。
「逃げる必要すらねぇ……」
ニヤリと笑う。
「むしろ上に行けるじゃねぇか……!!」
その時――
「……へぇ」
背後から、声。
「いいもの見つけたな」
「……え?」
リオネルの思考が止まる。
振り返る。
そこに――
ヴァレンが立っていた。
いつからいたのかも分からない。
音も、気配もなかった。
「な、なんで……」
言葉が続かない。
ヴァレンは、ただ笑う。
「それ、困るんだよな」
一歩、近づく。
「僕の“商売道具”だからさ」
次の瞬間。
ズブッ――
「が……ッ!?」
短剣が、既に腹を貫いていた。
何も見えなかった。
何もできなかった。
「な……に……」
膝が崩れ、力が抜ける。
ヴァレンは、淡々と告げる。
「知られたからには――死んでもらうよ」
血を流しながらリオネルが倒れ、
手から密書が滑り落ちる。
「く……そ……」
そのまま、動かなくなる。
ヴァレンはしゃがみ込み、紙を拾い上げる。
軽く目を通す。
「……ウィザー…。やっぱり繋がってたか」
興味なさそうに、それを懐にしまう。
「さて……」
小さく呟く。
「ウィザーも死んだ以上…僕も動くとするか」
振り返らず、ただ歩く。
「くくく……」
低い笑い。
「最後に笑うのは――僕さ」
闇に溶けながら。
――その姿は、完全に消えた。




